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自己紹介

 ボルグ魔法学校高等部の総生徒数は3000人弱。貴族の子息や政界のサラブレッド、経済界の権力者の跡取りなどが在籍するような超名門であり、およそ一般市民の息子、娘が入学できる学校ではない。


 しかし毎年必ず奨学金制度を利用して入学を果たす地方出身の天才が一定数存在する。校内では家柄のしがらみや教育レベルの格差などが問題視されているが、一部の天才はそれを跳ね返すだけの才能がある。あるから、入学が許されている。


「――今日から、僕は魔導師の卵なんだから、頑張らないと」


 夏休みが明け、学校が再開すると、ルカは初登校を迎えた。立派なロマネスク建築の校舎に入っていく彼は緊張しているような、わくわくしているような、あいまいな様子だった。


 編入生はそれぞれの科にあわせてクラスが決められている。ルカは魔導師科の二年で、指定教室はL教室だ。魔導師科の定員は各学年につき120名。選りすぐりの戦闘集団である。編入試験合格者はそのうち20名だった。


廊下を歩いていると、窓の開いた他の教室から生徒たちの視線がルカに集まる。


「おい、あれかな」

「いや、違うだろ、見るからに弱そうだ」


 何の話かは分からないが、なんだかなめられているような雰囲気はあった。ルカは見た目が細身で、自信なさげな表情をすることが多く、下に見られることが多い。それは剣士育成学校にいたときもそうだった。学校というのは、実力者だけが尊敬されるのだ。


 《――ガラガラガラ……》


 教室の戸を開けると、すでに教室は人で一杯だった。ルカはすぐに自分の席に着いた。すると目の前の席の男子生徒が振り向いた。短い茶髪をワックスで固めて、頭頂部がトサカのように立っていた。


「よう、編入生か」

「うん」

「俺はダズ。よろしくな」

「僕はルカ、こちらこそよろしく」

「どこ出身?」

「ラルスってところ、けっこう田舎だけど知ってるかな」

「おぉ、分かるぞ、あそこは空気がおいしいよな。俺もドリューズっていうド田舎出身なんだが、あそこは工場が多くて空気が悪いんだ」

「ドリューズ! 僕の祖父がそこに住んでるよ、行ったことある」


 なんだか話しやすい。いい人かもしれないとルカは思った。すぐに人と話が弾んだのはルカにとって幸いだった。


「それはそうと、ルカ、ここに歩いてくるまでに嫌な目線に会わなかったか」

「え、どうして分かるの」

「金持ちの子供ってのは、往々にして性格が悪い。特にJ教室は魔導師科の中でも裕福な層の人間が集まってるんだ」

「そうなんだ」

「俺は中等部からこの学校にいるんだが、奴ら、勝手なカースト制度を設けていやがる。とくに平民のことをかなり見下してるんだ」

「うわぁ、いやだなぁ」

「その点、このL教室は最高だ、家柄がふつーな生徒が集められてるからな、みんな仲間なんだ」


 チラチラと、周囲の人たちがルカとダズの話している姿をのぞき見しているが、廊下を歩いていたときに感じた嫌らしいものじゃなくて、なんだか優しい注目だった。


「みんな、仲間……」


 剣士育成学校でいじめられていた頃では考えられないことだった。ルカはそのひとことで希望を持つことができた。


「このL教室にはな、編入生はたった二人なんだが、これでも多い方なんだ。ふつうは1か0でさ、メンバーがほとんど変わらない」

「二人? もう一人はだれ?」

「あの子だ。すっげー美人で、いろんな奴が話しかけたんだけど、なんか機嫌悪いみたいで、答えてくれないんだよね」


 ルカがダズの指さす方へ目を向けると、そこには青い髪の美しい女子がいた。あきらかに育ちの良さそうな、高貴なオーラがしていて、ルカは固唾をのんだ。


「緊張してるんじゃないかな」

「うーん、そうかもなぁ」


 そうこうするうち、教官が入ってきて、チャイムが鳴った。教官はぽよんぽよんの腹が出た、縁なし眼鏡の太った男性教師だった。白髪を七三わけにして、とても温厚そうに見えた。てっきり魔導師科の教官と言えば、こわもての恐ろしい人じゃないかと思っていたのだ。


「……えぇー、ごほん。みなさん、ごきげんよう、モルトです。今日はウチのクラスに二人の編入生を迎えております、授業はいつも通りやりますが、何か二人が困ったことがあれば、みんなで助けてあげてください」


《はーい!(女性陣)》

《了解ぁああい!(男性陣)》


 みんな返事が元気で明るかった。モルト教官は持ち前の優しい声で、二人を黒板の前に呼びつけ、ちょっとした自己紹介の時間をくれた。


「あ、あの、僕の名前は、ルカです。数ヶ月前まで地元の剣士育成学校にいました。ら、落第しちゃったんですけど、そこからめちゃくちゃ勉強して、この学校に編入することができました。いろいろこの先不安ですけど、どうぞよろしくお願いします……」


 たくさんの拍手が飛び交った。あがり症で、なにを言っているのか分からなかったけれど、教室に満たされた拍手は温かかった。次に、例の青髪の美少女が口を開いた。


「セレナです……よろしく」


 一言だけだったけれど、男子は大盛り上がりで拍手した。女子は男子のテンションの高さに押され気味だったけれど、セレナちゃんよろしくー、と声をかけていた。



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