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きみとボクの異世界譚。  作者: あるるるるるるるるる
第2章:王位継承編
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24.ピペタにて。




「さ、さむ……」


 馬で北上するほど寒さが強くなる。

 緑の多い景色は次第に雪に染められ幻想的になる。


 関所を越えた時点でピペタの領地となっていたが、これほどまでの気温差がでてくるとは思わなかった。


 ピペタは元々メベルフィール国内の街のひとつだった。

 数百年前に街の長が独立を目的に反旗を翻し内乱が勃発、無論メベルフィール国軍に数日で鎮圧されるも、当時の国王の計らいにより街は国として生まれ変わった。

 周辺地域は鉱石が盛んで、他国との貿易を収入源に形成を立てることに成功。今では立派な独立国家として存在している。


 国として生まれ変わるかわるための条件としてメベルフィールとの和平同盟を組み、それに際して近隣の国家も加わった。

 当時の国王、ネル・エフェルメントの目的は最初からメベルフィールを中心とした同盟を築き上げることなのではないかと言われており、隠れた英雄として伝えられている。のだとか。


「上着、持ってきていたのだけど、なくなったから我慢して」


「わかってはいるが、そろそろ限界だ」


「もうすぐ到着する」


 所々で馬を休ませながら、できる限り急いでいたのはわかっている。

 朝日とともに出立したものの、すでに太陽は空のてっぺんにまで登り切っており、あとは徐々に下りながら赤く染まっていくだけだ。


 昨夜に魚を二尾食べて以来なにも口にしていない。

 寒さも当然ながら腹の虫も餓死しかけている。

 早く早くと急く心を落ち着かせようと深呼吸をする。白色の息が霧散するのを見つめていると、そのずっと先に大きな建物の屋根が見えた。


「もしかして、あれか?」


「そう。あれ、ピペタ城」


 やっとか! 長い道のりだった。

 メベルフィールほどではないが、立派な城構えを中心に大きな街が広がっていた。巨大な壁で守られているわけではないが、その分俺のような小心者には親しみの感じやすい。


 門番に話を通し、馬を停めて街に踏み入れる。


「ここが、ピペタの街か……」


 ヨーロッパ風の建物が密集するように立ち並び、雪を被っている。コートを着込んだ人々が楽しげに交じり合うが人口密度はそんなにない印象だ。同時に独特の哀愁を感じた。

 雪の積もる国というだけあって、クリスマスの夜なんかに行くと雰囲気とマッチして楽しめるに違いない。


 門番に話を聞くと、アルマは半日前に入国しているとのことだった。ブレルニール一行はそれよりもずっと前にやってきているようだ。

 アルマたちがどこに行ったか聞いてみるが、案の定わからないという答えしか得ることができなかった。


「まず、サンテスのところ、行く」


「サンテスがいるのか?」


 メヴィルは当然のように頷く。


「怪我人を治療できるよう、前もって駐在させていた。カーナの治療のため、アルマ様、寄っているはず」


 ピペタにも当然医者はいるはずだが、そこに頼る選択肢はアルマのなかにはないのだろう。サンテスがどれほど信用されているのかがうかがえる。


 俺たちは歩を早めた。




   ◆




「遅かったじゃないか」


 街にあるホテルの一室で、サンテスはほっとしたように出迎えた。医療器具らしきものがびっしりと揃っている。持ち込んできたのだろう。


 ふたつあるダブルベッドのうちのひとつで、カーナは安らかな表情で眠っている。もう片方のベッドにはジルベルトがイライラを孕んだ面持ちで座っていた。


「ジルベルト、無事だったのね」


「当然だ。さっさと準備をして行くぞ」


 ジルベルトも怪我の治療をしていたはずだが、すでに鎧を身にまとっている準備万全と言ったところだ。聞いた話だと全身擦り傷程度で、行動するに問題はないらしい。同じく王家騎士団長のひとりであるユゲットの兵器攻撃を擦り傷で終わらせるとは、化物と例える他ない。


