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第25話 ~流転~ #1

      10/30


 魔法のあるこの世界だが、ドラゴンはいない。

 勇者が仲間と共に悪いドラゴンを倒しにいくのは、

 やはり絵本か物語の中だけである。


 だが、ドラゴンの子孫と言われている生き物が存在する。

 「龍騎」である。


 身体が大きく、馬に似た姿だが顔は竜のように厳つく、胸や肩に硬い鱗を持ち、

生半可な刀や槍は通用しない。

 大陸の西、シャイワール地方が主な産地。

 東のフラクシズ地方、ソリドニア地方では龍騎の数で、軍事力の優劣を測る場合がある。


 一般に使われている「馬」は並みの大人の背丈ほどしか高さがなく、人の駆け足より少し足が速い程度だが力が強く長距離の走行が得意だ。


 サユ達一行は、その小さい「馬」と一緒に湖の上にいた。

 曇り空の下、大きな四角い木造の渡し船がおだやかな水面を滑って行く。


 バルハカンの西のデサント湖を東西に渡す渡し船で、籠を背負った農夫や行商人など、沢山の人が船底に腰を下ろしている。

 この渡し船は、地元の人々の足なのであろう。

 今は遠くバルハカンの町のあった山々は、霧がかかっているらしく霞んで見える。


 ルコリーは遠くなる町を眺め、昨夜の事を思い出す。


………

………………

 星明りの下、大きな男を見上げる。


 質素な生成のシャツと五分丈のズボンと木靴。

 そこから除く皮膚の大部分は奇妙な模様の刺青で覆われていた。

 装甲のように盛り上がる筋肉。

 肩幅が広く、背中の二つのコブがさらに広く見せていた。 


 声も出せずその男を見つめていると、サユが男の方へ杖を伸ばす。

 危ないから止めさせようとするが、大男が杖をつかむ。


『良いタイミングでした、セルレグ』


 しがみついた背中を通してサユの声が聞こえる。


あねさん姉さん、

 ああもう、傷だらけじゃないですか

 姉さん!」


『すまない、運んでもらえると助かる。

 あと荷物と。』


「ああ、ああ姉さん

 姉さんを運べるなんてオイラ幸せだ!」


 姉さん姉さんと何回言うんだ、と文句が言いたいルコリー。

 頭の悪そうな言動の男の顔を拝もうと見上げる。


 側頭部と後頭部が刈り込まれ、そこにまで刺青が入っている。

 頭頂部と前頭にあるモジャモジャの髪はまるで馬のたてがみのようだ。


 厳つく大きな顔は、醜男ということはない。

 目が優しく快活に笑う。

 しかしタイプでもない。

 

『あとこの辺りに獣や鳥の血を撒いてください。

 誰かに襲われたように。


 さっき投げた男は気絶させたままで。

 殺さないでください』


「さすがさすが姉さん。

 頭がいい姉さん!」


 セルレグと呼ばれた男が、サユを軽々と左脇に抱える。

 

「荷物荷物?

 ああこれか」


 手を伸ばすと、重かったルコリーの荷物も軽々と右脇に抱える。


 歩き出す、と思った矢先にセルレグがルコリーを二度見する。

 こちらを向く驚いた顔が、滑稽で面白く思わず苦笑してしまった。


「ほわーーーーーっ」


 セルレグは叫びだすと駆け出した。


「はあっはあっ…こっちもケガ人なんだから…少しは待ちなさいよ!」


 痛みで足を引きずりながら早足で後を追う。

 すぐに町を囲む防壁に行き当たる。


 セルレグはサユを下ろすと防壁に向かう。

 ルコリーはサユの肩に手を置くと息を整える。


「はあっ…防壁があるんじゃ町から出られないじゃない。

 どうすんのよ」


『町の何箇所か、人の出入りの為に防壁の薄い所があるそうです。』


 セルレグが手をかけた場所は他の5層積みの防壁と違い、細長い一枚の大きな岩だった。

 夕方に町に入る時も細い隙間を通された事を思い出す。

 サユを担いで入れず、モミジと2人で引きずって入ったっけ。


「そんなのが分かっても、どっちにしても出られないじゃん」

『ゼルレグはそこを投げて入ってきたそうです』


 ルコリーは投げる、という言葉で気が付いた。


「あれが、前に話してたおとうと弟子ね。

 師匠に何度も投げられた」

『そうです。

 いつか師匠を投げるつもりで、ずっと投げにこだわって。

 今ではどんな重いモノでも魔法で投げられます』


 ゼルレグは大きな一枚岩をひょいと脇へ投げた。


『ただ”投げる”と思わないと発動しない魔法ですけどね。』

「あはっ、どんだけ投げにこだわってるのよ!

 よほど最初に師匠に投げられたのが悔しかったのね」


『まあそんな男だけど、根は悪い奴ではないですよ。

 少し頭が悪いけど。

 今度改めて紹介します』

「へ!?

 いや別にそんなのいらないけど」

『…あなたに一目惚れしたから、紹介してくれと頼まれまして…』


 担いで走りながら、そんな会話をしていたのか。

 ゼルレグがドヤ顔しながら胸を張ってこちらに戻ってくる。


「いやーパスするわ。

 タイプじゃないので。」

『あなたならそう言うと思ったわ』


 言葉の裏でサユが少し笑っていたような気がした。


 防壁を抜けると、木に馬が一頭繋いであった。

 馬に2人と荷物を載せ、斜面を下る。


 ゼルレグが付いて来たがっていたが、サユが何かを支持すると大人しくバルハカンの町へ戻って行った。

 一枚岩が再び防壁の隙間を埋める音を聞くと、少しずつ色を取り戻しつつある朝の空気の中を馬を進めていく。

………

………………

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