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第32話 ~因縁~ #1

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「モミジィィィィィ!」


 ルコリーは怒りに駆られて思わず大声を上げた。


 被さって、別の声が聞こえる。


「サユちゃあああああああああああん!」


 モミジの後方から、赤い塊が回転しながら飛んでくる。

 器用にもモミジは空中で体を捻って、後ろから迫る殺気をかわす。

 体勢を崩して、数本投げナイフを落とした。


 地面に半斧が突き刺さる。


「あはははははは、

 パーティーには間に合ったわね。」


 赤い鎧がゆらりと立ち上がる。

 半斧を構えて回転して飛んできた、マフラーをしていないフィアがそこにいた。


 ゴロツキ数人とモミジとフィアに囲まれる。

 もうこの場から先に進むのは不可能に思えた。


『一つだけ方法があります。

 私がロープを外したら、

 あの見物人達の中に走って紛れ込んで下さい。

 そしてとにかく家に向かって走ってください』


「サ…」


 サユはどうするの、と聞きかけてルコリーは躊躇した。

 この状況でロープを解く事、それは自らの命を引き換えに自分を逃すつもりだろう。

 そんな事は赦さない。

 昨日2人は生き残る、と言い切った。


 でも、ルコリーにはこの絶望的な状況を斬り抜ける知恵も経験も無く、ただこの細い体の相棒の言う通りに動くしかなかった。


 フィアが半斧を地面から抜くと、素早く振り回す。


 と、側に居た鉄仮面を被った連接棍棒の男が、首から血を吹き出しながら倒れる。


 多分今日一番、無防備となった瞬間だろう。

 サユもルコリーも、フィアの行動が理解できなくて2人でポカンと口を開けていた。


「テメエ、報酬金を独り占めする気か!」


 ゴロツキ達の方が反応が早く、単純で解りやすい答えを出してきた。


 向かってくる3人のゴロツキの首や胴を、赤い半斧が素早く切断した。

 血しぶきが上がる度、周りの建物にいる見物人たちが声を上げる




 サユは警戒して剣を構える。

 ゴロツキが消えても、危機的状況は変わっていない。


「サユちゃんと遊んでいたいんだけどねぇ。

 今日はナイフ女と遊んでいたいヨー。

 この女を倒したいナヨー!」


 フィアに半斧を突き付けられたモミジが声を上げる。


「フィア、何を言ってる!

 お前はオレギンに雇われた傭兵だ。

 ルコリーを斬れ!」


 サユはフィアの不自然なセリフに何かを感じた。




 ルコリーはフィアが後ろ手で「早く行け」と、合図を送っているのに気が付く。

 ロープを引っ張るルコリー。


『早く行こう、サユ』


 走り出す2人。


**************


 湧き上がる歓声の中で対峙するモミジとフィア。


「どうゆうつもり、フィア。

 あなたは傭兵としての評判を落とすのよ」


「いいわよ、もうそんなのどうでも。


 私はね、若いピチピチの10代の頃は、

 女ばかりの盗賊団「レッドウルブス」にいたの。

 ここから南にある山を根城にして、

 お金持ちを襲って、

 貧しい人達にお金を配って。

 ま、義賊を気取ってたわけね。


 この鎧は、隊長クラスの証し。

 皆仲間意識が強くて、一致団結していたわ。


 ところが、リーダーがイケメンにうつつを抜かして、

 団の財産を持ち逃げして離反、逃亡。

 結局盗賊団は離散して終わり」


「それで?」


 モミジはフィアの話を聞きながら、落したナイフを拾っている。


「だからねぇ、

 男にうつつを抜かして仲間を裏切る女が、

 気に入らないのよねぇ」


 途端、キツネの面がフィアの方を向く。


「お前のような変わった性癖の女に何が分かる。

 可哀そうな女ね。

 男に愛される悦びを知らないまま死んでいくのね、お前は。

 仲間?

 10年間師匠の下でお仲間ごっこに付き合わされた自分を、今は笑いたいわ。


 「黒の十指」なんて称号より、本物の愛の方が素晴らしい。


 そう気づかせてくれたあの人の為になら私は何でもする!」


 モミジの言葉にフィアが苦笑する。


「釣り合わないんじゃないのぉ。アンタとあの男じゃ。

 まあ、騙されて使われるだけ使われて、

 後はポイッ、じゃないかしら。

 レッドウルブスのリーダーと同じように」


「黙れっ!」


 キツネ面が渾身の力でナイフを投げる。

 赤い鎧が、半斧を一閃してナイフを弾く。

 跳ね返ったナイフが見物人が多くの顔を覗かせる家の壁に当たると、全ての顔が引っ込んだ。


「おい、なんか女同士で争ってるぞ、お前どっちに賭ける?」

「俺は赤い方!」

「俺はお面の女に!」

「やれやれー、いいぞーネーチャン達ー。楽しませてくれよー!」


 色んな野次や賭け札やらお金が飛び交う中、2人はにらみ合う。

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