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第二話 最強万能の魔法使いは、いきなり敵陣に乗り込みます!

「どうして?」



風の音にかき消されるほど小さく疑問が漏れる。


それは真城の心境を的確に表していた。


学校で田中と別れてからそれなりに時間が経っている。


たとえ全国クラスのバスケ部エースの走力を持ってしても走って追いつくことは不可能だろう。


家が隣同士の真城も田中も徒歩通学なので、自転車ということもない。


そして、それ以上に真城が驚いたのは目の前の光景である。


真城には生まれた時から一緒で、普通の人間であるはずの幼なじみが、巨大な狼を空中で動けなくしているように見える。


まるで魔法のようなことを、なぜ田中が行えるのかが不思議だった。



「アルベルト・バルザール、【獣姫】オリヴィア・リカントロープの配下だな。魔狼使いで、有名な殺し屋だったが、リカントロープのとこの前当主にボコられて忠誠を誓ったとか。」


田中は、庇うように真城を背にし、まっすぐにアルベルトを睨んでいた。


アルベルトが手を叩くと空中に固定されていた狼達が消える。


ここでようやく真城は本当にアルベルトが魔法使いなのかという確証を得た。


同時に、なぜ田中はそんな男と相対し、平然としているのか。


そしてなぜ魔法使いの男のことを詳細に知っているのかという疑問が湧く。



「私の名前を知っているだけでも驚きだが、リカントロープ家に忠誠を誓った時の話すら知っているとは。その話は貴族院でも数えるほどしか知らないはずなのだがね。私の魔狼を簡単に無力化したことといい、何者だ、君は。日本にこれほどの魔法使いがいるなどという報告は受けていない。」



魔法使い。

田中が。


真城は頭の中でプチパニックを起こしていた。


そんな真城を見て田中は苦笑を漏らす。



「何、リカントロープのジジイとは知り合いなものでね。たまにお茶したりチェスしたりするのさ。その時にちょっとな。」



アルベルトは思案する。


聞けばこの男はリカントロープ家先代当主、自らが忠誠を誓った男と友人だという。


しかし、目の前の男はどう見ても10代。


齢300を超える先代と友人などとにわかには信じられない。


それならば、相手の過去を読む、心を読む、などの特異魔法を持っている可能性の方が高い。


だが、もしもの場合自分は殺される可能性すらあるだろう。


つまりアルベルトの下した結論は、



「2人とも連れて帰れば問題はあるまい。」


アルベルトが指を鳴らすと、残った魔狼14体が全方向から一斉に田中に向かって走り始める。


飛びかかるもの、

そのまま体当たりしようとするもの、

噛み付こうとするもの、


決して逃げられないほどの暴力に晒される幼なじみをなんとかしようと立ち上がろうとする真城。


しかし、体に力が入らない。


絶望感に打ちひしがれ、叫ぼうとするが、



時計龍(クロノス)



田中が唱えた一言で、先程と同じように魔狼達が姿を止める。


14体全てである。



「バカな!!有り得ない!!どれだけ強力な魔法であろうとこれだけの数の対象を同時に動けなくするなど!有り得ない!!しかも私は魔法耐性の魔法をかけていたのだぞ!!それが、こんな、」


先程まで紳士然としていた男が大きく取り乱す。


それほどまでにこの状況は衝撃的だった。



「《時計龍》は一定範囲内の指定した対象の時間を操作する魔法だ。麻痺や固定じゃないんだから対象の数が多くてもずっとコストは低い。まぁ麻痺や固定でも出来るけど。」



なんでもないように田中は言う。



「バカな...時間操作なんぞコスト以前に個人が扱える魔法の範疇を超えている...。有り得ない...。」



「そう思うのはお前の無知故だ。魔法耐性を平然と超えてくるんだ、俺とお前に大きな力の差があることくらい測れるだろう。それならこれくらいしてくるか、とか思いなさい。」



