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第34話 ~真贋~ #3

**************


 フィアはきっとオレギンが戦うところを一度も見なかったのだろう。

 いつも戦闘に参加せず傍観する「戦わない男」を、「戦えない男」だと錯覚したのだろうか。

 戦闘不能かどうかを確認せずに敵を放置したのは、プロの傭兵としては大失態だった。


 今、雨のように降り注ぐ鎌の攻撃を一度でも見ていたらあんなヘマはしなかっただろう。


『ぐっ』


 サユは左手の西の「赤の師子王」に借りた盾で防ぐが鎖鎌の勢いに耐えきれず、再び吹き飛ばされた。

 これで地面の上を転がされるのは何度目だろう。

 アーマースーツの大部分が剥がれ落ち、肌が露出している。


 魔法を大放出して敵の動きを読むつもりが読み切れない。

 鎖をくねらせ蛇のように攻撃してくるかと思えば、

 鎖をピンと張って大鎌のように振り回してくる。

 

『うぐぐっ』


 痛みを堪えて立ち上がる。

 パタパタと道路の上に血が降り注ぐ。

 

「グハハハッ、

 このまましてやろうか、裸に。

 まあ興味はないがな、お前の裸なんぞに」


 倒れると追撃してこず、ニヤニヤと笑いながらお喋りに講ずる。

 オレギンはサユをいたぶる事を楽しんでいる。


 男は知っている。

 フィアの言葉で、既にモミジが館の中に入ってる事を。

 ルコリーが彼女に殺されていると考え、こうして余裕を持って戦っているのだろう。 

 

「速くなるな、剣速が。

 戦えば戦うほどに。

 さすが負かしただけあるな、サンシャを」


 身体は傷だらけ、疲れもピークをとうに過ぎているがそれだけは負けない。

 弟子一番とはいえ、剣術は師匠の足元にも及ばないが、剣速だけは師匠に引けを取らない。

 師匠から一本取った時も、剣速を最大限まで上げた時だけだ。


 変型長刀を突出し、オレギンに突進していくサユ。

 鎖鎌に阻まれ男の身体を突くことは叶わず、結局自在に動く鎌に合わせて長刀を振りまわす事になる。

 もう少し。

 あとも少し剣速を上げればオレギンを斬ることができる。

 

 そう思った途端、男に腹を足蹴にされてまたサユの身体は吹き飛ぶ。


『かはっ!』


 少し胃液を吐く。

 酸味と血の味が口の中に広がる。


「待ちの剣だお前は、サユ」


 オレギンが再び口を開く。


「目が見えないから、敵の動きを読んでからしか動かない。

 だから愚鈍に見える、時として。

 自慢の剣速は、使えない。

 使えるのは相手の動きをある程度読んでからだな」


 サユは立ち上がり剣を構えつつ、聞き耳を立てる。

 男の息遣いが荒い。

 向こうもそれなりに体力を消耗しているらしい。


「だが、疲れてしまう、お前の魔法は長く使えば。

 剣速を上げたくても、待ちの剣で使える魔法は短時間。

 矛盾しているのだ、

 お前の剣はお前の中で色々とな、サユよ」


 ふと「赤の師子王」との戦いを思い出した。

 王との最後の勝負で、木刀から得意の長い棍棒に変えた。

 武器を変えただけで一本取れたわけじゃない。


 オレギンの言う「待ちの剣」から突撃した途端、剣速が変わったから出し抜けたのだ。

 そしてその戦い方に防御が無い事を知り、この盾を貸してくれたのだろう。


 その盾が重く感じてきた。

 中天を過ぎた太陽が熱い。

 傷の痛みと流れる汗と血が不快だ。

 

 戦う前と変わって見物人がいなくなって周りは随分静かだ。

 血が落ちる音がいやに大きく聞こえる。

 時折吹く埃っぽい風が、まだ残る命知らずな見物人の囁きを運んでくる。


 眠気?

 いや気を確かに持たないと気を失いそうだ。

 再度魔法を放ち攻め込んでも、もう何の判断も出来そうにない。


 気力と意識が薄くなる中、声が聞こえる。


「お前は考えるから強くなれないんだよ」


 モミジ?

 ああ、戻ってきたのか。

 いや違う。

 これは模擬戦をした後にいつも彼女に言われた言葉だ。

 

『考えなければ戦えない身体だからしょうがないです、モミジさん』


 サユは記憶の中の人物と会話を始めた自分に気が付いていない。


「お前は考えるから強くなれないんだよ」

「お前は考えるから強くなれないんだよ」


「どこかで見ているだろう、「黒の十指」!

 今から殺すぞ、お前らのかわいい妹弟子を。

 帰って伝えろ、お前らの師匠に。

 出てきて戦えと。

 待っている、お前の弟子より強い男が!」


 繰り返されるモミジの声の間にオレギンの声が被さってくる。


 やめた。

 考えるのをやめた。

 身体が動くのにまかせる。


『風と水に聞かん

 森と山と語らん

 人の世の儚さよ

 全て葉上の滴が如し』


 思考を手放すと、記憶の中の師匠の歌う声にあわせて剣舞を舞っていた。


 鎌を振り上げ近づいて来ていたオレギンの足が止まる。


「む、

 この期に及んで何のつもりだ?」


『迷いて落ちるはうたた寝の間よ

 いかに笑うて暮らそうか

 いかに泣いて暮らそうか』


「歌!?

 聞こえる、歌が…

 キサマが歌っているのか、サユ!」


 どうやら魔法が漏れ出しているらしい。

 でももう知った事ではない。


「ぬぅ、不快だ。

 身体に直接響く声の感触。

 やめろ…

 やめろ、やめろぉ!」


『葉身で踊りたもれ

 舞たもれ

 舞たもれ』


 オレギンは両手に持つ鎖の真ん中を持ち、4つの鎌をサユに放つ。


**************


 モミジは前方に赤い鎧が倒れているのに気が付く。

 館から出て塀の外を歩いていた。

 赤い鎧を着た者に近づき、片足を上げて踏んだ。


「お互い裏切って任務失敗となったな。

 だがな、何度も言うけど私の愛はお前の歪んだ愛情とは違う」


 モミジは顔を上げて館の方に細い目を向ける。


「私の為に。

 これからの私との素晴らしい日々の為に。

 あのお方、ヒースフレア様が最後には全てを掴む!」

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