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第26話 ~樹海~ #3


      7/30


「あーあ、下っ端役人はツラいね。毎度毎度客人の汚物を洗うのも楽じゃない…」


 早朝、樹海の端にあるバタキの町に着いた。

 ここはもうシャイワール地方である。


 そんな事を客人の前で言う人間だから、いつまでも下っ端なんだ。

 井戸でボヤきながら袋を洗うジャハナーを見ながらそう思うルコリーだった。


 私達は客人なのだろうか。


 なにか肝心なところを、ジャハナーもサユも自分に伝えてない気がする。

 聞きたいがサユは熱と痛みにうなされているし、馬車の中では話すどころではない。


「はい、食事と水ね。

 ここから草原続くね、揺れマシになる」


 ジャハナーが馬車に乗り込んできた。

 防水袋と一緒に色々な袋を渡される。


「あの…ここからどこに行くのですか?誰に会いに行くのですか」


 ルコリーが勇気を出して聞いてみる。


「お前は何も知らないか。ワタシからは何も言えないね。

 ここからアムルバーン城国に向かう」


 シャイワール地方について何の知識もないルコリーには、何の意味も持たない回答が返ってきた。


 サユが身じろぎした。


「サユ、ご飯食べられる?」

『いらない』

「ああ、食事は少しずつ食べる。

 その方が酔わないよ。

 じゃあ出すよ、馬車」


 時々龍騎を降りては歩く2人の兵士は、すでに先の方を走っている。

 馬車は、質素で小さなバタキの町を後に走り出した。


 馬車の揺れはマシになった。

 ジャハナーがくれた酔い止めも効いて楽になる。


 少しずつ食事をしながら、サユにも水につけたパンを口に運ぶ。

 手に持ったパンをモソモソと食べるサユを見てると、ペットにエサをあげてる気分になる。


 乗り物に弱いサユはやはり辛そうだ。


 ルコリーは外を見る。

 匂いがこもるとイヤだ、というジャハナーの理由で馬車の戸板はずっと開けたままだ。


 広い草原に、大きなテントがいくつも並んでいるのが目に入る。

 見慣れない西の景色を驚いて眺めていると、大人しかったジャハナーが話を始める。


「シャイワール、遊牧民多いね。

 皆テントで暮らして季節ごと、移動する。

 誇り高き騎馬民族、いっぱい居るところ。

 皆龍騎乗って戦う」


 流暢に話は続く。


「民族の王、いっぱいいたね。

 でも今は「赤の師子王」様が配下にして、

 シャイワールは平和になったね。

 龍騎と気が荒くて強い騎馬民族、それを束ねる「師子王」様。

 シャイワールの民はみな強い。

 今に龍騎乗りまわして東の城国を傘下に収めるよ!」


 きっと案内役の仕事をしている時は、客に同じ話をしているのだろう。


「しかし…」


 と話は続く。


「アイマリース商会とかいうのが、王に商売で東と西を繋ごうと持ちかけている。

 王もその話に乗る気ね。

 だから東に出る気配、なかなか見せないよ」


 また、アイマリースか!


 タウチットから南へ西へとさらに版図を広げるつもりか。

 さすが、鬼の師匠の姉だな、とルコリーは感心する。


 さらにジャハナーは「赤の師子王」様がいかに強いかと、生い立ちを長々と話し続けた。

 ルコリーはそれを聞くフリをして、サユの頭をずっと撫でていた。

 膝の上にあるサユの顔にうっすらと汗が浮かぶ。


 自分のようにクセが無く、真っ直ぐでツヤのある黒髪がキレイだった。


………


「あれね、あれがアムルバーン城国ね」


 日が落ちて、あまり変わり映えのしなかった草原の景色は闇に包まれていた。

 馬車が丘を登った時に、ジャハナーが声を上げる。


 真っ暗な中、そこだけが異様に明るかった。

 暗い森の中の焚火を思い出す。

 高く積まれた砂煉瓦の城壁の中、四角い砂や泥で作った建物がびっしりと並ぶ。

 その中心には。


「うわぁ」


 中心にある高くそびえる城を見て、ルコリーは少し呆れて声を出した。

 石垣の上に5層の城が立つが、その一層一層の屋根に、瓦の代わりに湾曲した角のような、牙のようなものが敷き詰められていた。

 城全体がトゲトゲしい。


「雄々しいね、偉大ね、すばらしいね。

 あれが我らの偉大なる「赤の師子王」様の居城ね」


 少し興奮気味のジャハナーの言葉の中に、思いもよらない人物がいた。


「え、ええ?「師子王」って奴の城なの!?」


 馬車が進むにつれて、ルコリーの不安と恐怖が高まって行く。

 馬車は城門前に来ると誰何すいかもなく当然のようにゆっくり開き、城へと突き進む。


「いや、まさか城の中に入るとは限らないし」


 と独り言を呟いている間に、馬車は市街地を抜け内門を通る。


「城に入ったし!サユ起きてよ、サユ!」

『ん?』


 ダルそうな声が帰ってくる。


「知り合いってホントに何者よ!なんか城に入って行くし!」

『あ、着きましたか』


 むっくりとサユが起き上がる。


「これはどういう事になってるか説明してよ!」


 ルコリーがサユの手を握って詰め寄る。

 と、同時に馬車の左右の扉が開けられた。


「下りられよ」


 10人ほどの鎧姿の兵士が馬車を囲み、そのうちの一人が声をかける。

 サユは左の出口から、ルコリーは右の出口から兵士に担ぎ出される。

 ルコリーはサユの手を放さなかった。


「サユ!」

『大丈夫、私が何とかするから少し待ってて』


 必死でサユの手を掴んでいたが、兵士に引きはがされた。

 サユは数人の兵士に囲まれ、杖を突いてフラフラした足取りで歩いていく。


「サーーユーーーー!置いて行かないでーーサユーーーーーーー!!」


 ルコリーは必死で抵抗するが、屈強な兵士達に取り押さえられた。

 数本の槍と腕で自由を奪われ、引きずれて行く。

 それでも涙を流しながら、無駄な抵抗を繰り返す。


「サーーーユーーーーーーッッ!!」


突如引き離される2人。

西の王の住まう城で捕らわれの身となるのだろうか。

旅はここで終わるのだろうか。

次回、王城の空中で大刀がルコリーを処断する。

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