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きみとボクの異世界譚。  作者: あるるるるるるるるる
第2章:王位継承編
20/27

19.開幕。

 視界いっぱいに人が溢れかえっており、俺たちを取り囲んでいる。


 城の門前からまっすぐ伸びた道の両脇は行列がまっすぐと隙間なく伸びており、数々の声援とともに紙吹雪があちこちで飛び交う。

 あまりにも広闊な催しに狼狽えるしかなかった。地元で年に一回開かれる夏祭りが俺の体感したなかで最大の催しなのだが、それを楽々と飛び越えるほどだ。まるでオリンピックの開会式のど真ん中に立っている気分でいる。


 今から、王位継承に向けての催しが開かれる。


 一ヶ月弱、死にものぐるいで鍛錬に励んできたつもりだが、漠然とした緊張と不安が胸のなかでいっぱいに広がり、手足を震えさせる。


 右に並ぶ面々を一顧する。


 アルマとメヴィル、メロ、カーナ、そしてジルベルトという身長二メートルは越える体躯をもった女の順で並んでいた。


 ジルベルトとは前夜に初めて顔を合わせた。なんでも、第三まである王家騎士団の第二にあたる団長だとか。重たそうな鎧に身を包み、目つきの悪い目と赤色の髪が威圧感を一層引き立てていた。しかしながら、武器のようなものはなにひとつ所持していない。


 王家騎士団は数百を越える人数で構成されており、三つの騎士団をあわせれば千以上にのぼる。当然、騎士団のなかでもアルマ派とブレルニール派で支持者はわかれており、ジルベルトはアルマ派のひとりである。


 ジルベルトの話では、騎士団をはじめとした組織の多くはアルマ派を指示しているが、それは表面上の話であって一部アルマ派のなかに隠れたブレルニール派が多数いる。ブレルニールの狡猾な一面を国民は知っており、悪名高くともその能力は買っている。国民とはいつだって大きな変化を欲しており、変革に期待を寄せブレルニールを指示する者も多い。


 一連の催しで、いかにしてブレルニールの狡猾さを上回る知恵と能力を見せつけることができるか。アルマが王位継承権を得るにはその点が重要になってくる。


 アルマはまっすぐな目を正面に向け凛とした顔を崩さずにいた。同様にメヴィルも表情を変えない。メロは騒ぐ国民たちに笑顔で手を振っており、カーナはなにを考えているのかわからない顔をしている。ジルベルトはというと、俺の左に並ぶブレルニール一行に身が竦むような眼光をぶつけていた。


 ブレルニール一行のなかには第一騎士団長、ユゲットという申し訳程度にあごに髭を蓄えた男がいた。ジルベルトとは犬猿の仲らしい。ユゲットも武器らしいものはなにひとつ持っていない。騎士というものだから大きな剣かなにかを持っていそうだが、そんなことはないのだろうか。

 隣には、俺と共に国王から指名を受けたメガネ少女ヒエラ、大きな弓を背負ったキザったらしい男が立っている。そして後続には数十人の兵士が綺麗な列をなしていた。ユゲットの団に属する者たちだろう。狩猟遊郭のときにいた大男、トルネロは見あたらなかった。


「なあアルマ。あっちはたくさん味方がいるのに、俺たちは兵士を従えなくていいのか?」


「今回の催しは戦争ではなく競争だ。人数が多ければいいというわけではない」


「じゃあどうしてブレルニールはたくさんの兵士を連れているんだ?」


 ふん、とジルベルトが鼻で笑う。

「ユゲットのくそ野郎の意向だろうな。あいつはいつだって兵士を連れて偉そうにするお山の大将なんだよくそ死ねあご髭くそ野郎」


 ジルベルトは尋常じゃなく口が悪い。それは前夜に少し会っただけでわかった。ユゲットの髭がださいというのは同意だ。


 真上からラッパを鳴らすような音が響いた。

 門上の見張り棟から、顎だけでなくモミアゲから繋がる仰山な髭を生やした年寄りと、アルマたちの妹であるシルフィンが現れる。国民を含めた全員が見上げる。


「あのお方、国王」


 メヴィルがぼそりに教えてくれる。

 見た目の仰々しさと威圧感からなんとなくわかっていた。どことなくアルマたちの面影を感じる。


「これより、王位継承候補による競合いをはじめる」


 国王の声が一帯全体に響きわたる。拡声器を使っている様子はないが、魔法かなにかだろうか。

 歓声が十倍ほど盛り上がり、思わず耳をふさぐ。


「規定は単純。移動集団や人数は問わない。ピペタを縦断した先にあるペポナ祭壇に祀られし羽衣を手にし、城へ持ち帰えりし者が勝利である」


 さらに歓声があがる。

「お兄様たち、がんばってください」というシルフィンの声援が付け足される。


 それぞれが門前につながれた馬にまたがり、まっすぐ伸びる道をブレルニール一行、俺たちの順でゆっくり進む。

 道を開けてに並ぶ国民たちはアロマあるいはブレルニールの出立を見送り、声援を送る。街をでると狩猟遊郭のときも走った平原が広がっており、ここがスタート地点となる。

 俺はメロと共に一頭の馬に乗り、アロマとメヴィルが横並びで進む真後ろに付く。


「いよいよですね。がんばりましょう」


 メロは周囲に向けて手を振りながら言う。

 そうだな、と一言だけ返すだけでいっぱいいっぱいだった。たくさんの視線が重圧となって心臓を震わせる。緊張しにくい体質だと思っていたが、それは緊張する機会をあまり経験していなかっただけなのだと痛感する。


