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5.踏み出す一歩はもう決まり。

「さて、私は優秀な王子だ。利己的で打算的で、くわえて温情厚い。リョウタ、君は理解しているか?」


 メヴィルの手料理を口に入れてから、てきとうに頷いておく。ちなみに、あまりおいしくない。


「リョウタが村の宿にいると一報入ったときは、件の異世界からの来訪者による噂のことは微塵も考えてなかった。では、王子たる私がなぜわざわざ足を通わせたのか? わかるか?」


 今度は首を横に振っておく。あいにく照り焼きに似たものが口いっぱいにあるから返事ができない。


「私が注目したのは、『ブレルニールがいる』という情報のみだ」


「弟が心配だったとか?」


 と答えた瞬間、メヴィルが鼻で笑った気がした。アルマは馬鹿にするような笑みを浮かべながら、肩をすくめる。


「まさか。ブレルニールの所在ははっきりしていたし、まず本人ではないとわかっていた」


「じゃあどうして」


「国民が見間違えるほどの似通った人物をつかって、なにかできないかと考えたからだ。だから己の目でたしかめに来た」


 まったくもって、興味のない話だった。

 それでもここで投げ出すわけにはいかない。アイムジャパニーズジェイケイという、英語としてのきちんとした言葉が噂になったということは、噂は噂ではないということだ。

 JKという文化はこの世界にないだろうし、火のないところには煙が立ちようがない。


 さらなる情報を得る、あるいは女子高生を探すには、目の前の王子の力を借りる他ない。だからここは、なるべく従順でいるべきなのだ。


「今や王の座を巡って兄と弟は一触即発、戦争寸前の状態なのだ」


 なるほど、と俺は思う。打倒すべき弟に対する手札は多いほうがいい。今も水面下では様々な政治的駆け引きが混沌と入り乱れているに違いない。

 弟であるブレルニールに似ている俺は、まさに手札の仲間入りをさせるにふさわしいというわけだ。


 そのことを伝えると、アルマは嬉しそうに頷いた。


「その通り、飲み込みが早いな」


 二次元世界では数多くの似たような争い(シリーズ)があったのは言うまでもない。実際に参加せずともテレビの前で眺め培ってきた知識が初めて活用されたのだ。テレビっ子ばんざい。


「君の言うジョシコウセイの噂が立ったのは、我が国の最北端に位置する独立国、『ピペタ』だ。メビルフィールの加盟国とは言え、他国に足を運ぶのはリョウタひとりでは無理だろう」


「つまり、お互い助け合おうということですね?」


「ああ、その通りだ。私の王位継承を君が手伝うかわりに、私も君に協力しよう」


 アルマは握手を求め、俺もそれに答える。


「よろしくお願いします」


「これからは利害の一致した同志だ。そんなかしこまった言葉は遠慮してくれ」


「わかったよアルマ。よろしく。メヴィルもよろしく」


「私には、かしこまってください」


 メヴィルの目が恐ろしい威嚇をしてくる。この人はいつになったら心を開いてくれるんだ。


「まあまあメヴィル、そう言うな。これからは同じ屋根のしたで過ごす仲だろう」


「場合によっては殺しても良い許可をください」


「すいませんメヴィル様やめてくださいなにもしませんどの場合で殺すのですか」


 アルマは愉快そうに笑う。いや笑える状況じゃねえよ。


 とにもかくにも、俺のすべき方向性は定まりつつあった。

 どうなるかはわからない。でも、どうにかしなくてはいけない。

 アルマの不快な笑い声を遮断し、窓から空を眺める。太陽がゆっくりと地平線へ向けて下降し、雲は太陽よりも若干急ぎ足で流れていく。

 もうすぐ、夕方を迎える時間のようだ

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