最後に武田鉄︎○のモノマネを入れることで強者ムーブを台無しにしていくスタイル。



「大丈夫か、飛鳥。」



周囲が想定より反応してくれなかったことに若干顔を赤くして田中は真城の方へと振り返る。


放っておかれた真城は、先程まで死ぬかとすら思った田中が無傷で戻ってきたことに驚き、思考を停止していた。


だが、数秒後、涙と鼻水を垂れ流し、顔全体をぐちゃぐちゃにしながら先程の魔狼もかくやという速度で田中のみぞおちに頭突きをかます。



「効いた...お前人体の急所を的確に狙ってくるなよ...。」



「ごめんね、ごめん、」



腹部を抑えて悶絶する田中と慌てて離れる真城。


そしてその後ろからナイフを持ったアルベルトが襲いかかる。


突然のことだった。


真城から見れば正面の魔狼の奥にいるアルベルトは軽く30mは離れていた。


それが次の瞬間には2人の所まであと一歩、

いつの間にか手にしたナイフを真城が何かをするより早く突き立てることなど容易いだろうという距離まで来ていた。


そして田中は未だに呻いている。



「私の特異魔法は“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”というものです!油断しましたね名も知らぬ強者よ!私はあなたを精霊の愛し子奪還の最大障害として始末することにしました!」



確かに先程までアルベルトが立っていた30m向こうには動けない魔狼が浮いている。


アルベルトは運良く真城の痛恨の一撃をくらい動けない田中の首に向けてナイフを突き立てようとして──────



《時計龍》



固まった。


逆手に持ったナイフを高々と掲げて止まっている姿は、些か滑稽だと言わざるを得ない。


割りと本当にダメージが通っていそうな田中は、まだ腹部を押さえた状態で立ち上がる。



「アルベルト・バルザール。精霊の愛し子は、特にこの子は人類の手に収まるものではない。」



ゆっくりと近付いた田中は空中で動きを止めるアルベルトの額に指を当てる。


あ、酷いことをしようとしている顔だ。


真城がそう直感し、顔をヒクつかせる程度には田中は悪どい顔をしていた。



「貴族院の本拠地まで送ってやろう。俺は優しいからな。」



だが、と指を鳴らす。



白炎龍(プラチナ)



瞬間、アルベルトの体を白く輝く炎が包む。



「魔力を使って燃える聖なる炎だ。帰る前に1度地獄を見ておけ。」



アルベルトは絶叫を撒き散らす。


アルベルトの体全てを包む炎はまるで生きているかのように蠢く。



「クリエイトウォーター!!クリエイトウォーター!!クリエイトウォーター!!」



転がりながら水を生み出す魔法で白い炎を消そうと試みるアルベルト。


しかし、魔法は発動せず、白い炎は踊るようにアルベルトの体にまとわりついて離れない。



「無駄に抵抗されても困るからな、言ったろ、魔力を使って燃えるって。魔法なんか使おうもんならそれの火力が上がるだけだ。」



田中はどこからともなく取り出した縄でアルベルトを縛っていく。


炎は未だ燃え盛っているが、特別なものに見えない紐も縛っている田中もその影響を受けている様子はないため、対象以外に効果のない炎なのだろうか。


ぐるぐると縛られ、芋虫のような姿になったアルベルトを肩に担いで田中は真城の方に振り返る。


白い炎を背負う姿はそれなりに絵になるものだったが、いかんせん炎の中身がオジサンなのが若干の気持ち悪さを演出していた。


さっき勝手において行ったんだから、

と前置き田中は真城に指を指す。



「すぐ戻る。今度は勝手に動くなよ。」



空間龍(ヤヌス)



そのポーズのまま田中と担がれたアルベルトは消える。


瞬間移動をする魔法だろうということは理解出来るが、理解出来るだけだ。


長年一緒にいた、しかも想いを寄せていた男が魔法使いでした!などと、どう受け止めればいいのか。



「なんなの...もう...。」



未だに抜けた腰が戻らない真城は動きたくても動けないまま呆然とするしかなかった。





♢♢♢





「精霊の愛し子に追っ手を差し向けたというのは本当かね、()()()()()()()()。彼女に手を出すことは許さない、と私は言ったはずなのだがね。」



「嫌ですわ()()()()()()()。愛し子は今年でもう18歳。そうなれば祝福はもう1段階進行し、強くなった香りに負けた周囲の男に汚されてしまうかもしれませんのよ。感謝されこそすれ、怒られる筋合いはありませんわ。」



