4階に止まらないエレベーター
これは、エレベーターが設置されたマンションに住む、ある若い男の話。
「・・・また4階に止まらない。」
その若い男はエレベーターの表示階を見て、うんざりした顔をしていた。
住宅地のマンションのエレベーターの中。
マンションの住民である若い男と中年の女の2人が乗っている。
エレベーターの故障か、4階のボタンを押しているにも関わらず、
エレベーターは4階を素通りし、5階に停止していた。
同乗していた中年の女が、その若い男に話しかける。
「このエレベーター、少し前から調子悪いわね。
うちは6階なので問題ないですけど、照明が消えたりするのは気味が悪いわ。」
そう話した中年の女は、困り顔で頬に手を当てた。
「私の部屋は4階なので困ってるんです。
管理人に修理してくれるよう言ってるんですが。」
その若い男は、腕組みしながらエレベーターの表示階を見ていた。
中年の女は、声を潜めて話し始める。
「ただでさえ、立て続けにあんなことがあったばかりですものね・・。」
「あ、ああ、そうですね。」
その若い男は、中年の女から目を逸らして気まずそうな顔をしていた。
そのマンションでは、立て続けに住民の失踪事件が起きていた。
事件は4階に集中していて、
4階の402号室と404号室の住民が行方不明になっていた。
まだ行方不明になって日が浅いこともあって、
警察ではなく家族が探しているということだった。
その若い男は、その2つの部屋の間の403号室に住んでいた。
「警察にちゃんと調べて貰いたいわよねぇ。
特にお宅は、行方不明の2軒の間ですものね。」
「そうですね・・では私は4階なので、ここから階段で下りますのでこれで。」
その若い男は、中年の女との会話を切り上げて、エレベーターを降りた。
エレベーターが4階に止まらずに5階に止まったので、仕方なく階段で移動する。
「・・・くそっ、何でこんなことに。」
誰もいない階段でその若い男は、何かに怯えるように独り言を口にしていた。
それから数日が経って、そのマンションのエレベーターの異常は悪化していた。
最初はエレベーターが4階に止まらないというだけだったが、
照明が消えたり異音がしたり、異常が起こる内容も頻度も増えていった。
403号室に住むその若い男は、もうエレベーターを使わず、
何かを避けるように階段で上り下りしていた。
マンションのロビーで、住民たちが恐ろしそうに噂話をしている。
「昨日、エレベーターの壁に血文字のようなものがあったらしい。」
「気味が悪いわ。誰かのいたずらではなくって?」
「調べたら、その時間帯は誰もいなかったはずだって。」
「何が書いてあったの?」
「それが、403って読めるんじゃないかって話。」
「そういえばエレベーターの中で聞こえる異音も、403って聞こえません?
それと、何か言葉のように聞こえるって。」
「そう聞き取れた人もいたらしいな。」
「行方不明者が出たのも4階。エレベーターが止まらないのも4階。
4階に何かあるのかしら。」
住民の噂では、4階に何かあるのではないかという話になっていた。
それを受けて、その若い男のところにエレベーターの検査員が来ていた。
「というような噂がありまして、エレベーターの検査に立ち会って頂けませんか。
もしかしたら、お宅の403号室を狙ったいたずらの可能性もありますので。」
「は、はぁ・・少しだけだったら。
でもひとつだけ、エレベーターに乗る時は、誰か一緒に乗ってくれますか?
独りでは乗りたくないんです。」
「気味が悪いですものね。わかりました。」
こうしてその若い男は、エレベーターの検査に立ち会うことになった。
「やっぱり、一緒に乗ると必ず異常が出るみたいですねぇ。」
エレベーターの検査員がエレベーターを1階に下ろして検査をしている。
どうしてか、403号室のその若い男が一緒に乗ると、
4階に止まらなくなったり、照明が消えたり異音がするといった異常が多発した。
「ぐ、偶然じゃないですか。2人が一緒に乗って重くなったからとか。」
「その可能性はありますね。私はちょっと降りてみましょうか。
エレベーターのドアは開けておきますので。」
「あ、ちょっと待って!」
その若い男が止める間もなく、エレベーターの検査員は、
エレベーターの中にその若い男を残して降りてしまった。
その途端、バン!と勢いよくエレベーターのドアが閉まった。
「びっくりした!ドアは閉めなくて良いんですよ。」
「私は何もしてない!勝手に閉まったんだ。」
エレベーターの中に独り残されたその若い男は、
勝手に閉まったエレベーターのドアを開けようしたが、
ボタンを押しても何の反応もない。
そして、1階に止まっていたエレベーターは、勝手に上昇を始めた。
天井についた明かりが点滅し、異音が鳴り始める。
「・・・403・・・返して・・・」
だんだん大きくなるその異音は、
少しずつ言葉として聞こえるようになっていった。
「403・・・私達の体を返して・・・」
最上階に止まったエレベーターの中では、異音は言葉として聞こえていた。
すすり泣くような女の声だった。
その声を聞いて、エレベーターの中のその若い男は、大声でわめき始めた。
「いたずらなんだろう!誰の仕業だ!?」
しかし、誰かが隠れていたずらしているという感じではない。
エレベーターのドアは開かず、聞こえてくるすすり泣きは続いている。
すすり泣きを聞いているうちに、その若い男は段々と冷静さを失い、
やがて見えない誰かに向かってわめき始めた。
「わ、わたしが悪いんじゃない!出来心だったんだ!
誰にだって出来心はあるだろう!?」
その若い男の何かを白状する言葉を聞いて、
エレベーターの中の異常がピタッと止んだ。
すすり泣くような声も止み、
真っ暗なままのエレベーターの中は、しーんと静まり返った。
そして、エレベーターの床や壁がカタカタと振動を始めた。
「・・・だったら、私達と同じ目に遭って頂戴。」
その声と共に、エレベーターが下に向かって動き始めた。
異常な加速を始めたエレベーターの中で、その若い男の体がふわりと浮いた。
その若い男の叫び声と共に、エレベーターはどんどん加速を続け、
やがて、その若い男の悲鳴と共に、エレベーターは突然動くのを止めた。
中からは、何かが折れたり潰れたりする音が響き渡った。
1階に戻ってきたエレベーターのドアが開く。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
エレベーターの検査員が恐る恐る中を見ると、
そのエレベーターの中は、
さっきまでその若い男だった物体で、べっとりと塗り潰されていた。
終わり。
かつてはマンションの部屋に402号室とか404号室は使われなかったと思うのですが、
近年は使われるようになってきたように感じます。
それとエレベーターを使ってホラー話にしてみました。
お読み頂きありがとうございました。