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07:捨て駒たちの過去_01




口汚い罵声が飛び交うギルド内の酒場。入口を入ってすぐ男は室内の一区画に誰も近づいていないことに気が付いた。


――アイツが帰ってきてるのか


男は異様な状況を作り上げた原因だろう。


彼は心当たりの友人を見つけるため誰もいない方向へと敢えて向かって行った。


すると人がいないせいだろうか探し人が放つ独特な雰囲気のせいだろうか、男は古くからの友人がテーブル席に着き一人で酒を飲んでいるところを見つけた。


「よう、帰ってきてたんだなスクリム」


男は気軽な言葉と共に彼の背中を大きく叩いた。


叩かれた男スクリムのジョッキが揺れ、ジョッキに口をつけていた彼は顔を酒で濡らすこととなった。


「レクト、テメェ何しやがる…」


スクリムは顔から酒の雫を垂らせながら陽気な雰囲気な男を睨みつけた。元来悪い目つきが睨んだことにより増々威力を高める。


スクリムを知らない人間ならば彼の鬼のような表情を見れば早々に謝罪するか一目散に逃げるだろう。


しかしスクリムは叩いてきた男、レクトに対していくら睨みつけようと意味がない事は重々承知していた。


彼はスクリムが小さい頃からの友人であり、両者互いに性格を知り尽くしている。


「悪い悪い」


レクトは口では謝罪しているものの浮かべている笑みから悪びれていないことがわかる。彼はスクリムの正面の席へと腰を掛けると店員を呼んだ。


「えーっと、たまにはお洒落にワインでも頼むかな」


「おい、俺にエールのお代わり…代金はそっちのバカに貰ってくれ」


若い女性の店員はスクリムの言葉に先ほどの光景を見ていたのだろう。彼へタオルを渡すとレクトからワイン代とエール代の催促をする。


「マジかよ、スクリム、ギルド最上位の階級持ちとしての余裕を見せようぜ、余裕を…アンタも無言で催促しないでくれよ、アンタ本当に店員かよぉ」


実はこの店員はスクリムとレクトが駆けだしの頃…彼女が子供のころからここで働いており。二人とは顔なじみであった、そのためスクリムを恐れずにここへ近づくことが出来る。


スクリムへも怯えずに無表情を貫ける酒場内での彼女の立ち位置は高く。スクリムが来店している最中は他の仕事はスクリムに関わりたくない他の店員が積極的に終わらせるため、必然的にいつも彼女がスクリムの担当をしていた。


というか既に酒場の休憩室に掛かっている、出勤した際に従業員がかける木札の役職欄にはスクリム様担当と書かれている。


料金を催促されたレクトは財布から渋々二人の酒代を取り出すと、名残惜しそうに店員へと渡した。


彼女はニッコリとお面のような笑顔を浮かべ金を受け取ると酒を取りにカウンターへと歩いて行った。


「ったく、これからは人が飲んでるときに叩くんじゃねぇぞ、金の無駄だろ」


スクリムは店員から受け取ったタオルで顔を拭き終えるとタオルをテーブルの端へと置く。


「金金って世知辛いねぇ、お前にはなんつーか他に無いのか」


レクトはやれやれと両手で呆れた様子を見せる。


その姿にスクリムは軽く舌打ちをした。この色ボケ野郎、スクリムはそう声に出そうとしたが、そういう系統になると目の前の男が饒舌になることを思い出し飲み込んだ。


「知らねぇよ、そもそもお前のせいで零したんだからお前が払うのは当たり前だろ」


スクリムは最もな事を言いつつ、新しく店員が持ってきたエールを受け取ると口をつけた。


同じくレクトも店員から受け取ったワインを飲むと渋い顔をし「あんま好きじゃねぇわ」と呟いた、その言葉と表情にざまぁ見ろとスクリムは多少イラ立ちが抜ける。


「そういや、今回はどこに行ってたんだ」


レクトは口直しの為かタバコに火をつけると煙を深く吸い込み、ゆっくりと吐き出す。


一本吸うか?とレクトが渡してきたためスクリムもタバコを受け取り口にくわえる。


すると、レクトが指先をスクリムのタバコに向けるとタバコの先端に火が灯った。スクリムはレクトの行いに苦い顔をする。


「気色の悪い事すんじゃねぇ、そういう趣味だと思われんだろ」


男のタバコに火をつけるのはその人の事を思っている女のアピール、彼らの住む国では常識となっていっている告白の仕方である。そうでなければ『そういうお店』の店員が見せる仕草である。


スクリムは目の前の男がそういう性癖の持ち主ではないと知っているが、気持ち悪かったため自分の魔法で彼の魔法でつけたタバコの火を上書きする。


このレクトという男は昔からスクリムを揶揄うためなら体を張り続けられる質が悪い男だった…。しかし、その揶揄いの起源は他人から怖がられるスクリムを怖い人間だと思われないようにする彼を思ってのことだった。


だが、実際問題スクリムは他人が自分をどう思おうとどうでも良く、有体に言ってしまえばレクトの有難迷惑な行為だった…。


レクトもスクリムがそう感じていることなど知っていた。それこそ子供の頃はスクリムがツンデレなだけだと思っておりそういう行動をしていたが、大人になるとスクリムが本当に他人のことはどうでも良いと考えていることがよくわかった。


別に彼が悪人というわけではない、それどころか目の前で子供が泣いていたらそれとなく助けるなど善良な部類だろう。しかし他人は他人と割り切ることが出来る、例えば子供が貴族の子供なら面倒ごとに巻き込まれたくないと助けないだろう。


