『剣と炎』 作者:れいさ
「はーい、ほいじゃークラス合同訓練はじめっぞー。」
相変わらず間延びした声で授業の進行をする不良教官。
クラス合同訓練。私が所属する1-Bと隣のクラスである1-Aとの合同授業。
訓練、と仰々しく呼称はするが言うなれば体育の授業と同じようなものだ。
そもそも訓練だなんてわざわざ呼ぶのは『機関』からのお達しで決められているからだ。
まあ、そんなこと知ってる人間は恐らくこの学園では誰一人居ないだろうけど。
もちろん学園長も含めて。
「てきとーに4、5人くらいでグル作ってウォーミングアップでもしてくれー...ふあぁ。」
微塵もやる気ないわね、あの不良教官。
「よぉーし!じゃあボクとアキとレイサちゃんはもう決まりねーっ!」
「「なぜお前が指揮る。」」
彩希と私の台詞が綺麗に重なり反抗心×2倍で伊藤なんちゃらに文句を言う。
「いやぁこういう時ってアキの取り合いになっちゃうじゃーん?そこでボク!!
スパッ!と間に入りアキを独占!!更にグレェイトクールビューチィなレイサちゃんも独占ッ!」
言い方は非常に腹立たしいが内容は一理ある。
確かに、いまにも彩希に飢えた女子共が襲い掛かってきそうだ。
というか私が彩希と一緒にいるだけでどのみち悪い方向にしか転がらないのよね...。
実際に私を睨み付けて何やらぶつぶつと呟いている女子が多数見受けられる訳だし。
「はぁ...やれやれね。」
「ん?どうした?」
当事者とくればアホ面をしてご丁寧に心配までしてくれる訳だが。
「なんでもないわ...。」
「ねえねえ~。」
ふと人懐こい声が背後から聞こえた。
振り返ると小学生級の小人がぴょんぴょん跳ねながら自己アピールをしていた。
「...なにかしら?」
「あたしもい~れ~て~。」
いや誰だよ。
「お、夏羅那か。」
「そう!『舛月 夏羅那』だよ~ぉ!!」
「かーらなっちゃぁぁぁんっ!!その魅惑のツルペタ大草原バデェは今日も平和でふつくしいいぃっ!!」
「あきらくんあきらくぅ~ん♪」
え、まさかこの変態の理解者だというのこの子?
「しねーーーーーーーーーっ♪」
と思ったら、見事なフォームで正拳突きを伊藤なんたらのみぞおちにぶち込んだ。
満面の笑顔でぶっ放したあたり、たぶんこの子黒いわ、真っ黒だわ。
「と、いうわけで~。いーよねぇあーきくん♪」
脳みそ溶けそうになるくらいのクソ甘ボイスを発しながら彩希の右腕に絡みつき自分の頬を摺り寄せている小学生級。
控えめに言ってきもすぎわろた。
「ん?まあ俺はかまわないぜ。」
彩希の顔めっちゃ死んでるぅぅぅっ!!
