第27話 ~軟禁~ #2
急速に屋根から引き剥がされると、後ろに投げ飛ばされた。
屋根に背中から落ちて、痛みが背中から体中を走る。
「っつーーーーーっ!」
のたうち回るルコリー。
「お前は自殺するために逃げたのか、バカなのか!」
高い凛とした声が響き渡る。
目の前に赤いコートを着た赤髪の少女が立っていた。
コートの後ろ半分は、足のくるぶしまであるが、前面はへその下あたりまでしかない。
開いた全面からは、黒いシャツと赤いショートパンツが覗く。
スラリと伸びた素足に装甲のある赤い靴を履いていた。
その少女は、黒い偃月刀を脇に立てて見下ろしていた。
少女は脇に差した剣を抜くと、ルコリーに投げて寄こした。
目の前に剣が跳ねながら屋根に落ちる。
「ひっ」
驚き声を上げるルコリー。
「構えよ」
ルコリーが恐る恐る剣を拾うと、凛とした声が響く。
「女官を倒して逃げるなど、死罪に等しいがお前にチャンスをやる。
わらわと3回戦って一度でも勝てば赦してやる。
強い者が生き残るのが、ここのルールだ」
「え、ええええ~~」
ルコリーは震える手で剣を構えた。
「わらわは、リリビィ=イルザーン」
「…………」
「名乗れ!」
赤髪の少女が高い声で、吠えるように叫ぶ。
「あ、はい私はルコリー=バーキン」
立ち上がって気が付く。
リリビィと名乗る少女はルコリーより背が低く、ずっと幼い。
子供の戦ごっこかな。
そう気楽に思ったのは一瞬だけだった。
自身の身長より長く重そうな偃月刀を風を斬って振り回し、腰を下げて構える姿は一目で子供の遊びではないと悟る。
よく考えると先程この大刀でルコリーを投げ飛ばしたのは、この娘以外にはいないではないか。
「来い!」
「え~~っ……」
剣など振るった事がない。
ましてや高い屋根の上で恐怖で腰が引け、歩くのもやっとである。
ルコリーは短い眉をしかめて、か細い抗議と困惑の混じった声をあげるしかなかった。
「では行くぞ」
赤いコートの少女が前へ出ると、弱々しく構えていた剣が簡単に絡め取られ剣は宙に舞う。
偃月刀で器用に空中で剣を玩ぶと、落ちてきた剣がルコリーの目の前に刺さった。
「わっ、危なっ!」
「そなた、早く剣を取れ」
再び剣を構えると先刻と同じく剣を巻き取られ玩び、目の前に剣が落ちる。
「そなたの負けじゃ。
つまらん女だの」
リリビィは本当に心の底からつまらなそうに、嘆息しながら言い放つ。
されるがままで思考が停止していたルコリーだったが、その言われ様に急激に怒りが湧く。
剣を取ると、走り出す。
ルコリーの方へ向けて屋根の上に下ろしていた偃月刀の刃の部分を超えると、柄に剣を当てさらに前に進む。
交わる鋼鉄が火花を散らす。
これで敵は私を斬れない、後は自分が敵を斬るだけ。
一つの山を崩した戦いで、ドズ相手にこんな戦い方をしたサユを、ルコリーは思い出していた。
剣を振りかざした時、
「!!」
気が付くと体が宙に浮いている。
相手の左の赤い靴が素早く動いたかとみると、正面から腹部に蹴りを入れられた。
後ろに吹き飛んで、お尻から落ちるルコリー。
同時に大きな胸の膨らみが大暴れする。
「んくーーーーっ!」
お尻とお腹を押さえてうずくまるルコリー。
「素人相手に足を使ってしまったか。
わらわも油断が過ぎた、戒めねば。
相手の油断を突くのは理に適っているが、
その程度の腕で我が偃月刀を抑えたと思ったのか。
滑稽じゃの」
大笑するリリビィ。
「柄に傷が入ったではないか。
これはもう拷問部屋のでも
放り込むしかないのう」
「んぐっ」
ルコリーの顎の下に偃月刀の刃が当てられる。
「じゃがその気概は買うてやる。
さて、観念せい。
東と違い我々に墓を建てる習慣はないが、盛り土ぐらいはしてやる」
無邪気な笑顔でリリビィは言う。




