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第03話 ~長考~ #3


      28/30


 朝もやの中、サユは素振りをやめた。

 ルコリーの足音が近づいてるのがわかったからだ。


「…おはよ」


 ルコリーは不機嫌そうだ。

 サユは彼女に近づこうとしてやめた。

 相手がこちらに近づいて来た。


「まさか一晩中ここにいたの?」


 ルコリーに触れようと手を出す。

 もう触れられる近さまで来てるのはわかる。

 所在を探すその手に、ぐいっとルコリーが二の腕と体を押し付けてきた。


『おはようございます。

 ちゃんと警備員さんのところで寝ましたよ。

 貴女こそ早起きですね。

 もしかしてココを発つ決心がつきました?』


 手を通して、魔法で話しかけるサユ。

 ムズがゆそうに首筋を掻くルコリー。


「貴女のくだらない嘘のせいで、あまり眠れなかったわよ。

 ホントにサイテーよね、貴女って」


 不機嫌に呟くルコリー。


『全部事実で、嘘は申しておりません。

 サイテーでもありません。

 なんか話し方に品が無くなりましたね。

 もしかして元々の話し方に戻ってるのかしら?

 ダメでしょ、貴女は皆さんの模範となってるのでしょう』

「嘘つき女と丁寧に話すほど器量は広くないのよ」


 ルコリーが睨む。

 サユは特に動じないし、元より見えていない。


『ここの商家には子沢山の家が多いのです。

 仕事に忙しくてなかなか4女や5女に目をかけてやれない。

 そこに目を付けたのがこの学校の創設者。

 お嬢様方に花嫁修業をさせましょう、って。

 長男長女を大事にする家が多いですから、それ以外は手に余るのでしょうね。

 多くの寄付金と、少女達がここに集まりました』


「くっ詳しいのね、私はそれを知るのに一年かかったのに」


 ルコリーの声に驚きと警戒が混じっている。

 あと、本気で悔しがってる。

 そんな事で張り合ってどうする、と考えるサユ。


『ん、創設者と知り合いなので。

 その人は北の商家で、南への進出の足がかりに南の商家に媚を売るために、

 この学校というものを設立したの。

 長女で入ったのは貴女だけ。

 親にちゃんと目をかけられて育った人が少ないから、

 素行が悪いコも多くなるでしょう』


「ハズレね。

 私もお父様に見捨てられてここに来たんだから」


 自嘲気味のルコリーの言葉に構わず、サユは続ける。


『貴女すごいじゃない。

 昨日クラスメイト達と話してわかったわ。

 皆、貴女の話し方や振る舞いを真似しているのね。

 入学早々起こした「淑女たれ」って運動で皆貴女を模範としているのよ。

 誰もが人を惹きつける魅力と気品に溢れた貴女にあやかりたい、と思っているわ。

 だから、話し方や態度は私にもちゃんとしないとね』


「……」


 短い沈黙の後、ルコリーがサユの手を引っ張って歩く。


『ちょ、痛い』

「そうよ、私は模範なのよ。

 だから授業を受けない悪い子にはちゃんと受けてもらいますわ!フフフフッ」


 どうやら機嫌が直ったようだ。

 怒りっぽいが冷めるのも早い。

 おだてると機嫌が良くなる。

 案外扱いやすい子なのかもとサユは考える。


 ではどうおだてると、この地から出てくれるかしら。


………


 昼の鐘が鳴ってしばらく経つ。


 ルコリーはまた溜め息をつきながら、2階の教室から正門を見ていた。

 朝から曇り空で、雲のグレーが自分の心と重なる。

 そういえば、今日はグレーの横ストライプの下着だった、とぼんやり考える。


 今日も授業は午前で終わりになったので、

 寮に入っていない生徒の家の馬車が出て行く。

 残りの生徒もほとんど寮に帰って、校舎に残る生徒も少なくなった。

 もう少ししたら先生方が見回りをして生徒を校舎から追い出すだろう。


「ねえ、塀の上を人が歩いてない?」


 好奇心と恐怖が混じった声をあげたクラスメイトがいた。


 彼女が目を向けてる方向を見る。

 遠くてわかりにくいが、高い塀に3つの点が上から下に向かって動いてる。


 最初はそれが何か理解できなかった。

 だが徐々に理解して鳥肌が立つ。

 その点が、そびえ立つ塀に垂直に立って歩く男の頭部であることを。


 男達が運動場の中間を歩いてる頃には、

校舎にいる者は皆、その存在に気が付き騒然となっていた。


 警備員数名が男達に近づき、立ちはだかる。

 瞬間、警備員の一人が赤い液体を撒き散らして倒れる。

 残った警備員は逃げ散り、男達は悠々と校舎に向かって歩き始める。


「キャアーーーーーーー」


 誰かが、いや数人が金切り声をあげた。


「残っている生徒はこっちの部屋に集まりなさい!早く!」


 このクラスの担任が廊下で叫んで、生徒を誘導している。

 ここで生徒の模範たるルコリーが率先して生徒を誘導すればカッコいいのだが、

 ルコリーは震えながらサユの席から立つのがやっとだった。


 彼女にとって、人殺しを生業としている人間を目の当たりにしたのは初めてだ。

 所詮、彼女の知る世界とは、実家とその周辺とこの学校だけのお嬢様なのである。


『何かあれば中庭に来てください』


 おぼつかない足取りで教室を出たとき、サユの言葉を思い出す。

 ルコリーは迷った。


 皆と一緒にいるべきか、嘘つき女の言葉に従うか。

 いや、敵が現れた今となっては嘘つきとは呼べないか。


 あの男達が私を狙っているとは限らない。

 ただのゴロツキが気まぐれに襲撃しにきたのかも。

 いやいや、タイミングが良すぎる。


 狙いは私だ、とルコリーは確信する。

 だとすると…


 中庭側のくもりガラスの窓は全部閉まっていて、中庭の様子はわからない。

 でもサユがいるはずだ。

 彼女は戦えると言っていた。

 よくわからないが、何か中庭で準備をしていた。


 中庭に向かう決心をする。

 恐怖と焦りで、いやな汗が出て頭の中はグッチャグチャだが

 ルコリーにはハッキリ分かる事が一つだけあった。

 私が皆と一緒にいると被害が増えるだけだと。


 階段を下りて中庭に繋がる扉への廊下が長く感じる。

 走っているのに。

 恐怖で足がもつれて転びそうになる。


 ようやく扉に行き着き、扉を開けて外に出ると声をかけられた。


「よう嬢ちゃん!」


 低く野太い声が空から降ってきた。

次回、ついに黒い男達と対決するサユ。

彼女はいかに彼らと対峙するのか。

そしてサユの命運は誰の手に握られるのか。

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