もう少しかまってあげなさいよ...。
「れいさたん、あたしのことは『からなちゃん』って呼んでね♪」
「えぇ、よろしく『舛月さん』。」
最大限の笑顔で返してあげた。私、優しすぎる。
「あれれぇ、日本語がわからないかなぁ『からなちゃん』だよぉ~??」
「えぇ、よろしく『舛月さん』...あっいけない間違えちゃったぁ。げへぺろぉ~。」
最大限のにっこり。もといゲス顔。
「ちょっと調子のりすぎなんじゃないかなぁ転入生ちゃん~?」
「お、おいおい、おまえら落ち着けって....。」
「彩希。止めないでくれる?...せっかくだから試してあげるわ。来なさいよ、ロリビッチ。」
「泣いても知んないからな~!この女狐っーーー!!」
ロリビッチの周りの空間が揺らぎだす。
陽炎か?ということは炎系の神憑き...もしくは空間系の神憑きか。
「いくよっ、ホルン!!」
掛け声と同時にロリビッチの周りから火が上がり、その火がロリビッチを包んでいく。
やはり炎系か。『ホルン』とは恐らくロリビッチが使役している何らかの形をした炎の生物。
となれば。
「完成!『炎舞火閃衣』っ!さらにあたしの相棒『ホルン』♪」
なるほど。
ホルンというのは龍型か。小型ではあるがそれなりの力を感じる...。
それにあの『炎舞火閃衣』とかいうロリビッチを包む炎。防御特化で自身を守り、攻撃特化の炎の龍を使役する、か。
戦い方は心得ているようね...。
「さぁさぁれいさたんは何にも出来ないのかなぁ~??」
「ふん。後悔させてあげるわ。」
私は目を閉じ、全神経を集中させる。
短く深呼吸し私は唄う。
『-我、今ここに存在せり 我が魂の輝きは一閃の光となりてその型を成さん その蒼き波動は天を切り裂く剣と成る-』
「力を貸せ、ソウル・ヴレイド!」
ソウル・ヴレイド。
私の1本目の剣。効果は...。
「す、すげぇ...刀身から蒼い何かでてる...。こんなの見たことねーぜ。」
「ふふっ。ソウル・ヴレイド。持ち主の魂の輝きを映し出す剣...名剣よ?」
持ち主の魂の輝きを映し出す剣、などとかっこつけているが端的に言えばようはその時の気分で切れ味が変わるという迷剣。
「んじゃ、さっそくいっちゃうよ~!ホルンっ!ごー!!」
掛け声に合わせホルンという炎龍が突進してくる。
当たれば一たまりもないわね....ならば!
「はぁっ!」
剣を一振りし炎龍を右へ受け流す。
つばぜり合い状態になるのは危険すぎる。
エレメント系の神憑きは空間からの攻撃とその物体からの派生攻撃を得意とする。
つまりむやみに神憑きやその使役する物体に近づくと痛い目をみる。
例えば、この炎龍を正面からまともに受けた場合。
炎龍を爆破させれば私に致命傷を与えることが可能だ。
という訳で突進を繰り返す炎龍を受け流し続けている訳だが。
キリが無い。そしてこのロリビッチ、隙が無い。
私が不意を突き近づけば炎龍を一度消し、再度自身の身に着けている炎から炎龍を発生させ守りに入る。
強い、というか、怠い、の方があっている。
まあ短気な性格が相手なら痺れを切らせて突撃するかもしれないが、そうなればロリビッチの思うつぼ。
「なら...動きを変えるか。」
「いつまで逃げれるかなぁ~♪」
私は立ち止まり刀身に手を添える。
「あはっ♪もらっちゃうよ!!」
炎龍が勢いよく突進を繰り出してくる。
私はタイミングを合わせ刀身から放たれていた蒼い波動を最大放出させ、剣を真下の地面へ向ける。
「なになにっ!?」
蒼い波動の噴出により空高くへと飛ぶ。
「空中とか、詰みゲーだね!食らいついてホルン!」
当然、空では身動きは取れない。
ここぞとばかりに隙を突き炎龍が宙へ浮かぶ私へ目掛け突撃してくる...!
「...ふっ。私の勝ちね。」
飛翔範囲の頂点へとたどり着いた私は剣を背後へ向け、再び波動を放出させ自由落下速度に凄まじい勢いをつける。
「なっ!なななな、なにするつもりっ!?」
「奥義...閃空魂斬ッ!!」
最大放出の蒼い波動を纏ったソウル・ヴレイドをそのまま地上目掛けて振り下ろし、鬱陶しいロリビッチと炎龍をまとめて屠る。
「うっ、うああああああっっっ!!」
「...安心なさい、当ててないから。」
地上へ降り立ち足の力が入らないのか、地面に座り込んでいるロリビッチ、いや...。
「いい戦いぶりだったわ...夏羅那。」
「....すごかった。つよい...つよいね!れいさたん!!」
「ふふっ、当然でしょう?だって私だもの。」
こうして激闘の初・屋外授業は幕を閉じた。