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千里の過去10

匠は確信したような口調で言い放った。それは自分の研究に自身があったからではない。寧ろ、自信がないからこそ断言したのだ。自分の体験していることに対する一種の認知的不協和に近いものを感じ、自己肯定の為でもあったのだ。


「ほう、やけに断定的だな。余程自信があると見えるな。」

「ちー先輩、残念ながらそこまでの自身は俺には無いですよ。言ったでしょ、ただの好奇心ですよ…」

「そうか…わかった。続けてくれ。」千里は匠の物憂げな様子を察した。


匠は資料示し説明を始める。

「先ず、パラレルワールドとは平行世界のことです。同じ次元にしながらもう一つの世界でもある。これは科学や物理学、量子力学の観点からも証明は困難を極めます。俺はどっちかっていうと文系だから、どちらにしろ科学的に証明するのは無理なんですけど、逆に存在しないことを証明できる人なんていやしません。これは悪魔の証明になるとは思いますけど、100%ないとは言えない以上可能性の話も含めて進めます。資料2ページ目を見て下さい。」


「ふーん。」当麻は資料をめくると感心したように目を通す。一方で鈴木はちんぷんかんぷんのようだ。


「何故、物理や科学で証明が困難になるのかと言えば、それは物理や科学が既存の法則や経験則を当てはめて考えるからです。つまり、我々が知らないこと、認知できないことは存在していないことと同義なんです。だから、『無』って言うのは本当に存在していないのと、我々が認知していないだけ、という2種類が存在しているのだと考えます。それなら、パラレルワールドが我々の認知の外にある可能性は否定できない。そして、ある時その認知の壁を超えて偶然にも体験できたのならば、それは発見になる。」


「確かにそうだな。ニュートンが発見した重力に関しても、彼がそれを重力であると認知する前から作用として重力は存在していた。」荒川は匠の考えに同調するように言った。


「ええ。つまり、俺が問題にしたいのは、」

「いかにしてそれを認知するか、ということか?」千里は匠の説明を遮った。

「流石です。」匠は少し微笑んだ。

「以前のお題でもそうだったが、貴様は論理的に物事を証明する傾向があるな。」

「ええ、それが俺のやり方なんで。すみません。」

「何故謝る?貴様がそうであるからこそ私の研究も意味があるのだ。物事を複数の観点から考慮することも必要だ。それに、少しの間だったが部員の成長も見られたしな…」千里は語尾の方だけ(ささや)くように言った。

「え?何ですか?」

「気にするな。」千里は腕と足を組み、続けるよう促した。


「はい。では、続けます。我々が認知できない理由としては、そこにあるのに気が付いていないからか、我々が認知できる枠の外に存在しているからか、どちらかだと思います。そこで考え方を少し変えてみたんです。パラレルワールドは実存する世界と言うよりも、一種の観念的存在に近いのかもしれないと。」


「観念的存在?」


「はい。揚羽先輩が先程言っていたニュートンの話ですが、ニュートンはすでに存在していた重力をリンゴが木から落ちるのを見て発見しました。これに限らずですが、発見とは事象や存在を認知して初めて発見に至ります。しかし、パラレルワールドは事象として認知されたわけでもないのに概念として存在します。」


「概念として存在しているから、観念的存在と言うことか」荒川は顎の下に手を置き考える。

「つまり、お前はもう一つの平行世界に干渉することはできない、と考えているわけだな。」当麻は匠の資料を閉じ、補足するように言う。


「当麻先輩、補足ありがとうございます。そうなりますね。パラレルワールドは我々が存在するこの世界に影響を及ぼさない。でも…もし、この世界が実はパラレルワールドでこの世界での出来事が現実に影響を及ぼすことがあるのなら、俺は…」

「そうだったら、自分の説を否定することになるな。」

「そうですね…」

「だが、それもそれでいいのではないか?我々がやっているのはあくまでも研究だ。専門家でもないのだから正解など導き出せるわけがない。匠、お前の気持ち次第では変わるやもしれんな。」

千里は座っていた机の上から飛び降りると、匠の顔を見上げた。

「ちー先輩…」

「いったい、何の話をしてるんすか?」鈴木は二人の会話に堪え兼ねて、口を挟んだ。

「さぁな。取り敢えず、今日は下校の時間だ。みんな帰る支度をしろ。」

「ちー先輩の発表は?」

「また今度だ。ほれ、早く帰るぞ。」

「わかりました。」


「あれ、教室に忘れたと思ったんだけどな。」匠は夕暮れの教室で自分の机を漁っていた。

「これかしら?」匠が顔を上げると教室のドアに青いノートを持った凛が立っていた。

「あ、それだ。何でお前が?」

「あなたが忘れていったからよ。」

「そっか、ありがとな。でも、こんな時間まで何してたんだ?」

「あなたには…関係ない。」夕日のせいなのか凛の顔は少し朱く染まっている。

「それもそうだな。帰るか。」


コンクールまで10日

しかし、それ以降千里は科学研究部に顔を見せなくなった。


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