第25話 ~流転~ #4
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屋根裏で着替えることが出来たので、今日はペールバイオレットのシンプルな下着だ。
レースや刺繍という気分ではない。
体を重そうに動かすサユの着替えも手伝った。
色気も何もないその下着に一言何か言ってやりたかったが、アンニュイなサユを見て止めた。
荷物から適当に掴んで出した目隠しは、ランプと火の刺繍が入っていた。
昨日から続く雨は、日中は弱くなったが、マントを羽織り旅を続ける2人の体温と気力を少しずつ奪っていった。
医者からもらった薬を、昼に使い切ったサユは、日が傾くに従って馬からズリ落ちそうになる事が多くなった。
背中のサユの体温が少し高くなった気がする。
息も少し荒い。
のどかな風景は途切れ、目の前には深い森が横たわる。
樹海だ。
右側には、頭を雨雲に隠して鎮座した巨人のような大きな山が威圧感を与えてくる。
ルコリーは怯えながらも、樹海へ入って行く。
西のバタキの町までは一本道が続くが、一度道を逸れると二度と戻れないほど深い森だという。
屋根を借りた家でお礼のチップを渡すと、村人はそう教えてくれた。
陽が落ちた中、暗い道が続く。
灯りをどうしたらいいか聞こうとした時に、前方から灯りがやって来た。
それをサユに報告すると、
『ああ、あれが村人が冷たい理由かもな』
朝から生返事だったサユがまともな言葉を発した。
弱々しい中に緊張がこもっている。
馬を止めさせるとサユは馬から降りた。
足がフラついている。
「おい、お前ら運が悪かったな!」
荒々しい足音とともに粗野に話しかけられる。
これがサユの言っていた西の協力者だろうか。
しかし彼らが近づく程、ルコリーの胸に不安が広がっていった。
樹海の闇の中で出会った者達は何者なのだろうか。
そしてサユが剣を抜くとき、馬蹄の轟きが響く。




