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千里の過去12

「はぁ、はぁ、はぁ。」

終業式が終わり、帰宅する時間になると、匠は一目散に当麻と荒川のいる上級生の教室を訪ねた。


「おぉ、どうした一年坊よ。」教室の前まで来ると、匠は上級生の男子学生にぶつかりそうになった。

「すいません、当麻先輩と揚羽先輩いますか?」匠は膝に手をつき、息を切らしながら質問する。

「当麻達ならついさっき教室を出て行ったぞ。確か…」

「ありがとうございます。」匠は最後まで話も聞かずに走り出した。

「あっ…すぐに戻ってくるって言ってたんだが。」



「当麻先輩も揚羽先輩もどこに行ったんだ。メールも返ってこないし、ちー先輩は風邪なんかじゃない。コンクールはちー先輩が申し込んだものだ。だとしたら、あの封筒はちー先輩の元に届くはず。封筒の宛名は確か、近衛千里だった。それを揚羽先輩が持ってたってことは、揚羽先輩はちー先輩から受け取ったんだ。だったら、揚羽先輩達が何も知らないはずがない。くそっ、過去と違うことをしているから記憶にない。」匠は校内を走り回り、当麻と荒川を探した。

「どこだ。」匠が廊下を曲がると勢いよく誰かとぶつかった。

「いってー。」匠は尻餅をついた。目を開け前を見ると女子学生が倒れていた。

「お、おい、大丈夫か?ごめん、前見てなくて…」匠は倒れている女子学生に近づき、起こそうとする。

「ん…」その女子学生はムクっと立ち上がった。

「悪いな。大丈夫か……?って、りん!じゃないか。」

「何を急いでいたのか知らないけれど、ちゃんと前を見てくれないかしら?」凛は少し怒っている。

「本当にごめん。」匠は心の底から申し訳なさそうにしている。

「もういいわ。それで、何をそんなに急いでいたの?」

「そうだ、りん、当麻先輩か揚羽先輩を見なかったか?」

「確か、科学研究部の先輩だったかしら。見てないわ。」

「そっか。ありがとな。」匠は再び当麻と荒川を探しに行こうとした。

「あっ、りん、運命は少しずつ変わってるぜ。」匠は振り返り、そう言い残した。

「………」



「当麻、そろそろ匠に千里のこと言うべきなんじゃないのか?あいつはもう…」教室の窓側の席で当麻と荒川が話をしていた。

「コンクールが終わるまでは言わない、と約束しただろう。それが千里の望みだ。俺たちに出来るのはそれくらいなんだ。」

「見つけた!」声がした教室の入り口の方を見ると、匠が息を切らしながら立っていた。

「噂をすればってところか。」

「当麻先輩、揚羽先輩、いったい何を隠しているんですか!?ちー先輩は本当に風邪で休んでるんですか?」机に両手を叩きつけ、張り上げた声に教室に残っていた他の生徒は驚き、匠の方を見る。

当麻は教室の全体を見渡した。

「まぁ、落ち着けよ。どうしたんだ、そんな声を張り上げて。」

「どうした、じゃありません。いったい俺に何を隠してるんですか?風邪で5日も休んで、しかも連絡も取れない。明らかにおかしいですよ。知っていることがあるなら教えて下さい。」

「何も知らない。俺たちだって千里と連絡できないんだ。」

「そんなの嘘です。じゃあ、なんでコンクールの詳細が書かれた紙を持っていたんですか?」

「あれは先生から渡されたんだよ。学校に届いてたらしくてな。」

「当麻先輩、封筒には宛名が近衛千里で書かれていました。あれはちー先輩が個人的にコンクールに応募した証拠です。だから、あの封筒はちー先輩の家に届いてたはずなんです。それを揚羽先輩が持っていたってことは、直接受け取ったんじゃないんですか?」

「………実はな、叔母さんの体調が優れないそうなんだ。あいつは、お前に心配をかけたくなくて言わないでくれって言ってたんだ。」少しの沈黙の後、当麻は重い口を開いた。

「それじゃあ、コンクールは…」

「千里は来れないかもしれない。最悪、私達だけでやるしかないな。」

それを聞いて匠は俯いた。



「この学校での最後の思い出にしたいと思ってる。楽しくやろうじゃないか。」



千里の言葉が脳裏をよぎる。匠は何かを決意したかのように顔を上げた。






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