第24話 ~崩落~ #1
11/30
舞い立つ埃の中から、ドズが姿を現した。
強い殺気を放っているのが、ルコリーが見てもわかる。
「ここで終わりにする。
男として、これ以上の失態は許されない」
くぐもった低い声が面当ての中から漏れる。
「ひっ!は早く階段!」
ルコリーはサユを引っ張って階段を上って行く。
振動が突き上げ、階段が崩れていく。
「にゃあああああああっ」
間一髪で上の階にたどり着く。
四つん這いでへたりこむと、胸が重い。
『早く立て。
今度は下から狙われる。次も階段か?』
「う、うんそう。まだ上!」
ルコリーは気が付く。
各階の階段前にはパネルが必ずある。
朽ちて文字は読めないが、白く描かれた太い線が残っている。
この建物の案内図だ。
白い線が外壁を表しているとしたら。
「あった、この階だ!」
その階のパネルには、他の階にはない長く伸びた白い線がある。
「こ、こっちかな、えっと多分こっち!」
サユを引っ張っていく。
階段を上る間に大きな振動が続き、ドズが破壊繰り返しながら近づいているのが分かる。
細く長い通路に入る。
通路の右側の壁には等間隔で採光用の穴が空けられて、明るい。
窓や戸板などは無く、穴の周りには砂や枯葉が積もっていた。
穴からは山をうがつ大きな穴の斜面のあちこちに、白い建物がはめ込まれているように建っているのが見える。
同じ窓がいくつも並ぶ建物と建物の間を、パイプ状の連絡通路が渡してある。
この通路もその一つだ。
建物のほとんどが斜面の途中から建っているので、連絡通路は高所の空中回廊となっている。
ルコリーが足を止めた。
「ハァハァハァハァ…ちょっとタイム、登り疲れた…」
『ここが安全だとは限らないですよ』
破壊音が続くのを、サユは警戒して聞いている。
「こっここを崩したら、前の崖の時みたいにドジ踏むでしょ。
いや、もしかしたらハゲデカ男、またドジ踏んでくれるかも」
ニヤリとルコリーが笑った時。
目の前に天井が落ちて来た。
「にゃっ!」
ルコリーが天井を見上げると、
開いた穴から青空を背にしたドズが見えた。
「むぅ悪運の強いガキ共だ」
再び鎚を振り上げるのが見える。
素早く立ち上がったルコリーは、サユを引っ張って走り出した。
『今度は力を調整しながら、
自分の追いかける道を考えながら追いかけて来てますね』
「あのハゲデカ男君は、そんな頭があったのね!」
次の建物の近くまで来た。
大きな振動に足を取られ、転びそうになり止まる。
「にゃあああっ」
目の前の通路が少しずつ崩れ落ちて行くのが見えた。
通路の屋根のドズが、先に次の建物に着いたのだろう。
渡り終えた通路と共に2人を叩き落とそうと、鎚を振ったに違いない。
ルコリーがサユの肩を組んで走り出す。
崩れていく通路に向かって。
「サユ、せーのでジャンプ、
せーのっ!ジャンプ!」
サユは受け身の体勢を取って肩から床について、
一回転してキレイに着地する。
「落ちるぅぅぅぅぅっ!」
体力の差で、サユほど遠くへ飛べなかったルコリーは胸から床に落ち、
下半身は、通路が無くなった空間にあった。
ルコリーの後ろでは次々と崩れ落ちていき、通路の黒い口が遠ざかって行く。
その遥か下では、落ちた通路が四散する。
「助けてぇぇぇぇっ」
涙を流して叫ぶルコリーの体が少しずつ外に落ちていく。
サユが杖が差し出し、声のする方へ左右に振りながら近づく。
ルコリーは迷うことなく両手で杖に飛びついた。
が、さらに体が建物の外に出る。
「ぎにゃああああああああああああああああ!」
『重いわあぁーーーっムダな脂肪が多いのよーーーっ!』
サユが文句を言いながら踏ん張っているが、徐々にルコリーの重みに引っ張られている。
見上げたルコリーの視界にドズが入る。
2人のいる場所の天井で鎚を振り上げていた。
落ちる前に、天井で圧死させられる可能性の方が高かった。
「にゃっにゃっにゃああ」
必死になって足をかけるところを探すが、
足はただ宙を空回りするばかり。
横に木の梁が出ているのに気が付いた。
足を掛けようと、大股を開く。
が、梁が高くて届かない。
その間にも2人は重力という見えない手で引っ張られていく。
今度は勢いをつけて、足を上げる。
『暴れるな、踏ん張れないっ!』
「お願い、もう少しだけ耐えて!」
再びルコリーの足が空振りした。
踏ん張るサユの足が、床の端へ到達していた。
鎚が天井を突く振動が響く。
『!!』
サユがついに足を踏み外し、空中へ足が投げだされた。
「サユッ!」
必死で抱きつくルコリー。
再度の挑戦で足が梁に掛かったルコリーは踏ん張る事が出来、2人の落下を止めた。