「大丈夫。街をでて競争がはじまれば静かになります。そうなれば、緊張することもなくなるでしょう」


 メロの優しい励ましに頷く。

 今日までの鍛錬を思い出しつつ、深呼吸を重ねる。


 選挙活動の一環でピペタに赴く予定が、まさかこんな形になるとは思わなかった。

 アルマはジョシコウセイが見つかるといいな、と言っていたが、おそらく捜す余裕はないだろう。とにかく今は、足を引っ張らないよう全力を尽くすのみだ。


 街の出口に到着する。同時に、眼前にそびえる巨大な門がゆっくりと開かれる。狩猟遊郭のときは城の裏側から密かに外へでたが、今回は王族らしく堂々とできる。


 門をくぐるとブレルニール一行は左側へ、俺たちは右側へと曲がり、しばらく進んでから待機する。ブレルニールとの距離が数百メートル離れる。

 街を囲む巨大な壁のうえからも大勢の国民が見下ろしていて、依然として騒々しい空気に変わりはない。


「いつまで待機するんだ?」


「国王がこちらまで来て、始まりの合図を示してくれるまでです」


 国をあげての行事は、いちいち面倒だなと感じた。政治や学校の行事もそうだが、いろいろな段階を踏まなくてはいけなくて煩わしい。

 そんなことを考えていると、だんだんと緊張が和らいできた。


 そうだ。競争なんだ。なにも殺し合いをするわけではない。

 旅と言えるものではあるが、血生臭いものではないと思うとそこまで緊張する必要もないじゃないか。


 そう思えるぐらいの余裕はでてきた。


 メロの笑顔でさらに心のゆとりをもたせて、アルマの真剣な目を見て身を引き締める。隣で手綱をもつジルベルトの表情も真剣で、その後ろで背中をあわせるように座るカーナは虚空を見つめながらぶつぶつとなにかを呟き続けていた。壊れたロボットみたいに、気味が悪いほどの早さで口を動かしている。


「なあ、」とカーナに声をかけようとしたところでメロにとめられる。


「カーナは呪文の詠唱中です。そっとしてあげてください」


 呪文の詠唱? 街を進んでいるときからずっとだぞ?


 突然、俺の疑問をかき消すほどの破裂音が上空でこだまする。

 色とりどりの狼煙が空を飾り、俺たちを見送っていた。空も俺たちを出立を歓迎するように青が広がっている。


「はじまるぞ!」


 アルマが叫ぶ。聞いたことのない声量だった。

 短剣を抜き取り、空高くつき上げる。


「それでは、健闘を祈る」


 どこからか国王の声が聞こえ――そして、巨大な鐘の音が鳴る。


 ――ゴーン――ゴーン――。


「――走れ!」


 短剣が前方を指す。刹那、馬が一斉に滑走する。

 あまりに突然のことでメロにしがみつく。狩猟遊郭のときには体感したことのない速度だった。


 とっさに後方を振り返る。

 真後ろにはジルベルトとカーナの乗った馬が――その遙か後ろ、門のわきでブレルニール一行は馬にも乗らずにその場で留まっていた。中央にはブレルニールにかわってユゲットが立っている。


 なんだ? あいつら突っ立ってなにをしているんだ?


 そう怪訝したとき、ユゲットがゆっくりと両手をかざす――その瞬間だった。

 

