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第27話 ~軟禁~ #1

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 豪華なタペストリーに囲まれた部屋の真ん中に姫が座っている。

 その姫は、やはり豪華な金銀細工の冠やアクセサリーで飾り、この地方独特の形をした衣装と、やはりこの地方独特の鮮やかな刺繍が入った木綿の服を重ね着している。


「うーーん」


 姫は首をかしげると数々の装飾品が音をたて、同時に艶やかなピンクの巻き髪が揺れる。

 姫のように着飾られたルコリーだった。


「何かしら、この状況」


 ずっと持ち歩いているペンを片手の中で回している。

 ぐるぐる回るペンと同じように、疑問と不安が頭の中を回る。


 アムルバーンの城の一室、ふわふわの綿の布団が与えられ、一晩を過ごした。


 朝になると多くの女性に囲まれ、この姿に着替えさせられた。

 下着にそれほどこだわらないのかシンプルな白の物を着せられたが、薄くて優しく包み込む上等の布だった。

 魔法で編みこまれた下着なんて贅沢の極みだ。


 食事は食べきれない程用意されて、宿泊場所としては最高の環境を提供された。


 しかしこの部屋の扉を開けて廊下へ出ると、槍を持った兵士に阻まれる。

 ご不浄のみ通行が許される。女官の監視付きで。

 部屋には上方に小さな窓があるだけ。

 人が通れる大きさではない。


 要するに軟禁である。


 女官や兵士に何を聞いても答えない。

 というか、知らない言葉で話をしている者が大半だった。

 東の言葉がわかるのは一部の兵士だけのようだが、彼らは寡黙で話にならない。


 サユがあれからどうなったのか、誰も答えてくれない。


 しかし、まさかサユにこの様なコネクションがあったとは驚きだ。

 シャイワール地方の城の中に居ると知れば、オレギン達はどんな顔をするだろう。


「……」


 しかし、とルコリーは考える。

 タウチットから遠く離れた地、ここアムルバーンに居てどうするのだろう。

 オレギンやモミジの目の届かない所まで来ただけではないのか。


 そして、この城。

 城の中のコネ、という事は官僚の一人なのだろうか。


 お父様主催のバーキン家でのパーティで、招待されるタウチット城国の官僚達は醜く肥え太り、お金の話ばかりする者しか見ていない。

 ルコリーは王城に関係がある者に、あまり良い印象は持ってない。


 実際にはパーティに参加させてもらえず、お父様に怒られないようにこっそりパーティを覗くだけで細かい事は何も知らないのだが。


 もしかしたら、今回の仕事を手伝う代わりに、サユに良くない事を求めたりする男がいるとか。

 体を求めたり。


「だめーっ、ダメよそんなの!」


 …それなら傷だらけで凹凸のないサユの体より、可愛い私の方が断然絶対完全に良くないだろうか。

 もしかしたら、ここに軟禁されいるのは可愛い私に何かする為?


『大丈夫、私が何とかするから少し待ってて』


 昨日の夜の、別れ際のサユの言葉を思い出す。

 サユが。私を。

 私の為に。 サユが。


 ルコリーは立ち上がり、心の内で断言する。


 私はサユを信じる。


 歩き出すと扉を開けてワザと大声で言い放つ。


「おしっこがしたいです!」


………

 心臓が早鐘を打っていてうるさい。

 興奮して顔が熱い。


 トイレに入ると、近くにあった木の彫刻で女官を殴りつけた。

 人を殴るなんて初めてだ。

 加減がわからなかったが、息をしているので死んではいない。

 ごめんなさいごめんなさい、と何度も小声で呟く。


 アクセサリーと重ね着を脱ぐ。

 薄く赤い、シュミーズのような服一枚になったルコリーは、トイレの窓に這い上がる。

 トイレに行く度に、逃げるならこの窓だと考えていた。

 小さい窓だが、体が通らない程ではない。


 窓から出て、自分の行動を後悔した。


 この城へ来た初日に、多くの階段を昇らされ、自分が城の上の階に居る事は知っていた。

 だが足元の遥か下、昼前の太陽に照らされて、小さく見える土色の家々を見下ろした時、

ルコリーは足が震えて、その場にしゃがみこんだ。


「落ち着け、落ち着け、落ち着け…」


 自分に言い聞かせて左右を見る。

 屋根は下に傾斜しているが、屋根に並ぶ大きな牙は、

敵を威嚇するように天に向かって湾曲しており、

足を滑らせ転げ落ちても、牙が受け止めすぐに落ちる事はなさそうだ。


 それを理解したルコリーは、ゆっくりと移動する。

 風が強く当たる。

 薄い赤い服が捲れあがり、白い下着が晒される。

 しかしそんな事を気にしてる余裕はない。

 風に煽られないように、落ちないように壁に手をついて、体を城側に傾けて少しずつ足を前に出す。


 サユを信じるとして、彼女の信じる何者かに頼ったとしても軟禁されるのはおかしい。

 理由があって、私とサユを会わせたくないのだ、とルコリーは考える。

 そう考えるとどうしてもサユに会わなければ、と思う。


 しばらく屋根を歩き回ったが、下に降りる方法が一つしかなかった。


 雨の為の鎖樋くさりといが屋根の四方に下がっていた。

 これを使えば降りれるが、まず半身を牙の外に出して下の鎖樋を掴まなければならない。


 屋根の外側ギリギリの所に立って下を見る。

 あまりの高さに目がくらむ。

 しかしやらなければ。

 サユに会わなければ。


 ルコリーは失念しているが、そもそもサユが何処にいるか知らない。

 下に居るとも限らない。


 だが、半泣きになりながら懸命に牙に捕まりながら下の鎖樋を掴もうとする。


 その時、シュミーズの背中に何かが引っ掛かけられると、身体が宙を浮く。


「!!!」


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