では、何故いまだにレクトがスクリムを揶揄うかと言う話しに戻るわけだが…面白いからである。


どこまでも質が悪い男である。スクリムはニヤニヤと笑っているレクトに対して何故この男とここまで親しくなってしまったかと頭を抱える。


「ハハハ、で、どこに行ってたんだ?」


相変わらず彼は悪びれる様子ひとつ見せない、そして笑いながらスクリムへ先ほどの質問を繰り返す。


「んぁ?…あぁ、北の山だ」


中々寒かったぞ、とスクリムは山があるであろう方角へと視線を飛ばした。


レクトはスクリムの視線の先には別に建物の壁しか無いことを知りつつもそちらへと顔を向けた。そしてその方角にある山について記憶を漁る。


「北の山っつーと…あ、魔王国の領土のあそこか!?」


驚いているレクトにスクリムは平然と頷く。


「多分そこで合ってるな」


「あんな場所に何しに行ったんだよ」


「まぁ、用ってほどのもんはねぇけど、誰も近づかねぇ山になら誰も知らねぇ魔法とかありそうじゃん」


スクリムの思い付きで旅に出るのは今に始まったことではない、そのためレクトもそこについては何とも思わない。しかし今回彼が入ってしまった領土の持ち主が魔王国という部分が問題であった。


現在、着実に侵略して来ている魔王国に対して人間たちは同盟を組んで戦争を行っていた。


前線ではいまだに兵士が命を散らせ、この間もレクトの友人が数名ほど天国へと旅立ったと知らせを受けていた。


そんなところにスクリムは平気な顔をして行ってしまったのだ、レクトは友人として心配するのは当然である。


目の前の男が死ぬなんて姿は思いつかないが、それでも万が一という可能性は世の中に溢れている。


レクトは常識を知らない男に対して今度は彼が頭を抱える。


「はぁ…お前ってやつは、それで何か見つかったのか?」


レクトの呆れ交じりなその言葉に、スクリムは悩まし気な表情を浮かべた後、ゆっくりと頷く。


「一応な…滅んだ部族の住処らしい場所を見つけて生命力についての…なんつうか変な魔法を見つけた」


変…レクトはスクリムの口から魔法関係の言葉で出てくる言葉とは思えず首を傾げた。


目の前のスクリムは悔しいことだがレクトの数歩先も行く魔法使いである。


それこそこの国でも五本の指に入る…いや知る限りではギルドの登録者全体の中でもトップクラスの技量を持っているだろう。


そんな彼が悩むような魔法とは何だろうかとレクトは自分のわかる知識を絞る。


「生命力、つまりは回復魔法ってことか?」


回復魔法は個人の持つ生命力を底上げし行う魔法の種類である。実はこの魔法は副産物として生まれた。


その昔生命力何て概念が無い時代、身体強化の魔法を他者へとかけるという戦時中に行われた人体実験が元となっている。被験者は悲惨な末路を辿ったわけだが、その際出血などが過多なのに中々死なない被験者に対し疑問を持った博士が見つけ出した。


レクトはそれぐらいの知識は持ち合わせていたため、すぐに回復魔法へとスクリムの話しを繋げる。


「回復魔法か…まぁそんなとこだな、デメリットが大きすぎるから使い道は無いけどな」


スクリムは新しく手に入れた魔法の使い道を考える…。しかし、やはりどうしても思いつかない、悪用しろと言われればすぐにでも思いつくのだが。


顎に手を置きタバコをくわえながらスクリムが考えていると。レクトがワインを一気飲みをしジョッキをテーブルへと勢いよく置くと「はぁぁぁ貴族の連中よくもこんな物飲めるな」と苦々しくジョッキを見つめた。


「んで、ギルドに提出すんのか?」


ギルドに新たな魔法を提出すれば相当な報酬が手に入る、世の中にはそれだけのために魔法を研究し続けている人たちもいる。


そのためスクリムが手に入れた魔法も提出すれば厳正な審査の後、報酬が出るだろうが、彼はレクトの言葉に顔を横に振った。


「しねぇよ」


スクリムのただでさえ怖い表情は更にイラ立たし気な表情へと変わる。


そんな事は聞くまでもないだろとスクリムは荒くタバコの火を消した。


「だろうと思った、お前のギルド嫌いも相変わらずだな」


「そりゃそうだろ、折角見つけた魔法をギルドに危険性を交えて報告してやったら、それをギルド職員が勝手に危険性を省いて新人に教えたんだぜ…しかも新人死んじまったしな」


舌打ちをするとスクリムは嫌な事を思い出した。と言いつつ自らもジョッキを口へ運ぶと傾けた。口の中にエールの独特な苦みが入って来る。


「ありゃあ悲惨な事件だったな、でもあの職員はクビになっただろ」


ギルド職員の独断、自らが担当している新人を速く上の階級へと上げ、自分の給料を増やそうとしたという自白で決着がついた。


職員は永久にギルドの利用権をはく奪され、罰金という処分が下った。


「クビになったからいいってもんじゃねぇよ、あの件でギルドの情報管理やらがズタボロってことがはっきりしたからな、二度とギルドに依頼以外での報告はしねぇ」


レクトは多少スクリムの行動に報酬が惜しいと思いつつも、口が悪くとも冷静な判断が出来る彼を心の内で称賛する。


「そうか…そういえばお前はアレ行くのか」


イラ立っているスクリムの機嫌を直すため、レクトは話を変えた。




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