第27話 ~軟禁~ #3
リリビィはこの状況で一度自分に刃向ってきたこの女が、どう命乞いをするのか楽しみだった。
「サユに会わせて!」
「は?」
「あなたは知らないの?
サユって、目隠しをして杖をついた白い服の、
私と同じぐらいの年齢と背丈の女の子がいるハズよ!
その子に会わせて。
酷い目に合っているなら、お願い、助けてあげて!」
少し考えるフリをするリリビィ。
「ふむ。ではそなたの首と引き換えに、サユを助けてやろう。
それなら良いであろう」
リリビィをキッと見上げていた胸の大きな年上の女性の目に、
迷いの色が混じるのを見た。
それでも目を逸らさない。
「良くない!先にサユに会わせろ!
それからいくらでも好きなだけ私の首を斬ればいい!」
大きな目から大粒の涙を零しながらも啖呵を切る、
目の前の女に興味が湧いてきた。
「アレはお前にとってただのボディガードであろう。
今は無一文とはいえ、
バーキン家の者ならば一人の傭兵など石ころ同然ではないか。
…ん、そうじゃ。
条件次第では、我らの兵でタウチットまで送ってやってもよいぞ」
「そこまで知ってるのなら、サユの居場所も知ってるでしょ。
サユに会わせろ!」
偃月刀の刃が、首筋の薄皮を斬り血が流れ出ていた。
そんな中でも、ルコリーの目は一点の曇りも無くリリビィを睨む。
「そこまで何故あの女にこだわる?」
「そ、それは…
私をタウチットまで連れて行ってくれるのは彼女しかいない。
他の者ではダメなの。
サユじゃなきゃ」
ここでやっとルコリーが目を逸らした。
少し顔を赤くして。
リリビィは考える。
なぜここで目を逸らしたのか。
いつ斬られてもおかしくない状況で。
リリビィが今、ほんの少し力を入れただけで自分の首が屋根の上を転がっていく、
その状況が分からないほど頭が悪い者とも思えない。
命乞いもしないでただ会わせろ、の一点張り。
理由を聞けば、目を逸らす。
そうか照れてるのか。
何故そこで照れる。
一人の傭兵相手に。
リリビィの興味は湧いて溢れ出し、止まらなかった。
「パンツ丸出しでは、風邪をひくぞ。
部屋に戻って大人しくしてるがよい」
偃月刀をルコリーから放し、肩に担ぐ。
再びルコリーはリリビィを睨む。
「サユはどこに!」
**************
2人の少女がいた屋根のずっと下、城の地下。
その会話の中心人物の少女は、血溜りの中に倒れていた。
広い大理石の空間は、松明があちこちで炊かれ明るい。
その広い場所には、サユともう一人の2人だけ。
「なんじゃ。「黒の疾風」の弟子だからと期待したが
期待外れだったのぅ。
ワシは忙しい身じゃ。
そのワシが時間を作って会ってやったのだから、少しは楽しませぬか!」
もう一人の人物。
クセのある赤毛、赤ヒゲが顔の周りを飾り金色の鎧を着た大男が、構えた槍を下ろし尊大ながらも退屈そうに話す。
その逞しい体は威厳に満ちていた。
血を滴らせながら、剣を支えにサユは身を起す。
フラフラと頼りなく、立っているのがやっとといった風だったが、少し腰を落とすと金の鎧の大男に向かって行った。
大男に向かってサユの剣がありとあらゆる方向から襲う。
それを全て槍で受けて、なおかつ横一閃の攻撃を放つ。
血しぶきと共にサユの身体が吹き飛ぶ。
男はサユの猛攻を受けたにも関わらず、前進も後退もしていなかった。
周りの壁にいくつもの血の跡があるが、全てサユのものだ。
白いアオザイに似たワンピースは既に細切れにされて、アーマースーツは血に塗れて黒光りしている。
目隠しはこの長い立ち合いの中でいつの間にか外れて、もうどこへいったかわからない。
サユは武器が収められている棚に倒れこんだ。
右手に持っていた剣を落とした事に気が付くと、壁に掛かった武器を手に取る。
この場所にある武器は全て訓練用で刃はついていない。
お互い愛用の得物を使用せず、訓練用の武器を使用していた。
それでも男の攻撃はアーマースーツを切り裂いていく。
サユの攻撃は殆ど防がれている。
力量の差は歴然だった。
サユは武器を振って確かめる。
練習用とはいえ、バランスも重さも申し分なかった。
ここは男が楽しむ為に使う場所。
いい加減な得物は置いて無かった。
「ほう、武器を変えるか。
最後の悪あがきか。
それで我を楽しませてくれるであろうな」
満身創痍で西の最強の王と戦いを挑むサユ。
その結果やいかに。
西の地で足止めされた2人に、果たして旅の成功の可能性はあるだろうか。