 カーナも命には別状ないと聞き、心の底から安堵する。損傷した内臓の処置は完了したが、いかんせん血が足りていないため、しばらく安静にする必要はあるとサンテスは言う。


「私も戦士としてアルマ様についていきたいところだが、カーナを放っておくわけにはいかない。よろしく頼んだぞ」


 サンテスはなぜか俺に目を向けて言った。反射的にコクコクと頷くが、頼りになるかどうかは不安しかなかった。


「アルマ様、どこに?」


「一刻ほどまえに出て行った。ブレルニール様が先に街に出たという情報はまだないが、急いだほうがいい。いまならアルマ様に追いつく」


 サンテスの神妙な面持ちが、事態の深刻さを物語る。

 俺たちはすぐに出発する準備を始める。ショルダーバッグのなかのエレセントを確認し、サンテスが準備をしていた上着を羽織り、食料を持つ。


 部屋をでるまえに剣を渡される。

 修行のときに使っていた物とは違って、金がかかってそうな刀身をしていた。


「現段階ではおまえの強さは期待していない。だが、頼りにしている」


「いだっ」


 背中を勢いよく叩かれる。

 サンテスとはおよそ一ヵ月修行に付き合ってもらった仲だから、そう言ってもらえると自信になる。

 でも、はっきり強さは否定されるのは少し悲しいな。それでどうして頼りにできるんだよ。


 そんなことを思いつつ、カーナの寝顔を一瞥する。


 端正な顔立ちは静かな眠りを一層美しく見せる。まるで天使だ。

 じゃあなカーナ。おまえの分まで頑張ってくるよ。


「リョウタ、はやく」


「ああ」


 急かすメヴィルのあとにつき、ジルベルトとともに廊下を歩いている時だった。外から大勢の歓声が響いた。俺たちは顔を見合わせてから、ダッシュでホテルを飛び出す。


 すぐに見知らぬ街人と衝突する。

 なにごとかと顔を上げると、眼前は人でごった返していた。

 ホテル前の大通りは、俺たちが出立するときと同じように、道の真ん中を開けるようにしてたくさんの人が並んでいた。


「おい、あれ」


 ジルベルトは誰よりも大きな位置から指を差す。

 道の奥で、ブレルニール一行が歩いているのが見えた。まるで凱旋パレードのようだった。


 まさか――。

 ブレルニールはすでに北にあるペポナ祭壇で、目的の羽衣を手に入れたというのか。


 メヴィルはすぐさま街人から何事かと情報を聞き出す。

「これよりピペタを北上しペポナ祭壇を踏破する。そして羽衣を手にし、帰ってこようぞ」

 という旨の宣言だそうだ。俺の心配は杞憂で済んだ。


 それにしても、とっくにピペタへ到着していたであろうブレルニールは、なぜこうも余裕飄々と今まで滞在していたんだ?


「リョウタ、ジルベルト、急ぐよ」


 メヴィルの言葉で疑問消し去る。考えたところで答えはでてこないだろうし、今はアルマと合流するのが先だ。



 人混みと建物の間を縫うようにして進もうとするが、どうにも前に進めない。ブレルニールはまだ遠目にいるから注目されないだろうが、さすがに中央の空いた道を行くには目立ちすぎる。

 くそ、邪魔だこいつら。


 そう思っていると、ジルベルトが俺の身体を軽々と担いだ。


「おせえぞ凡人。行くぞ」


 二メートルある図体は人混みのなかでも相当の威圧感を持ち、ぐんぐんと人混みをわけて進行し始める。


 その時だった。


「み――ま――みや――くん! 宮間くん!」


 後ろのほうから、聞き覚えのある声が聞こえた。

 確認したいが担がれていて振り向けない。


「ちょ、ジルベルト、まっ――」


「うるせえ黙ってろ。すぐに抜け出してやっから」


 そういうことじゃねえ!

 宮間くん。間違いなく俺の苗字だ。


 ブレルニールが何かしたのか、歓声が大きくなり、俺の名を呼ぶ声が同時に掻き消える。


 違う。いま気にすることじゃない。首を振る。

 まずはアルマと合流し目的を果たすことが先決だ。


 ジョシコウセイの存在は確信できた。

 依然としてピペタにいるのなら、いまある問題を片付けてからでも遅くないだろう。


 焦る気持ちを落ち着かせ、ジルベルトに担がれながら前を見る。

 

 アルマを王にする。

 約束は、きちんと果たしてやるぜ。





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