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06:不思議な森_04




炎の魔法を会得した次は…ノードは知識などを詰め込んでもいいが、それよりも優先すべきはやはり生きるための技能だろうと目の前で呆けているモロンを見つめる。


「…ということで、獣君、次は狩りの際の獲物の追いかける手本を我が主に見せてくれたまえ」


「グォ…」


獣は首を傾げた。いつのまにやら自分が教師役をしなければならない…とりあえずこの状況は置いておいて、それよりもツッコミたい部分があったためである。


「なに…獣と人間は違うだって?意味が分からないことをキミは言うんだね、獣も人も裂けば血が出るし死にもするだろ?」


「グ…グゥ」


――い、いや確かにそうだが、それは生物としては同じなだけで…


獣は必死に動き方や体の構造が違う事を説明しようとするが、何故だか目の前のノードに口で勝てる気がしない。


ノードも獣が言葉を詰まらせた様子に、フフンと鼻を鳴らした。


「だろ?ほらお手本を見せる栄誉を与えるから…獲物は今から逃がすから頼んだよ」


「グォグォ」


獣としては納得はしていないのだが、手本を見せたところで自分にデメリットも無いなと考えノードの言葉を了承した。


――とりあえず、狩りは見せてもいいが獲物は食べて良いのか


獣が確認のためにそう聞くと、ノードはそれに対し笑顔で頷く。


「勿論キミが食べていいさ、報酬は何事よりも優先されるべきものだよ…ではゴーだよ兎ちゃん」


ノードはそういうと両手で抱えていた兎を地面へと降ろした。兎はノードから逃げるように走っていくが…あっというまに獣に追い付かれる。


兎が遅いというわけではない、だが不思議なことにはた目から見ている分には獣の動きが速いようにも思えない。


獣は兎が行く方向行く方向に先回りをし兎の動きを制限しているのだ。


しかし、獣はまだ捕まえない。彼なりに手本ということは時間をかけたほうが良いだろうと判断してだ。


「僕も四足歩行で追っかけるべきなのかな」


獣の姿にモロンは四つん這いになってみるが、素早く動ける気がしないと早々に諦め立ち上がる。


「何を言ってるんだい、人族なのだから二足で走ったほうが速いに決まっているだろう、でも状況によって両手を使うのは勿論のことだよ」


そんなモロンにノードはヤレヤレと首を振る。


「そりゃそうか、でもそうしたら…あれってお手本になってるのかな」


モロンは言葉と共に獣の前足へと指をさした。


獣は私もそれが言いたかったと言わんばかりに、顔を一瞬モロンへと向けた。


「もぉ、キミってヤツは…ほら獣君の視線を見たまえ、常に獲物の動き方を確認して行先を予測し最短ラインを取っているだろう、あれだけでも素晴らしい技術だよ、ほんと彼に鱗が無いのが悲しいほどに」


ノードは腕を組みながら何度も頷くのだが、獣はその言葉に呆気にとられた。確かにそうだとノードの言葉に納得したからだ。


自分では何気なく行っていた技術だが、他人に教えるのならばどのような状況でも応用が利く技術だろう。彼はノードをバカにしたことを内心で謝罪した…。


しかし、ムカつくので直接謝罪を口にすることは無い。どうせ謝ったところで「やはり鱗が無い者の考えは貧相だね」などといった皮肉が交じった言葉が返ってくるのは目に見えていた。


