表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/104

第30話 ~雷雨~ #1

      1/30


「ムー!

 ズルイヨー、ウザイナヨー!」


 サユは師匠と特訓した剣技の一つを試すことにした。

 相手の得物に剣をピッタリと当て、離さない。

 ブーメランを引いても回しても何をしても、絶対に剣をサンシャの左手のブーメランに付けて離さない。


 魔法を最大限に利用し、相手の動きを読み、相手に合わせて動く。

 右の剣に集中する。

 左手の鞘である杖のシャフトは、相手の右腕が大きく動いた時に振り回して対応する。

 ブーメランを投げようとすれば右腕を叩き、斬りつけようとすればシャフトで防御する。


 お互い隙を見せれない状況。

 サユの無表情な顔が近くにあっても、剣とシャフトで抑えられ斬る事が出来ないこの状態に、サンシャの苛立ちが募るのがわかる。


「ンガ、フンガ、ヨー、ナヨー!」


 長期戦になれば、常に魔法を放出しているサユが不利になる。

 今の、お互いの武器を封じてる状態では長期戦は必至だ。


 しかしサユは最初にサンシャと戦った時を思い出す。

 お腹が空いた、という理由で戦いを投げ出す自由奔放な少女だ。

 そんな子供に今の状況は、面白くないだろう。


 サンシャが後ろに飛ぶ。

 高く高く。

 地面から離れるという事は、サユの魔法の有効範囲外に逃れるという事だ。

 一呼吸おいて、サユは前に走り出す。


 次の攻撃はわかる。

 ブーメランを上から放っているハズだ。

 それが得意で、そうしないといられない程苛立っているハズだ。


 案の定、大きな風圧が背中を横切る。

 サンシャは魔使石マジカストーンで得物を操るタイプでは無いので、的を外すと返ってくるブーメランを待つ時間が出来る。


 出来ればその時間を狙いたいが、雨と風と遠雷の音で、ブーメランどころか彼女がどこにいるかもわからない。


 何もない野原に見えたが、小さな隆起でつまづいて転ぶ。

 受け身を取って一回転して起き上がる。

 それを何度も繰り返し走る。

 今は自然がサンシャに味方している。


「右前、10歩ー!」


 味方がいた。

 こんな所であの無駄に大きな声が役に立つとは。


「やーい、届かないよー」


 サンシャがルコリーにブーメランを投げたのだろう。

 あのブーメラン、モミジさんとの戦いでかなりの飛距離があったと感じたが、それよりも遠く届く声って。

 考えると可笑しくなるサユ。


「投げたよ!」


 その声に反応して前に伏せる。

 頭上の空気が裂かれて遠のく。


「ウルサイヨー!マキマキ女ーッ」

「ギャーこっち来たーーっ」


 忘れていた。

 今回は明確にサンシャはルコリーを狙いに来てる。

 慌ててルコリーの声の方向に向かおうとしてまた転ぶ。

 再び、重い風圧が体の脇の雨を切り裂く。

 いつかの弓の盗賊のように、転んでは左右に受け身を取る的は狙い難いのかも知れない。

 とにかく立ち上がり、出来る限り速く走る。


「きゃああああああああああああああ」


 雨も風も雷も全ての音を打ち消す程の甲高い声が上がる。

 間に合わなかったか。

 それでも走るサユ。


『マインド・ソナー!』


 魔法が大地を駆ける。

 ルコリーの近くにサンシャがいる。

 そしてその場所はそれほど遠くはない。


 人と話す事を欲して生じた魔法のせいか、サユの魔法は人間の死体は感知できない。

 ルコリーはまだ生きてる。

 致命傷でなければなんとか助けられるかも知れない。

 とにかくサンシャを何とかしなければ。


「お馬さんが、お馬さんがあああああああ!

 わああああああああああああああああああああ!」


 致命傷どころか全然元気なようだった。


「ナニヨーナンナヨー!

 ナニカ体ヲカケヌケタヨー」


 サンシャはルコリーを殺そうとしていたところを、初めて喰らった「マインド・ソナー」に慌て、気が削がれていた。

 間一髪で追いついた。

 跳ねる水音で、サンシャもルコリーも近づくサユに気が付いたのだろう。


「わああああああ、投げた!」


 ルコリーは雨に濡れ、大泣きしながらも的確に敵の様子を伝える。

 右横に飛んで避けるが、左足のアーマースーツを切り裂かれる。

 泥にまみれて、再び起き上がるとサンシャに向かう。


「シブトイヨー!」


 声を発してくれなければ、サンシャの正確な位置はわからなかった。


 剣をサンシャに振り下ろす。

 受け止めたのは先程のブーメランとは違う感触だった。

 剣から刃と木の感触が伝わる。


 一瞬不思議に思ったが、予備のブーメランではないかと推測する。

 鋼鉄の刃が取り囲むブーメランなど、そうどこでも売ってるモノではない。


 2本あった鋼鉄のブーメランの1本はどこへ?


 サユが繰り出す攻撃を、右手のブーメランで防がれる。

 しかしサユは攻撃よりもサンシャの左手の動きに魔法を集中させていた。

 

 左手が動くのを交わす剣から感じ取る。

 戻ってくるブーメランを警戒してサユは右に飛ぶ。

 鋼鉄のそれが左頬をかすめた。

 

 サユは転がり、立て膝をついて体勢を立て直す。

 

 ブーメランを受け取ったサンシャは水音をたてて、ジャンプした。


『ルコリー目を!』


 地面に突き立てたシャフトから心の声を地面に放つ。

 大泣きしながらのルコリーに、右足首を掴まれる。


 涙と雨で一部ボヤけた視界だったが、渾身の力で放たれたブーメランを剣とシャフトで受け止める事が出来た。

 

 火花が散ると同時に、視界が真っ白になる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