波に揺られて8
「すごい、大量じゃない!」
網には大量の魚が掛かっていた。古川は他の漁師が獲ってきた魚を見ると、驚いた。
「真っ暗なうちから行ったからね。海が荒れる前に行けて良かったよ。莉子ちゃん、悪いんだけど、魚移すの手伝ってもらえないかな?」
「うん、いいよ。」
古川は発泡スチロールの箱に氷を敷き詰め、その上に魚を乗せた。
「ん?何だこれ?」
漁師が網の中に光る何かを見つけた。それは、直径2.3センチ程の丸い青色に光る石のようなものだった。
「莉子ちゃん。」
「何?わっ」
漁師は綺麗なその石を莉子に投げ渡した。
「これ何?」
「わからん。網に引っかかってたんだ。魚が飲み込んでいたのかもな。」
古川は、その光る青い石を透かして見た。
「なんか、見たことあるような……」
「おーい、莉子ちゃん、これも運んでくれー」
少し離れた所で漁師が発泡スチロールの箱を指差している。
「あっ、うん、わかったー。」
古川は、青い石をポケットに入れ込んだ。
「お待たせしましたー!」
「おおー」
男達から歓声が上がる。綺麗に盛られた刺身や焼き魚がテーブルの上に並ぶ。匠の頬は紅潮し、エプロンにバンダナ姿の琴音に見惚れていた。
「なーに、見惚れてんのよ。むっつりスケベめ。」
古川が肘で匠の肩を押した。
「うるせぇ、だまっとけ。」
「ひゅー、若いねー。いいよー。」
漁師達が茶々を入れた。
「ご馳走様ー。琴音ちゃん、美味しかったよ。」
「いやー、毎日でも食べたいねー。いっそのこと、うちの息子のお嫁さんにでもなるか?」
「ばーか、こんないい子、お前んとこの倅には勿体ねぇよ。」
漁師達は笑いながら言った。
「みんな、揶揄い過ぎよ。琴音は私のものなんだから誰にも渡さないわ。」
古川は琴音の肩を抱き寄せた。
「莉子ちゃんには敵わねぇや。やっぱ、小学校の時一緒だった、アイツんとこのエマちゃんだなー。」
「えっ!?」
古川の表情が衝撃を受けたように変わる。
「おじさん……今なんて?」
「ん?いや、エマちゃんさ。莉子ちゃんも小学校一緒だろ?べっぴんさんになってんだよ。」
他の漁師達も頷いた。
「だって、エマちゃんは中学の途中で母国に戻ったって……」
「ん?そうだったか?」
男の問いかけに他の漁師達は首を振る。
「いや、エマちゃんはずっとここに住んでるぞ。今は隣町の高校に通ってるはずだけど、誰に聞いたんだ?」
「そんな……じゃあ、あいつは嘘を」
古川の心に怒りの感情が芽生えた。
中学3年の冬
「はぁー」
灰色のブレザーに緑色のチェック柄スカートを着た古川は、両手を前に持ってきて息を吐く。真っ白い息はすぐに消えていった。雪が少し積もった海岸は、海と陸との境目がハッキリとしていた。
「サクッ、サクッ」
音を立てながら歩いた後には、古川のローファーの跡がしっかりと残されていた。パラパラと降る雪が、その足跡をかき消していく。
冬の期間は、漁をする船もない。静寂とした空間には、波の音と冷たい風の音が響いていた。
「古川?」
目の前には、学ランを着た少年が立っていた。
「あっ、いじめっ子。」
古川は立ち止まると、巻いていたマフラーを少し下げた。
「いじめっ子じゃない、清川だ。久しぶりだな。」
背の高い端正なその少年は、小学生の時に古川と一悶着あった男子生徒だった。
「久しぶり。因みに、あんたの事は許してない。」
「許されたいなんて思ってない。俺が100%悪いからな。それに、あいつはもう居ない。」
「えっ……?」
古川は言葉を失った。
「エマは、自分の国に戻ったんだ。」




