第29話 ~再起~ #1
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『ねぇ聞いてくれる、今私の中に他人の血液が流れているんです』
4日ぶりに聞いた魔法の心の声に、目頭が熱くなって瞳が潤んだが堪えた。
今、泣いたら2人からバカにされる。
お昼前に医者から許可を貰えたので、ルコリーとリリビィは後ろの馬車へ移った。
医者や従者達は前の馬車に乗る。
後ろの馬車には無理矢理木の簡素なベッドを入れて固定していた。
サユの左にルコリー、右にリリビィが座りそれぞれ手を握る。
「人間の血は大体6種類くらいに分かれるそうだ。
同じ種類同士なら血を入れられる。
アムルバーンの医者の中に、
他人の血を体内に入れる魔法を持つ者がいるのじゃ。
これでも辺境の地の医者とバカに出来るか、ルコリーよ」
小さな背と胸のリリビィが、その胸をはる。
「あー、あれは悪かったわよ…ついカッとなって言っただけで」
三日の間に何度となくリリビィは、アムルバーンと父の話を熱く語って聞かせてくれた。
彼女の父への敬愛と郷土愛は、痛い程よくわかった。
『で、この方は?』
サユが聞く。
「わらわは、「赤の師子王」の4女リリビィ=イルザーン。
魔法の声とは、面白いものじゃな!
なにか首の後ろがムズムズしよるわ!」
と、言いながら楽しそうに笑う。
「あー、やっぱりなるよねぇ」
『こんな姿のままですいません、リリビィ様』
「かまわぬ、もうタウチット西のグッタイの町まで来ている。
もう降りることになるから、それまでゆっくり休め」
そこで不思議そうな顔をするルコリー。
「やっぱりリリビィ様って呼ばなくちゃダメなの」
『ダメでしょ』
「ダメじゃぞ」
心の声と生の声がハモる。
「えー、今更そういうのって、なんか恥ずかしくない」
『すいません、礼儀知らずで胸ばかりでかいボンクラで』
「誰がボンクラよ!」
そっと触れるだけの軽いチョップがサユの頭に入る。
頭にも包帯が巻かれていて遠慮した。
今のサユはまた体中包帯グルグル巻きだ。
少しやつれたように見えたが、顔色は良くなっていた。
安堵するルコリー。
目隠しはない。
ちなみに今日のルコリーは、また色気のないアムルバーンの下着の、数日分用意されたものの一枚。
この素晴らしい着心地は、東で高く売れるのではないだろうか。
「そういえば、私の血は入らなかったわね」
サユが元気になったのはいいが、ルコリーはそれが気に入らない。
軟禁中に、指に針を刺されて血を調べられていた。
「そなたの血は型が会わないそうじゃ。
じゃがわらわと合うそうじゃ。喜べ」
「じゃあ、私が死にそうになったら助けてよ」
「東に優秀な医者がいればの」
ルコリーはリリビィと笑いあう。
出会いは最悪だったが、今では旧知の仲のように話し合える。
私は最悪の出会いがないと人と仲良くなれないのだろうか、という不安も心に浮かんだがとりあえず今は笑い飛ばす。
もう一人の最悪の出会いの友を見ると、なにか複雑な表情をしていた。
「ねー、今何か欲しい物とかない?」
何か不自由に感じている事があるのかと思い、訪ねてみる。
『杖』
2人で探して、床に転がっているのを見つける。
「はい」
『素振りしたい』
「寝てろ!」
ルコリーが渡しかけた杖を取り返した。
『もう一つ』
「何?」
『添い寝して』
「一人で寝てろ!」
馬車が止まって、医者達と交代になった。
馬車から出る時にちょっと不満そうな顔をしたサユに、ルコリーは笑った。
………
「ふむ、わらわにはまだ経験がなくてわからないのじゃが」
夜、シーツを被って馬車のシートへ横になるとリリビィが話し出す。
「何?」
ルコリーはいつも持ち歩いてるペンを眺めて、サユの事を考えていた。
もう寝たかなー、とか酔ってないかなーとか他愛ない事を。
「愛の形には色々あるのじゃなー、と」
「は?何の話よ」
驚いてルコリーがリリビィを見る。
「わらわは初恋がまだじゃという話じゃ」
何か核心を外した答えを返された気がしたルコリーだが、気にしなかった。
「ふーん。
アンタは将来美人になるわ。
いい男ゲットしなさい。
例えば私のお兄様みたいな」
「そんなにいい男かえ?」
「ちょーカッコよくて、ちょー頭が良い」
「ではそなたの兄を落とせばいいかの?」
「いや…それは。
早く寝なさいよお姫様。お休み!」
野原の細い道を月夜の中、静かに馬車は進む。




