約束の日
匠の頭に映像が流れる。
「な、んだ、頭の中に…俺の、記憶なのか…?」
車に乗せられた少女が、笑顔を誰かに向けている。映像が薄暗く顔は判然としないが、その少女は楽器ケースを膝の上に置いていた。
映像は切り替わって一人称視点になり、雨の中誰かが走っている。その誰かがある駅に着くと、泣いている制服姿の女子が数人と先生らしき人がいた。その誰かが膝をついたところで頭痛は治まった。
「あの制服、俺の高校の制服だ…。それにあの駅、実家の最寄りの駅…でも、こんな記憶ない。俺の記憶じゃないのか…」
匠は大量の汗をかいていた。
手紙に書いてあった○月○日がやって来た。匠はいつ通り早く起きると、スーツではなく私服に着替えた。部屋を出て日比野の部屋を訪れる。インターホンを鳴らすと、少し経って日比野が眠そうな顔を擦りながら出てきた。
「なんだ、こんな早くに」
「日比野さん、一生のお願いがあって来ました」
匠の顔を見て日比野は目の色を変えた。
「そう言えば今日は手紙に書いてあった日だったな。どうするんだ?」
「この前、日比野さんが帰った後マネージャーに電話しました。やっぱり、休ませてもらえませんでした。それで」
匠が言いかけたの遮るように日比野は言った。
「行ってこいよ。もし、いたずらだったらぶん殴って帰って来い。それまで、お前の店は俺に任せろ」
「日比野さん…ありがとうございます!朝のバイトの人には自分で伝えます。お願いします!」
匠は頭を深々と下げると、自分の部屋に戻る。
「まったく、俺今日休みだったのにな。ま、今度借り返してもらうかー」
約束の13時より少し前、匠は駅にいた。頭の中に流れた駅だった。ここに来れば何かが分かる気がした。匠は自分の直感を信じ、この駅に向かったのだ。
「59分か、あと1分で約束の時間だ。真中凛、漸くあんたの顔を拝めるよ」
この1分は長く感じた。匠は時計をじっと見つめ1秒1秒数えた。
「あと、10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1…よし、13時になった。どこにいるんだ」
匠は真中凛を探そうと時計から顔を上げた。しかし、匠は目の前の光景に言葉を失った。
「おい、どういうことだよ。なんなんだよ、これ!?」
先程までの駅とは明らかに違う。人も車も鳥さえもいない。同じ場所なのに違う世界にいるようだった。その時、目の前に少女が現れた。
「来てくれたんだね、進藤匠」
「君は…あの時の。君が、真中凛なのか?」
「そうだよ」
「嘘だよな?だって、あの手紙には小学校の同じクラスだったって、なら君は何で…」
少女は笑う。
「ごめんなさい。あれは嘘だよ。あなたは友達にも確認を取ったみたいだけど、私を知ってる人は居なかったでしょ?」
「どうしてそれを知ってるんだ?」
少女は笑う。
「答えてくれ、君は誰なんだ。『記憶の破片』って何のことなんだよ?俺は何を失ったんだ…?分からない」
「それを取り戻すためにあなたを呼んだ」
「取り戻す?どうして?君は何を知っているんだ!?」
「目を閉じなさい。あなた自身で取り戻すの。失われた記憶の1ページを。大丈夫、私は側にいるわ」
「待ってくれ、まだ話は…」
匠の目の前に強い光が広がる。匠は手で光を遮り、目を瞑った。




