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きみとボクの異世界譚。  作者: あるるるるるるるるる
第2章:王位継承編
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18.アルマの意思。

 俺には人並み程度の魔力があるらしい。

 カーナが俺の額に指を当てながら教えてくれた。

 扱いようによっては、戦いにうまく使えるのだとか。


 その扱い方とは、主に魔纏されたベルトの起動と使用だ。


「うわ、身体が軽い!」


 カーナに渡された起動済みのベルトを着用した感想である。

 ベルトを起動することで身体能力の底上げをしてくれるらしい。ベルトが持っている特性上、それが最善の魔纏であり、俺としてもいちばん助かるものだ。


 なぜ所持しているベルトが魔纏のできる性質を持っていたのか、カーナにも不思議らしい。とにかくラッキーであるは間違いない。


 俊敏に動くこともできれば瞬発力そのものもあがった。サンテスにもらった剣も、ベルトを着用しているかしていないかで感じる重さがまるで違った。


 もっとも、身体能力があがったところで戦闘力そのものは変わらない。

 試しにサンテスと剣を交えてみたが、一瞬で剣を取り上げられ地面に転がることとなった。


 まずは剣の基本的な扱いかたをサンテスから習う。

 それと並行して、カーナから魔力の操作について教わる。

 それ以外の時間は体力づくりの鍛錬をメロに付き合ってもらう。


 つぎの催しまで、一ヶ月弱。

 これらに全身全霊を捧げることとなった。


 サンテスの容赦ない鍛錬で体中が傷だらけになる。

 ベルトの魔纏効果で身軽な身体を動かし隙きをついたりを試みるが、サンテスはそれを簡単に避け、俺の腕を掴んで投げ飛ばすを繰り返す。

 太刀筋や攻撃の仕方などを体感的に覚えさせられ、一日目にして死を覚悟するほどだった。

 

 その次に魔力操作だが、体内で魔力の流動を感じろとか訳のわからない説明を受けて脳みそが破裂するかと思った。

 今はカーナの魔力によりベルトは起動しているが、本来であれば俺が俺の魔力をベルトに注ぎ使用することが必要不可欠だ。

 効果が持続される時間はそこまで長くなく、回数は使えるがそれも魔力が枯渇すれば不可能だ。最低限の魔力をうまく操作していかなければ、身軽になった身体も、魔力不足ヘタってしまうから意味を為さない。

 カーナが俺に触れると、体内になにかが巡っているのを感じることができた。それが魔力らしいが、カーナの手が離れると感覚が消えてしまう。まずは魔力の流動を身体で覚えることがなにより必要なことらしい。


 夕刻を迎えると、帰宅ついでにメロと共にメヴィル宅までランニングをする。

 鍛錬後ということもあり、途方に暮れるぐらいの距離を走ったように感じた。

 もちろんベルトの効力を使うわけでもないから、身体がずっしりと重たい。なんの効力もなく身体を軽々を扱うメロの身体能力に感服と悔しさが入り交じる。


 帰宅したら、メロお手製の肉料理を堪能する。

 正直いますぐにでも身体を横にして眠りにつきたいが、体力づくりには食事も大切だと無理にでも喉を通そうとする。

 結果的に、メロの手料理が感涙するレベルにおいしすぎてぺろりと平らげてしまったのだが。あまりのおいしさにカーナが穏やかな微笑を浮かべたところも見逃さなかった。


 そんな生活が一週間ほど過ぎた頃だった。


 アルマとメヴィルが俺たちのもとへ一時的に帰還した。


「驚くべき展開だが、決まってしまったのはしょうがない。引き続き鍛錬のほう、よろしく頼んだぞ」


 部屋の掃除をするメヴィルとメロを横目にアルマは言った。

 一時帰還した理由は、俺の鍛錬の状況と得た情報を共有することだった。


 アルマはテーブルに置かれた紅茶のようなものを一口飲んでから、情報とやらを教えてくれた。


「リョウタたちが参加しなくてはならないという新たな制約についてだが、どうやら国王に進言したある人物の働きがあるらしい」


「ある人物?」


 出された飲み物に触れないまま、俺は身を乗り出して聞く。


「我がエフェルメント家に代々側近として付いている進言者、ノウマンの提案であると考えられる。ノウマン家は国家設立時代から占いと予言をもちいた術を使いエフェルメントを支えている。どういった趨勢の果てにリョウタとヒエラを指名するに至ったのかはわからないが……ノウマンの進言によるものだとすれば、きみたちは国の未来を担う大きななにかを持っているのかもしれないな」


