CODE0:魔術師
上から落ちてくる透明の粒は、淀んだ雲をすり抜けたわずかながらの光を通し、僕の目にその存在を示す。
粒は小さいのから大きいの。その一つ一つが鉛直下向きに9.8[m/s^2]という加速度で加速しながら、降り注ぐ。
その様はさながら、僕の晴れそうもない曇りきった心そのもの。
あの日、楽しかった日常と、世界そのものが音も立てずに、突如として崩壊した。
世界は壊れても異常をきたす異分子を排除し、クリアな、新しい世界として鼓動を再び刻み始めた。
* * *
そこら辺にいる平凡な魔術師。
それこそが僕の周りからの評価。大した才能や、大魔術師の家系でも彼らの血が通ってる訳でもなく、普通の一般家庭に生を受け、近所のガキ共とたわむれ、腐れ縁の幼馴染とバカをやっては大笑い。
本当に平凡でどこにでもいるような尻の青いガキだ。
ま、僕のことはひとまず置いておき、今日は僕らが通う”吾妻禊第二中学校”の始業式の日であり、いまは親友の家の前でそいつを待っている訳だが、いかんせん奴は遅いのだ。
食事に着替え、走りに起床。ましてやトイレさえも遅いと来た。だが女に関しては目ざとく、誰よりも早く行動するので性質が悪い。
去年から愛用している細めの腕時計に目を落とすと8時30分である。
額から滝の流れの如く汗が流れ出す。この滝というのは比喩ではない。本気と書いてマジだ。
僕は慌ててチャイムを鳴らす。
焦る僕の心と対照的に機械的な間延びした音が、外に立っているこちらにも聞こえてくる。ああ早くしてくれ。
こんな時ほど時間が遅く感じることはない。今か今かと全身をめぐる血がにわかに温度上昇を続けている。
「あら祐君いらっしゃい。」
「涼香さんおはようございます。智裕、起きてますか?」
玄関から姿をあらわしたのは我が親友、大島智裕ではなくその母涼香さんである。
日の光に映える艶やかな黒髪をした女性。このような人を大和撫子と呼ぶのだろう。
美しい立ち姿を見てか、なりっぱなしになっていた心臓も幾分か収まってきたようだが、次の瞬間には溢れかえらんばかりの怒りとともに、心臓も早鐘を打ち鳴らすのだ。
「智ちゃんなら大分前に出てったわよ。」
一瞬時間が止まった。しかし時計は時を刻み、只今35分。完璧に遅刻である。
僕はとりあえず駆けだした。
智裕への怒りを抱えて。




