逆効果な行動
(やっぱり気のせいじゃないよね? 見られてるよね?)
目的地への移動中、レイドは自身に降りかかる無数の視線に気づいていた。
先頭を歩いているのだから皆の視線が自然とレイドの方に向かうのは自然なことなのではあるが、その視線とともに注がれる歪な気配がある。
レイドはこの気配に、獲物を狙う狩人と同じ物を感じていた。
「み、みんな、目的地までまだあるし、何かお話でもしようか?」
視線が気になるレイドは先頭から少し戻り、冒険者たちの横にまで移動した。
突然の行動に驚く冒険者たち。それもそのはず、皆は頭の中では絵師に頼んだレイドの絵でいっぱいだったのだ。
レイドの後ろ姿を見ながら絵を想像する、そんな変態的な思考をしていた直後の提案、驚き、そして罪悪感も芽生え始めた。
後方にいる冒険者たちは、ヒソヒソと話し始める。
「俺らもしかして、とんでもなくゲスイことしてるんじゃねえか?」
「そう……かもな。レイドさんは俺たちや街の人間のことを考えて尽力してるっていうのに、それを裏切るようなことをしてるのかも……」
「今からでも、キャンセルした方がいいのかも……」
芽生えた罪悪感に押しつぶされそうになるも、それは一時のこと。
罪悪感も本心だが、レイドのいかがわしい絵を見たいという気持ちもまた本心。
適当な言い訳を考え、自らの行いを正当化し始める。
「レイドさんは、いつもみんなのために戦っている。レイドさんをモチーフにした絵を俺らのモチベーションにすることは、間違いか?」
「……いや、勝手にやってしまったことだけど、これもある意味では俺たちのため。ならきっと、レイドさんも許してくれるはずだ!」
「そうだろ! 俺たちは悪いことなんかなんもしてねえ! 気に病む必要なんかないんだ!」
開き直り、自らの行動を正当化する。冒険者たちは、気付いていない。
どれだけ自分たちを正当化し、さもありなんな言い訳を取り繕ったとしても、その事実をレイドに明かさない時点で、悪いことをしていることを考えていることを。
自覚しているはずだ。だが考えないように、己を誤魔化し気付いていない振りをしている。
(あれ~、おかしいなぁ? なんか、変な気配が強まったような……)
開き直った冒険者たちの視線が、再びレイドに降り注ぐ。
皆からの印象を気にするレイドはその変化を敏感に感じ取り、しかし具体的なことは何も知らない、得体のしれない不安に恐怖するしかなかった。
結局、目的地に到着するまでずっとレイドは歪な気配を感じ続け、戦う前にすでに精神は摩耗してしまった。
「一体なんだったんだ……」
未だ悩みは尽きないが、そんなことを考えている場合ではない。
討伐対象のアサルトドッグ、数が多い分、少しの油断でダメージを負う可能性がある。
慎重に、細心の注意を払って行動を開始する。
「それじゃあいつも通り、僕が先頭に立って敵の注意を引く。みんなは僕を襲うモンスターを始末して……」
作戦を伝えている最中、一人の馬鹿が走り出す。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉl! やってやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
グレンは武器を振りかざし、アサルトドッグの群れの中へと突っ込んでいった。
「なにやってるんだグレンは! みんな、僕もすぐにグレンと一緒に戦うから、隙をついて攻撃を……」
「おっしゃあ! グレンさんに続くぞ!」
「おおおおおおおお!」
「何で勝手に行動するんだよ!」
レイドの話など一切聞かず、男たちは敵の群れに向かって走り出す。
いつもは後方でレイドのサポートをするだけ、いいところは全部人任せな男たちだが、今日だけは、今日からは違う。
レイドにカッコいいところを見せたい。
恋心を受け入れているわけではない。今もなお、苦しみもがいている。
それでも、男として見せたい自分がいる。
ゆえに、レイドの後ろで戦うわけにはいかない。バカな行動と走りつつも、グレンと一緒になって先頭に躍り出るしかない。戦うしかない。
逆効果であるとも知らずに