数分間獣がお手本を見せた後、モロンも兎を追っかける練習をした。


最初は兎に置いて行かれ情けない声を上げていたが、日が暮れることには何とか兎に追い付くことが出来るようになった。


と言っても追いついたところで兎を捕まえられるかと言われると難しい。兎の方へ飛び込んで捕らえる事は出来るがそれはノードが許さない。


「確かに今は兎が相手だけど、大型の動物相手にそんなことしたら避けられて踏みつけられて一瞬でお陀仏だよ」。


だが、走りながら拾い上げるとなるとモロンは転んでしまう、厳しいことを言いつつもノードの予定では追いつけるようになれば満足だったのでそこで打ち切った。


そして翌日、湖でボロボロの布切れ…いや、モロンが服を洗っていると飛んできたノードが肩の上に乗っかる。


「今日は我が主に僕ら…トカゲ一族の幼少期に覚える同化の魔法を教えるよ」


「同化?」


モロンは湖から上がりつつ、肩の上に乗るノードの言葉を繰り返す。


「僕たちトカゲ一族は小さなころは人の子供に負けるほど弱いからね…見ててごらん、僕がどこにいるのかわからなくなるから」


するとノードの体は透けていき、あっという間に見えなくなってしまう…ノードの説明ではその予定だったのだが。


「うーん、なんかぼんやりと見えるよ」


モロンの左目の先には奇妙な光がノードの姿を形どっており、確かに見えにくいが透明というわけでは無かった。


右だけで見るとちゃんと透明なのに左目を開けるとノードの居場所がわかる。モロンはそのことが面白くて何度も瞬きを繰り返す。


「あ、そうか…うん、大丈夫、ちゃんと魔法は出来てるから、ちなみに勘が良い人はこの魔法を見破れるから無闇に使うものじゃないよ」


動物の保護色なんかと一緒で見る人の直感っていうのもあるからね。とノードは付け足した。


ちなみに保護色って何、という質問がモロンから飛んできて説明に小一時間かかったのは言うまでもない。


「うん、わかったよ…それで魔法ってどう使えばいいのかな」


モロンはノードの真似をしようと全身に力を入れると体から青い炎の魔法が吹き出し空を貫いた。


獣は慌てて体を起こすとモロンを湖の中へと突き飛ばす。


獣はモロンの放つ炎の中に突っ込んだはずなのだが火傷一つ負うどころか毛の一本も燃えておらず、湖に落ちたモロンの姿を眺める。


「うぼぉぉぉ」


モロンが湖へと着水すると水が蒸発し、一瞬で辺りが白い水蒸気で覆われた。彼はゆっくり湖から出てくると「ごめん、炎じゃないよね」と獣に謝った。


「まぁ、他の魔法の練習をしようとしたら最後に覚えた魔法が出るなんてよくあることだし、じゃあ、僕が我が主に魔法をかけるから、それでちょっとずつ感覚を掴もうか」


「りょーかい」


ノードが指を振ると、モロンは自分の体の周りを魔力の膜が包むような感覚を覚えた。


「そうそう、良い感じこれで我が主もトカゲ幼少期に仲間入りだ、素晴らしいことだよ…じゃあ次は自分でやってみようか」


ノードが魔法を切るとモロンは思い出すように体の皮膚に魔法を這わすイメージをする。何度か失敗し炎が吹き出したが…数時間後ようやく膜が覆えるようになった。


「獣君、僕魔法をちゃんと使えてるかな」


まだノードのように完ぺきではないが、暗闇で使えばモロンの姿は一切見えなくなるだろう。


モロンは現在の自分の姿への感想を求めて獣の方へ手を振ると。


「グォグォ」


と、眠たそうにしつつも彼は声をあげた。


――まぁまだまだだけど、センスはあるんじゃないか


彼はそう言ったのだが、やはりモロンには伝わっておらず。モロンは獣の言葉がわかるノードの方を見た。


「ほら、彼も我が主に透明だけど鱗が見えるようだって褒めたたえているよ」


ノードは拍手をしながらモロンを煽てる。


「グォ!?」


モロンのよくわからない翻訳に獣は起き上がった。


確かに褒めたがそんな奇妙な褒め方はしていないと吠えるが。


「だろ獣君、キミは僕の次に我が主に仕える運命かもしれないね」


「…グォォ」


コイツに何を言っても無駄だと獣はいつもの位置に戻り、面倒くさそうにノードを見つめる。


「何だい、その呆れたようなため息は、僕に我が主と歩めると認識されるなんて名誉なことだよ、キミも我が主の素晴らしさは感じ取れるだろ」


ノードは獣の頭をうりうりと尻尾で押す。


獣はそんな彼に対し鬱陶しそうにしつつも無理やり払いのけることは無い、彼からすると子供にじゃれ付かれている程度の感覚だった。


「グォ」


まぁ、モロンの事は嫌いではないが…獣はどうしたものかと考える。


「そうだ、獣君、我が主も将来僕の背に乗っかって空を駆けることになるだろう、だからまず獣君の背に乗って騎乗という行為に慣れて欲しいと思っているんだ」


「グォグォ」


おまえが先に乗せなくていいのかと、獣はノードへ確認を取る


「あぁ、勿論ともさ、嫉妬しているが今のこの体じゃどうしようもないだろう…それにこういうのは慣れが必要だからね、是非ケガしない程度に手荒に頼むよ」


そういうと、モロンがいつのまにやら獣の近くに居り背中を撫でていた。


「…じゃあ獣君、乗るよ」


静かにモロンは獣にまたがる、すると「グォォ…」と深く息を漏らしながら獣は走り出した。


「うわぁぁぁぁぁぁ」


これがドップラー効果というものか、知識がある人間がいればそう答えただろう状況、ノードは腕を組んでニコニコ笑っている。


「いってらっしゃーい、うむやはり獣君は我が主と共に歩むべき存在かもしれないね…キマイラか…ふむふむ、楽しいことになりそうだ」


静かになった湖の近くでノードは何とかあのモロンの新たな友人を仲間に引き込もうと画策しているのであった。




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