「なにかってなんだよ」


 アルマは目をつむって首を振る。


「わからない。国を改革する力を持っている可能性もあれば、国の窮地を救う英雄となる未来があるのかもしれない。我々もしくはメベルフィール国と関わる大きな使命や関わりがある可能性は高いわけだ。私とリョウタが出会ったことも、導かれし運命とやらなのかもしれんな」


 突然の壮大過ぎる話に、呆然とするしかなかった。

 これで単純によっしゃああ頑張るぞうなんて思うこともできなければ、そんなの荷が重すぎて無理だよ! なんて考えることもない。

 アルマの説明がただただ耳に入り脳みそをぐるぐると巡って耳から出ていっただけだ。理解はしているが飲み込めてはいないという、なんとも言えない状態だ。


「とにかくだ。別世界から飛び込み混乱と戸惑いの渦中にいるなか申し訳ないとは思うが――私にとってリョウタ、きみは私の運命を決める命と同等の存在だ。その意味を、理解してほしい」


 俺の呆然っぷりは依然として続いた。

 ここですぐにYesと答えることができる人間は、よほど肝の座った屈強な者だけだろう。


 俺の返事を待つことなく、アルマは話を続けた。


「聞いてると思うが、次の催しは競争だ。この街から北端にずっと進みピペタを縦断。そこからさらに北へ進みとある祭壇を訪れるという長い道のりだ」


 反応しないことを気に留める様子もなく、アルマは紅茶もどきを一気に飲み干した。


「過酷な催しとなるだろう。鍛錬をしっかりと頼んだぞ」


「あ、ああ……」


 これが精一杯の返事だった。

 そんな心情を察してか、アルマは優しく微笑みながら俺の右肩に手を置いた。


「リョウタの心情は察しているつもりだ。戸惑うのは当然のことであり、かくいう私だって戸惑いを隠せているわけではない。ただ、私の話したことを理解してほしい。よろしく頼んだぞ」


 その言葉を最後にアルマは再び外にでる準備を始めた。


 帰り際、メヴィルが耳元で「しっかりして」と声をかけてくれた。相変わらず冷めきった表情だが、なんとなく、瞳の奥に温もりが宿っている気がした。

 「私たちも混乱してるの。当の本人であれば、それ、顕著でしょう。いま、なにも考えなくていい。あとで整理して」


 アルマとメヴィルは風のように去っていった。

 玄関で見送っている間もぼうっと頭のなかにふわふわとした空気が回っていた。となりでお辞儀をしていたメロは、心配そうな顔で見上げてきた。


「ああ、大丈夫だよ」


 メロが口を開くまえに言う。

 大丈夫。驚いているだけで理解はしている。

 別段恐怖心があるわけでもない。

 ただ胸のずっとずっと奥が、徐々に熱を帯びてきているだけだ。


 これがなんのなのかはわからない。

 静かなる闘志が燃えてきているのかもしれないし、緊張でいっぱいいっぱいになっているだけかもしれない。


 ただひとつ言えるのは、これが悪い感情によるものではないということだ。


 あとでゆっくりと、アルマの言葉を反芻しておこう。


 感じずにはいられないのだ。

 俺が異世界にきた理由に、意味があることを。

 単なる事故や偶然で異世界に運ばれたわけではないということを。


 サンテスに聞いただけで漠然としていた話の内容も、アルマから壮大に膨らんだ細かい部分を知ってより自分の立ち位置を感じ取った。


 とにかく今は、できる限りを努めていこうではないか。

 明日からも、鍛錬の続きだ。


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