自殺願望の男の子と優しい殺し屋
「お願い……僕を殺して」
僕は訴えた。暗闇の中、僕の前に静かに佇む殺し屋に……
これは数時間前の事だった。
いじめをうけて人を信じられなくなり、家族は僕を心配するどころか無視するようになった。
誰も助けてくれない……
誰も信じることができない……
でも一人で生きられるほど僕は強くない……だったら死ねばいいんだ
だけど交通機関で自殺したら家族どころか、会社にいく人、登校する人とかに迷惑がかかってしまう。そこまで僕は神経が図太くない……
死に方がわからない。苦しんで死にたくない、迷惑をかけたくない。
僕はどうやったら楽に死ねるかを調べた。するとある裏サイトに
~死ぬのをお手伝いします♪~
いつもだったらすぐにこんなサイトを閉じていただろうが、僕はそれほど追い込まれていたのだろう。すぐにサイトに、
「お願いします……」
と書き込んだ。
すると一分も経たない内に返信がきた。
「はい! どこで死にたいですか?」
直球だった。このサイトが本物かもしれないと思い始めた。
「人に迷惑がかからない場所」
と書いたら、
「では、この住所までお越しいただけますか?」
と下に住所が書かれている返信が届いた。
とても怪しかったのだが、今の僕にはこれしか頼れるものがなかった。だからすぐに人生の身支度を終えて、その住所の元へと向かった。
言われた通りの場所に来てみるとそこは、住宅街から離れていて森の近くにあった。小さな物置小屋みたいのが一つだけポツンと建っていて、周りは木ばかりだった。
小屋の近くには看板があり、
「どうぞお入り下さい♪」
とだけ書かれていた。
僕は少しおどおどしながらギーッと不気味に開く扉を開けた。
中はそんなに古くはなく少し前までは使われていたような感じがした。そんなに埃は溜まっていないし、家具も使い古した感じはあるけれど数日前まで誰かが使っていたようだった。
僕はモフモフとしたソファーに座り、暇を潰した。
待っても待ってもこの家には誰も訪れず、そしていつの間にか外は真っ暗になっていた。窓から景色を眺めてみても、暗闇しか見えなかった。木々が風に揺られて、僕の心を不安にさせていく。
僕は耐えきれずソファーから立ち上がり、ドアを開けて外へ出ようとしたとき、突然部屋の中から声が聞こえた。
「こんな夜遅くに外へ出てしまっては迷子になりますよ」
と言われた。その声は子供を諭すときの優しい声だった。
僕はその声に反応して後ろを振り返ると、1人の若い男性がいた。スーツを着ていて姿勢はよく、誰にでも好かれそうな優しい笑みを浮かべていた。
「遅くなってしまい申し訳ありません。不安にさせてしまいましたね。でももう大丈夫ですよ。今からあなたを解放させますから」
「その前に一ついいですか?」
「はい。どうしました?」
「なんでスーツを着ているんですか?」
「会社に行っていたからですよ」
「会社に行ってるんですか!?」
驚いた。殺し屋が社会に出て働くなんて思ってもいなかったから。
「自殺願望の方からの依頼は沢山くるのですが、御代は頂いていないので働かないと生活が厳しいんですよ」
その人は「ハハハ」、と笑った。その様子は近所の近くにいる優しいおじさんにそっくりだった。今から僕を殺す人なのに……
「殺す前にですが……あなたはどうして死にたいと思ったのですか?」
その人は突然聞いてきた。机の上に紅茶とクッキーを置きながら……
「えっ……えっと、クラスから虐められて……親からも見放されて誰も信じられなくなって、そしたらもう死んでやろうと思って……」
「大変でしたね。でもなぜその相手を殺さないのですか?」
「殺せるはずないじゃん! こんな非力な僕に。あともし殺したとしても僕の未来は牢屋だよ!」
一体この人は何を言っているのだろうか!? そんな人としての当たり前を……
「では見つからなければいい。そうすれば君は訴えられないし、虐めた子を殺し放題だ」
その言葉に僕は呆気にとられた。この人は僕達が持っている常識に縛られていないんだ。だからこんな事を考えられるし、実行に移す。
それを僕は少し格好いいと思ってしまった。その人の生き様に……
「でも……僕にはそんな事できないし、する勇気もない…」
僕がこう言ったらその人は、大きな温かい手で僕の頭を撫で回してた。
久しぶりの人の優しい手だった。それが僕がこの道に進む引き金になった……
「では教えてあげよう。ようこそ、自殺願望の小さい殺し屋さん!」