豪奢な飾りが多く飾られる石作りの巨大な部屋には、家具と呼べる物が大きな円卓と21の椅子しかなかった。


その内、埋まっているのは約半分程度だ。


金銀宝石類が散りばめられた装飾品と違い、中心にある円卓と椅子は古い木で出来た物に見える。


アンティークや骨董品などとは世辞にも言えないような見た目だが、座っている当人達が気にする様子はない。


それぞれの席にはワイングラスのみであったり、何も置いていなかったり、10枚近い食器を並べ、雰囲気に合わぬほどガツガツと食事している者もいたりと、様々である。


扉は見当たらず、その代わりのように21の椅子の後ろにはそれぞれ模様の違うステンドグラスが張られている。


レイヴェルト、と呼ばれる若い長髪の優男の後ろのに張られたグラスは太陽と月、昼と夜が描かれているが、よく見ると昼夜が入れ替わるように少しずつ動いているのがわかる。


対面に座るリカントロープと呼ばれた金髪で儚げな雰囲気を持つ麗人の後ろにある殺し合う獅子と虎を描いたグラスもまた、少しずつ動いているようだった。



「だが、リカントロープ嬢。愛し子を回収しようと出した追っ手は例外なく記憶を抹消されて帰ってきている。しっかりとボコボコにされた後にだ。おそらく彼女を守っている精霊がいるはずだから調査をすべきだ、という結論を貴族院は出したはずだが?」



目の前の皿に盛られた肉厚のステーキを1口大に切り分け、口へと運ぶ。


レイヴェルトの動きは優雅で、見る女性に息を呑ませるほど美しいものだった。


だが対するリカントロープは表情を一切動かさない。


美しい顔に微笑みを浮かべる姿は、まるで絵画のような芸術性を帯びているが、目だけは笑っていない。



「その精霊をぶち殺してから攫えばいいと言っているではありませんか。弱い魔法使いばかり送るから返り討ちにあうのです。それに...。」



鈴が鳴るような澄んだ声が突然明確に低い物へと変わる。



「私をリカントロープと呼ぶなと言っているだろうが、ぶっ殺すぞジジイ。」



瞬間、空気が爆ぜたのかと錯覚するほどの衝撃が周囲を襲う。


食器は吹き飛び、壁にぶつかり、四散する。


古びた机は軋み、壊れないのが不思議なほどだ。


しかし、その場にいる全員が、まるでそよ風を受けたかのようにその衝撃を受け流している。


それどころか、どういう原理か見事にまだ料理や酒が残っている食器だけはピクリとも動かない。


シン...


と、空間を静寂が包む。


響くのは唯一この会話に興味がないとばかりに料理を貪る少年の食器の音だけだ。


レイヴェルトが持っていたナイフとフォークを食器の上に置く。


口元を拭い、ゆっくりとリカントロープを見つめる。



「こんなところで戦争を始めるつもりかい?まぁ私は一向に構わないが...、」



周囲に形容し難い圧力がかかり始める。


リカントロープが発したのが、全てを押し潰し、捻じ曲げるような衝撃なら、


嫌悪感、不快感などの俗に言う「嫌な感じ」を極限まで強力かつ凶悪にしたような雰囲気、と言うべきだろうか。


それは間違いなくレイヴェルトから生み出されるものだった。


常人なら吐き気を催すような魔力の奔流に、

しかし、場にいる全員が眉1つ動かさない。



「君が私に勝てるとは思えないがね、リカントロープ嬢。」



「ぶっ殺す!!!!!!」



「止めなさーーーーい!!!!!!!!!!!!」



レイヴェルトとリカントロープから溢れ出る魔力がぶつかり合う瞬間、両手で机を強く叩いて立ち上がり、2人を制止する者がいた。


腰まで伸びた色素の薄い赤毛はよく手入れがされているのか艶やかで、一見高校生くらいの年齢に見えるが、服の下からでも主張をする身体は既に女性として完成へ辿り着いているように見える。