 なにもない空間から大量の物体が出現した。なにかの材料が現れ、それらが一瞬で自動的に組み上がり形にする。ユゲットを中心に、横並びに次々と配置されていく。

 目をこらしてみる。筒状の鉄の塊、巨大なボウガンのような代物、なにかを飛ばすのに最適な荷車のようなーー


「おい! メロ、うしろ!」


 大砲、バリスタ、投擲機。

 一瞬で大量生成されたそれは、すべて兵器だった。その数、百を越えるかもしれない。


「リョウタさん、しっかりつかまっていてください!」


 メロは正面を見たまま鞭で馬の横腹を叩く。走行速度がさらにあがる。


 おい、だからうしろ――


 けたたましい轟音が地を震わせた。

 再度後ろを振り返る。視界を覆うほどの鉛玉と弓と火の玉が一直線に飛んでくる。


「カーナ! 今!」


 メロが叫ぶ。

 最後尾を走るジルベルトの後ろでカーナの掲げられた両手だけが見える。


「天に授かりし御霊の力……我が身を守る盾となれ!」


 カーナがはっきりとした声を上げた瞬間、飛んできた驚異のすべてが直撃寸前で一斉に宙で爆発した。まるで見えざる壁に衝突したかのようだった。

 驚きと恐怖で馬から転落しそうになる俺をメロが引き上げる。


 後方は黒煙以外のものはなにも見えなくなっていた。煙の奥から、ふたたび轟音が響く。


「第二波! カーナ!」


 煙のなかから現れたのは、さきほどと同じ兵器から射出された弾の数々だ。

 またしても見えざる壁に炸裂し爆発を繰り返す。


 第三第四と攻撃は続くが、そのすべてが俺たちに届く前に弾ける。あまりの攻撃量に、草原のど真ん中で火柱が立ち上る。


「カーナ! 大丈夫!?」


 メロが叫ぶ。

 カーナの声は聞こえないが、かわりにジルベルトが親指を立てて無事を示す。


「ユゲットの野郎、投擲機で魔纏された岩も投げつけてきやがった。ぜってーいつか殺してやる」


 突然の事態に混乱しかなかった。


「いったいなにが起こったんだ?」


 俺の叫びの疑問にメロが答える。


「騎士団長ユゲット殿が兵器を召喚するとともに一斉攻撃を仕掛け、それをカーナに魔法壁で守ってもらいました!」


「大量兵器の総攻撃をカーナひとりで防いだのか?」


「はい! カーナの魔法の威力は常軌を逸するほどです。そのかわりに詠唱に時間がかかるんです」


 スタートまえからぶつぶつと呟いていたのは、そのためだったのか。


「はっはっは!」前方を走るアルマがあざとさいっぱいで高らかに笑う。

「案ずるな。ユゲットがいる時点で初手は読めていた! これで我々が遙か先を走る優位に立てた。さすがはカーナ・マーレロイドだ。くわえて黒煙で我々の詳しい位置が確認できん! 今のうちに進路をずらすぞ!」


 唖然とするしかない。

 これは競争であって殺し合いではない。そんなことを考えていた十分前の自分を殴りたくなった。


 走行を若干左に傾ける。かなり広範囲に黒煙が広がっており、俺たちとブレルニールは互いに視認できない状態だ。


 第五波。ユゲットの総攻撃は俺たちの脇を抜け、誰もいない平原をえぐりとる。


「ばかめ、まだ攻撃するつもりなのか。いまのうちに距離を離すぞ!」


 アルマが叫んだときだった。


「おい!」


 ジルベルトが慌てた様子で声を荒げる。


 振り返ったときには、カーナが馬から落下し地面に勢いよく転がっていた。


 全員が急ブレーキをかける。

 

「どうした!」


「カーナが矢にやられました! すぐに拾います!」


 混乱の境地にいるなか、四頭の馬はすぐさま引き返し地に横たわるカーナに駆け寄る。

 地面を転がったことで全身傷だらけで、くわえて腹部に矢が突き刺さっていた。だくだくと血が溢れて周囲を濡らしている。


 ジルベルトはすぐさま馬から降りてカーナを担ぎ、メヴィルの馬に乗せる。

 黒煙の向こうで爆音が響く――第六波だ。


「アルマ様! みんなを連れて先に行ってください!」


「任せたぞ!」


 アルマはすぐに馬を走らせ、カーナを乗せたメヴィル、メロと続く。即座にジルベルトと馬一頭を置いてく判断を下したようだ。


 ジルベルトはすぐさまユゲットと同じように兵器を大量出現させ、それらを第六波に向けて一斉射撃し迎撃する。


 爆発が一帯に広がる。黒煙がさらに広がり、ジルベルトの姿が見えなくなる。

 

「おい! 置いていっていいのかよ!」


 思わず叫んでいた。

 黒煙のせいでユゲットの攻撃すべてを打ち落とすことはできないだろう。そうなればジルベルトは一瞬で爆発の海に身を落とすこととなる。


「ジルベルトを信じる! あいつならば大丈夫だ!」


 アルマはそれだけ言うと、すぐに顔を前へ向けてひたすらに直進した。メヴィル、メロが走らせる馬もそれに続く。

 メヴィルは片手で手綱を、もう片手で後ろに乗せられたカーナを支える。カーナは馬の動きにあわせて大きく揺れており、意識が失われているのが見てとれる。


「そばにある森に入るぞ。一度身を隠しカーナの治療にあたる!」


 後方では依然として爆音が響き続ける。

 平和な草原は一瞬で地獄絵図となり、草木の燃える臭いが鼻孔をつく。


 ジルベルトは置き去り、そしてカーナは重傷。

 競争の開幕は、最悪すぎる状況を迎えた。



 




 





修行の話やらなにやらは閑話として近いうち書けたらなと思ってます。

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