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第25話 ~流転~ #3


      9/30


 一日中、ひたすら馬と共に西を目指して進む。

 家があると訪ねて頼み込んで食料を買い、また頼み込んで宿を請う。


 今日は納屋の屋根裏を借り、藁を敷いて寝る事になった。

 のどかで牧歌的な風景とはうらはらに、村人たちは旅人2人に対して懐疑的で冷たかった。

 相変わらず初対面の人や男性と話すのは苦手だったが、そうは言ってられなかった。

 サユは貧血と痛みと馬酔いで、歩くのも辛そうだった。

 食料の持ち合わせは少なく、テントを立てられる者が半病人。

 地面に頭をこすりつけて、頼み込む場面も多々あった。

 おかげで、少しは苦手意識も克服できたように思う。


 強い雨が、古い木造の納屋の天井や壁を叩いている。

 素敵な宿とは言えないが、雨を避けれたのは幸運だった。


 連れの馬は、下で藁を食んでいる。


 暗い屋根裏で、いつものようにサユはルコリーの胸に顔を埋めて寝る。

 だがいつもの浮かれた様子はない。

 先程までは苦しそうに肩で息をしていたが、今は医者からもらった薬が効いてきたのか、かなり落ち着いたようだ。


「ねえ、今話して大丈夫?」

『ん…大丈夫』


 心の声が弱いが反応がある。


「西の知り合いは信用できるの?

 行ってダメだったー!では話にならないわよ」

『仲間が話を付けに行ってます。

 師匠の使者なら無下にはできないハズです』

「仲間って…

 ゼルレグ以外にもいるの?」

『今回の仕事、私以外の弟子は斥候の大演習として各所に配置されてます』

「ちょ、ちょっと何よそれ、聞いてないわよ!」


 ルコリーが上半身を起すと、右の胸がサユの頬にのしかかる。


『ふにゃ!』


 おかしな声をあげるサユ。


『選抜された12人が6つの町や城国で、敵に見つからずに潜んで、

 私達の事を師匠に報告する、それだけの演習です。

 剣も未熟で、私達より若い子ばかりだから直接には関与させません。

 危険ですから。

 だからあなたにも教えてません。


 ただ、バルハカンで事情が変わってきたので、

 ゼルレグに手伝ってもらいました』


 彼は年上だから、とか心の声で呟くと

 ルコリーが寝住まいを正す。


「いつの間にそんな隠密行動をしてたのよ」

『お医者さんのところであなた、薄着のまま私の布団に座って寝てたでしょう。

 あなたが風邪ひいて動けなくなったらどうする気ですか』


 そういえば病室で起きた時に、シーツをかけられていた時があった事を思い出すルコリー。

 モミジも案外優しいなー、と思っていたが違っていたようだ。


「そっか、バルハカンに着いた日の夜中ね。

 もしかしたらさー」

『ん?』

「私達の道筋って、その弟子さん達のせいでバレたんじゃないの?

 配置見られたとか、誰かが話したとか」

『弟子達は配置されただけです。道までは知らされていません。

 弟子が裏切ったり、敵の手に落ちたりしたらそれこそ修羅場です』

「ん、なに修羅場って。

 どうなるの?」


 興味を魅かれて首だけ起こすルコリー。


『師匠が動いて、全ての敵が根絶やしです。

 相続問題どころじゃなくなります』

「ちょっと!

 モミジが裏切ってサユが傷だらけの今って、

 師匠が動く事態じゃないの」


『それはないです』


 サユが静かに答える。


「なんでよ。弟子の裏切りと弟子の危機でしょうが!」

『私は一人の傭兵として、この仕事を受けました。

 いつまでも師匠の庇護を受けてるただの弟子を止める為に。

 それは師匠が一番良く知ってます』

「何それ、プライドとか何とかっていうメンドクサイやつ?

 そんなモノの為に死ぬ覚悟とか?

 くだらない!」


 ルコリーは呆れたように溜め息を吐くと首を下ろして、目をつぶる。


『強くなりたいんです』

「はいはい、聞いた聞いた」


『約束しました。私があなたを守りたいんです』


「んっ?」


 意外な事を言われた気がして、目を開けてまた首を起すルコリー。


『訂正、この胸を守りたい』


 さらに顔を埋めてくるサユの頭の上に軽いチョップを当てる。


 しばらく雨の音を静かに聞いていた。


「そんなに人を動かしてさー」


 サユが身動きひとつしないので、寝ていたら悪いと思い静かに話し出す。


『ん?』


起きていたようだ。


「サユも必死になって、採算取れる金額を貰っているの?

 モミジが既に赤字だ、って言ってたけど」

『……』


「お兄様が依頼主としても、

お父様の存命中自由に使えるお金をそんなに持ってなかった…と思う」

『あー、依頼主は立派な白髭の偉そうなおじいさんだったって。

 亡くなられたおなたのお父様の紹介で、遠い親戚だとか』

「はぁ?遠い親戚なんてほぼ他人じゃん!」


『師匠と師匠の姉さんが会って話したけど、

 依頼の話以外は嘘だろう、というのが2人の見解でした。

 全額前払いだったので、姉さんの方が話に乗りました』

「私も嘘だと思う。

 アイマリース商会会長が乗り出す大金だったのね。

 まあ、この私の護衛なら相当な額出して当然よね」


 サユの鼻息が聞こえた。

 笑われた気がする。


『師匠の見たその男の姿、覚えてるけど見る?』

「見る!ていうか見れるの?」

『むむむむー』


 力んでさらに胸に顔を押し付けてくるサユ。


「痛い、痛いってば。…はー結構便利な魔法よね」


 後頭部に何かを感じて、目を閉じるルコリー。

 朧げながら瞼の裏に、白髭の偏屈そうな年配の男性が見える。


『はぁー疲れた』


 サユは地に落ちたロープのように、ぐったりと力を抜いて身体を緩ませた。


「んー見た事あるような…うん、やっぱり知らない」

『徒労でしたか。

 疲れました』

「はいはい、ごめんごめん役に立たなくて。

 寝るわよ、私も疲れたわ」


 さらに強くなる雨音を聞きながら2人は目をつむる。


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