そして彼女の後ろには、祈りを捧げる聖女と、その聖女に頭を垂れる首なしの騎士が描かれたステンドグラスが少しずつ動いていた。



「オリヴィアちゃん、それ以上変化するとあんまり可愛くないよ。いつも言っているじゃない、ちゃんとしてたらすっごく可愛いのにって。アダムスもオリヴィアちゃんがからかうと面白いからってあんまり調子に乗ったらダメだよ!」



腰に手を当て、注意する様は正しく生真面目な風紀委員長、といった風だが、彼女の中にそんな概念はないので意識しているわけではないだろう。



「失礼、()()()()()()()()()。少々悪ふざけが過ぎました。」



「私も食事の席ではしたないことをしてしまい申し訳ございませんわ。」



降参を示すように両手を上げ、肩を竦めるレイヴェルトと、最初と同じ美しい声に戻り、ワインを口にするリカントロープ。


リカントロープは本気で激昴していたがレイヴェルトはそうでもなかったのか、うっすらと笑っている。


フェアリーテイルは、よし!と胸を張り、席に着き直す。


喧嘩を止められて満足気だ。


張った勢いで大きく揺れる胸部にリカントロープは悔しげではあったが。


「さて、まぁ精霊の愛し子に関しては仕方ないでしょう。もう追っ手は接触している頃でしょうし。成功にしろ失敗にしろ、報告を待ちま...」


天井が崩れる。


それは突然のことだった。


雲の隙間から漏れる光芒のような、

あるいは天を走る流星の輝きのような、


神々しいとも言える光が、まるで部屋の中心にある円卓を狙ったかのように伸びている。


どうやらそれが天井に穴を開けたらしい。


当代最強クラスの魔法使い達が一斉に防御壁を張る。


彼らが円卓を囲んでいたのは建物の最上階。

流石に上の階層全てが落ちてきては防ぎきることは難しいが、天井だけならなんとかならなくもない。


しかし建物、ひいては彼らの本拠地の敷地内には結界が張ってある。


先人達が張り、歴代ここに座る物達がそれを強化してきた。


破壊はおろか侵入すら常人には不可能だ。



「一体誰がどうやって...。」



部屋は円卓と空席の椅子、彼らが張った防御壁を除き、天井の瓦礫に当たって酷い有様だった。



「ウルズの泉か?それともマリアナ神殿の連中か?どちらにせよぶっ殺してやる!!!」



リカントロープが吠える。


口にしたのは世界でも三本の指に入る魔法組織の、


残り2つ。


確かに彼らの本拠地を叩くような暴挙を実行出来るほどの力があるのはそれらくらいのものだろう。


しかし、今回に限っては不正解だった。


円卓に降り注ぐ一筋の光。


それは、先程幾重にも連なった結界をものともせず天井ごと打ち崩したものと同じとは思えないほど柔らかく円卓を包んでいた。



「何か...来る...。」



誰かの一言が小さく消える。


その瞬間、その場にいた全員が輝く光芒の中心に人影を見た。



「久しぶりだな、ここに来るのも。」



ゆっくりと光が消えていく。


中にいた男は、まるで屋外に出て初めて雨が降っていることに気付いたように手を広げていた。



「俺はウルズの泉でもマリアナ神殿でもないから逆に言えばぶっ殺されないって事かな?いやぁ、もうけもうけ。」



場の雰囲気がわかっていないかのような男の軽口に応じるほどの余裕を、その場にいる全員が失っていた。


光に包まれるその姿はまるで天使のようで、

地獄のような惨状を作り出し、笑う姿は悪魔のようにも見えた。


完全に光が収まり、ようやく男の姿が明確に見え始める。



「貴族院のバカ共よ、贈り物を返しに来たぞ。」





白い炎を背に男は、

























鼻くそをほじっていた。

ヘイ!


どうもメレンゲ太郎です。

第2話いかがでしたかね?


まぁ別にまだ導入部分ですのでね。

面白くなるのはここからですからここから(ハードルを自ら上げる)。


文章力が致命的にないのですが、書いていく度に成長すると思って頑張って行きますよね(←?)。


300話を超える頃にはまぁ読めなくはないなくらいまでは成長しておきたいです。


それではまた、次のお話で。

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