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第28話 ~慟哭~ #3

      3/30


 タウチット城国の南、ココ=ムサロの町。


 南の海から来た者、逆に行く者、山で働く者、タウチットで仕事にあぶれた者、

雑多な人たちで賑わっている大きな町だ。

 色々な様式の家が立ち並んでいるが、豪邸と呼ばれるような大きな家は無い。


 そんな町の夜の酒場にオレギンがいた。


 大勢の客で埋まる席の間を、笑顔で木樽のジョッキを持ってウロウロしている。

 と、旅装をしている男達に声をかけた。


「調子はどうだい、兄弟。

 旅の商人だ、俺は。

 何かないか、いいもうけ話は。

 おいボーイ、一杯くれこっちに!」


 旅装の2人は警戒する。


「お近づきの記しだ、この一杯。

 面白い話を聞かせてくれたらもう一杯おごるぜ」


 腹の太い口髭の男が話し出す。


「気前いいな。相当もうけてるクチか。

 服も上等…だがえらく汚れているなぁ」


 ここ数日、オレギンは山へ入っては山賊を見つけ手なずけている。

 今のオレギンは、裏の派遣業者である。

 前金を積んで腕に覚えのある者を、次々にある場所へ送りつけている。


 サユを見失ったが、必ずどこからか現れる。

 ドズのリタイヤを含め、色々楽しませてくれる女だ。

 このまま終わりの訳がない。


「言いっこなしですぜ、細かい事は。

 で、何かあるかね」


 やってきたジョッキを2人の前に差し出す。


「そうだなあ、やはりバーキン家の話だよなあ。

 兄の方が先日家に帰って来て、今度は妹の方が帰ってくるかで、

 賭場のレートが毎日変わってやがる」


 身体の細い顎髭の男がそういうと


「かーっ、聞き飽きた、もうその話は。

 どこもかしこもその話ばかり」


 オレギンが大げさに笑いながら、ワザとらしく大きく溜め息をつく。

 実際この店の他の客も、バーキン家の話で大いに盛り上がっている。


「他の話なあ…

 アイマリース商会の各支店を守る「黒の十指」を、

 最近見かけないとか」


 口髭が髭をひねりながら考えを口にする。


「うむ知ってる、それ」


 オレギンが笑顔を絶やさず答える。


「ううん…あれは…いやただの噂か、大した話でもないし」

「話す、それ」


 顎髭が腕組みして呟いている言葉を、オレギンが拾った。


「西のアムルバーンの姫はよくお忍びであちこち出かけるそうだが、

 また出かけるとか、東に遊びに来るって話でさぁ…」


 顎髭が自信無さげに話すと、口髭が肩でつつく。


「案外、バーキン家の賭けに乗るんじゃねえか、がははは」

「バーカ、あそこのガキは未成年がほとんどだぞ。

 まあ、ガキ相手に賭場開いてる奴等もいるらしいがな」

「おいボーイ、持ってこい、こっちにもう2杯!

 兄弟いこうぜ、飲み比べと。

 俺のおごり!」


 知っている者は少ないが、「黒の疾風」ファンであるオレギンは知っている。

 彼女が西の王と浅からぬ関係がある事を。


 西からか、とオレギンの目が輝く。


 やっぱり楽しませてくれる、あの目隠しのお嬢さんは。


**************


「ヒハハハハ

 オレギンのおっさん、面白い事考えてやがる!」


「おい、知ってる事話したから早く俺達を自由にしろ…

 ぐっ……

 ぐぎゃあああああああああっっ!!」


 賊の絶叫が山中に響き渡る。

 夜の闇の中で動く影が一つきりとなる。

 影は地面から何かを拾い上げる。


「オレギンのおっさん、

 この銀貨は俺が貰っとくぜ。


 キヒヒヒヒヒヒ

 サユ…サユよぉ

 待ってろよ。

 ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」


西からタウチットへ向かうサユ達。

西へ目を向けるオレギン。

次回、馬がいななく時無敵の少女が野を血に染める。

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