第28話 ~慟哭~ #3
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タウチット城国の南、ココ=ムサロの町。
南の海から来た者、逆に行く者、山で働く者、タウチットで仕事にあぶれた者、
雑多な人たちで賑わっている大きな町だ。
色々な様式の家が立ち並んでいるが、豪邸と呼ばれるような大きな家は無い。
そんな町の夜の酒場にオレギンがいた。
大勢の客で埋まる席の間を、笑顔で木樽のジョッキを持ってウロウロしている。
と、旅装をしている男達に声をかけた。
「調子はどうだい、兄弟。
旅の商人だ、俺は。
何かないか、いいもうけ話は。
おいボーイ、一杯くれこっちに!」
旅装の2人は警戒する。
「お近づきの記しだ、この一杯。
面白い話を聞かせてくれたらもう一杯おごるぜ」
腹の太い口髭の男が話し出す。
「気前いいな。相当もうけてるクチか。
服も上等…だがえらく汚れているなぁ」
ここ数日、オレギンは山へ入っては山賊を見つけ手なずけている。
今のオレギンは、裏の派遣業者である。
前金を積んで腕に覚えのある者を、次々にある場所へ送りつけている。
サユを見失ったが、必ずどこからか現れる。
ドズのリタイヤを含め、色々楽しませてくれる女だ。
このまま終わりの訳がない。
「言いっこなしですぜ、細かい事は。
で、何かあるかね」
やってきたジョッキを2人の前に差し出す。
「そうだなあ、やはりバーキン家の話だよなあ。
兄の方が先日家に帰って来て、今度は妹の方が帰ってくるかで、
賭場のレートが毎日変わってやがる」
身体の細い顎髭の男がそういうと
「かーっ、聞き飽きた、もうその話は。
どこもかしこもその話ばかり」
オレギンが大げさに笑いながら、ワザとらしく大きく溜め息をつく。
実際この店の他の客も、バーキン家の話で大いに盛り上がっている。
「他の話なあ…
アイマリース商会の各支店を守る「黒の十指」を、
最近見かけないとか」
口髭が髭をひねりながら考えを口にする。
「うむ知ってる、それ」
オレギンが笑顔を絶やさず答える。
「ううん…あれは…いやただの噂か、大した話でもないし」
「話す、それ」
顎髭が腕組みして呟いている言葉を、オレギンが拾った。
「西のアムルバーンの姫はよくお忍びであちこち出かけるそうだが、
また出かけるとか、東に遊びに来るって話でさぁ…」
顎髭が自信無さげに話すと、口髭が肩でつつく。
「案外、バーキン家の賭けに乗るんじゃねえか、がははは」
「バーカ、あそこのガキは未成年がほとんどだぞ。
まあ、ガキ相手に賭場開いてる奴等もいるらしいがな」
「おいボーイ、持ってこい、こっちにもう2杯!
兄弟いこうぜ、飲み比べと。
俺のおごり!」
知っている者は少ないが、「黒の疾風」ファンであるオレギンは知っている。
彼女が西の王と浅からぬ関係がある事を。
西からか、とオレギンの目が輝く。
やっぱり楽しませてくれる、あの目隠しのお嬢さんは。
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「ヒハハハハ
オレギンのおっさん、面白い事考えてやがる!」
「おい、知ってる事話したから早く俺達を自由にしろ…
ぐっ……
ぐぎゃあああああああああっっ!!」
賊の絶叫が山中に響き渡る。
夜の闇の中で動く影が一つきりとなる。
影は地面から何かを拾い上げる。
「オレギンのおっさん、
この銀貨は俺が貰っとくぜ。
キヒヒヒヒヒヒ
サユ…サユよぉ
待ってろよ。
ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
西からタウチットへ向かうサユ達。
西へ目を向けるオレギン。
次回、馬がいななく時無敵の少女が野を血に染める。




