魔法使いの適性
応対してくれたのはすいていた列を担当していた看護婦だった。
「初診ですか」
「いえ、再検査です」
「そうですか、ではこちらに身体情報と個人情報をご記入の上、規定料金の20ギルをお支払いください」
「はい」
問診票をすべて書き終えた後、最悪の事態に気づいた。財布の中には10ギル札が一枚と、小銭を集めて、7ギル。あわせて17ギルしか入っていなかったのだ。
「しまった、どうしよう……」
ルカが困り果てていると、そばで親戚の子供の検査に付き添いできていた男性が、声をかけてくれた。
「君、どうしたの」
「あ、あの、3ギル足りなくって」
「あぁ、再検査の人ね。いいよ、3ギルくらい俺が出してやる」
「ホントですか! ありがとうございます!」
男性は若く、たくましい感じの人で、話によれば有名な国立魔法大学の学生さんだった。戦闘要員としての魔導師ではなく、もっぱら魔法の研究ばかりを行いがちな学者肌の学生が集まる魔法大学の中で、ルカが唯一尊敬している、魔法医療士を目指しているらしかった。
「――はい、手を出してくださいねー」
魔力液をためたパックと、注射針が直結している。看護婦はルカの手首にそれを刺し、しばらく待っていてください、と言い置き、背後の仮設テントの中に戻っていった。
「魔法医療士といったら、戦場で傷ついた兵士たちの治療を行う、魔法医療のスペシャリストじゃないですか! すごいなぁ」
「いや、なに、目指していると言うだけで、本当になれるかは分からないよ。国家試験を合格しなけりゃ、ただの人だからね」
「そっか、そうですよね、現役合格率が10パーセントだとか言われているみたいだし、難しいですよね……」
「君はどうして再検査を?」
「あ、えっと……僕は――」
昔の魔力適性検査は精度が悪かったために、現在の検査で改めて魔力適性があると発覚するケースがまれにある。俗に魔法使い、正式には魔導師といわれる高級職の人材不足が叫ばれる昨今、少しでも有用な人材を囲い込むために再検査が実施されるようになったのはここ数年の話だった。
「ある魔法に詳しい人に、もう一度検査してもらった方がいいと言われて……」
「へぇ、まじめだなぁ。有料の再検査を面倒がって、無視している市民が多いというのに。でも、とてもいいことだと思うよ。国も苦境に立たされているし、協力する姿勢が大事だからね」
「はい……」
――しばらくして看護婦が戻ってくると、注射針を抜いて、そこに持ってきた新品の検査パッチを貼り付けた。すぐに白から赤に変色した。
「まぁ、頼もしいこと」
「どうしたんですか」
「こんなに早くパッチが変色するってことは、そうとう魔力の巡りがいいんですねぇ。あなた、しっかり陽性ですよ。魔力適合者です」
ルカは耳を疑った。魔力がなじまない不適合体質だった自分の体の中に、魔力が勢いよく流れているらしいなんてことは、本当に信じがたいことだ。再検査で以前の判定が覆る確率はどれくらいあるのかと興味本位で看護婦に尋ねると、看護婦は言った。
「だいたい10パーセントくらいって言われてますねぇ」
ルカは振り返った。男性は親戚の子供の検査が終わったらしく、すでに帰ってしまっていた。ルカは心の中で、10パーセントなら現役合格は夢じゃない、とつぶやいた。
◇◇
家に帰ってきたルカは、さっそく母親に決意を告げた。
「僕、これから魔導師を目指すよ」
「……え、どういうこと?」
「僕は魔法使いとして、戦場で活躍するんだ。そのために、王立魔法学校高等部の編入試験を受けようと思う」
「あ、あなた、そんなこと無理にきまっているでしょう!? 何を考えているの?」
「僕は本気だよ、僕にはその資格がある」
持ち帰った検査結果の書類を母に見せると、母は開いた口がふさがらないという顔をした。
「編入試験は二ヶ月後。それまでに猛勉強をしないといけない。だから、専属の家庭教師をつけてもらいたいんだ。お願いだ、母さん」
母ケティは思わず頭を抱えた。幼児のときに受けさせた検査が間違っていたのだ。にわかには信じられないが、近所の知り合いの息子さんが同じような状況にあって、のちのち魔法大学に合格して、今は優秀な魔法研究者になっていることを思い出していた。
もし息子がそうなってくれれば、一家の苦しい家計をいくらか救ってくれるかもしれない。そう思い、一縷の望みにかけて、母はうなずいた。
「分かったわ、あなたがそこまでやる気だって言うなら、すぐに手配してあげる。でもその代わり、本気で取り組みなさいね?」
「ありがとう、母さん!」