「……なんで、僕の邪魔をするんだよ」
レイドが目指す物、それは英雄だ。自らが前に出て戦い、皆を鼓舞する存在だ。
なのに他の冒険者たちは自分から前に出て戦っている。
これでは英雄としての行いなどできない。レイドにとって冒険者、そしてグレンがカッコいいところを見せようとした行動は、一切心に響かない。
むしろ嫌悪感を抱かせるほどの、最悪の一手だったのだ。
「レイド様、私たちはどうしたらいいでしょうか?」
「……待っていればいいよ。普段なら危ないけど、グレンがいれば何も問題はない。あんな雑な戦い方でも、勝っちゃうよ」
レイドの言葉通り、アサルトドッグの数は着実に減っている。
時折キケンな状況に陥りつつあるも、グレンがサポートして問題なく対処している。
普段はレイドがしているサポート作業、それを難なくこなすグレンにも、いつも自己主張はあまりしない冒険者たちがグレンとともに戦っていることにも、レイドは腹が立つ。
楽しく豪快に戦いを続けるグレンたちとは真逆。周りの目がある分、表情は穏やかだが、それでも確実に、レイドの心は荒んでいた。
やがて時間が経ち、モンスターの討伐が終わった時、レイドと女冒険者たちは二つ目の依頼、薬草の採取に取り掛かった。
この作業も街の住民に貢献する作業ではあるが、モンスター討伐と比べると地味だ。英雄というよりも、便利屋に近い。
「なあレイド、俺の戦いを見て、どうだった?」
(ぶん殴りたくなるほどに不快だったよ)
それが本心だが、もちろん表に出すことはしない。
作り笑顔を浮かべ、当たり障りない返答をする。
「さすがだね。あんな戦い、僕には出来ないよ。さすが一流冒険者だ」
「そうかそうか、ああそうか。いやー、お前に褒められると照れんな」
本心からの笑顔を浮かべながらグレンは、男冒険者たちの元へと向かっていった。
レイドに聞こえないように会話していることが分かっている。先程の挙動から、仲間外れにされている感があるレイドは、自然と薬草を引き抜く手にも力が入る。
そして、グレンと冒険者たちの話とは、
「さっきの話、本当か? レイドの女体化した絵を作ってもらってるって」
「本当ですよ。依頼に向かわせた奴からの話ですと、夕方には出来上がるらしいです。量産の時間も考えると、遅くとも夜の八時には手に入りますよ」
「なるほど、了解した」
「レイドさんには絶対に言わないでくださいよ? もしばれたら、たとえグレンさんでも許さないですから」
「当たり前だ。というか俺だってレイドの絵は欲しい。手に入れるならいくら払ってでも手に入れる。そんでばれたらあいつに嫌われることぐらい、想像はつく」
「ならいいんです。それでグレンさん、今後もこういった事を話し合う場を考えてまして、参加しますか?」
「もちろんだ。今度は俺の意見も反映させてもらいたいからな」
(僕に内緒で、一体何を話してるんだよ)
自身のいかがわしい絵について話しているとは知らないレイドは、さらに機嫌が悪くなっていく。ただまあ、話の内容を聞けばさらに深いは募るだろうが。
それからもレイドの機嫌がよくなることはなかった。
男だけでなく女もまた、レイドを見てはコソコソと話す動作が増え、大勢の人間がいるというのに、なぜか孤立感を覚え始めた。
過去に自分が何かしてしまったのか?
皆を不快にさせることをしてしまったのか?
そんなことを考えるも、まったく身に覚えはない。
むしろ普段から皆のために尽力し、なのに長距離のマラソンを強いられたり、アグラールという強敵と一人で戦わせるなど、レイドにこそ恨む権利があることばかりが起きている。
考えれば考えるほどいら立ちは増し、得意の作り笑顔もピクつくほどだ。
(……だめだ、心が静まらない。急で迷惑だと思うけど、明日はお家に帰ろう)
これからのことをレイドは決め、無意識のうちに早足になる。
一秒でも早く、皆の傍から離れたい。笑顔の仮面を外し、素の自分を晒したい。
むやみやたらに心を揺り動かされないような、穏やかな環境が欲しい。
(叶うのなら、パパと楽しくおしゃべりしたいな)
絶対に叶わないと知っている、それでも願う。
それこそが、心の平穏を保つ唯一の方法だから。




