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第23話 ~廃墟~ #2


 町から出たところに、長い黒髪を束ねた男が剣を振っていた。

 顔の皺に年齢を感じるが彫りの深い良い顔立ちをしていた。

 逞しい上半身を晒し、風を斬る剣の音にその男の強さを感じる。


『この町を守る傭兵でしょうか。

 外壁がないこの町を守るのは大変そうですね』


 彼に事情を話せば、私達を助けてくれないかしらと考えるルコリー。


『彼を雇える程のお金はありませんよ。

 第一お金で動くような人ではありません』

「おい、心を読むな!」


 ルコリーが抗議するが、サユは無表情で答える。


『読まなくても、あなたの考える事はわかります』

「じゃあ、なんでお金で動かないって…」


「女3人か。

 気を付けられよ。

 この数日、血生臭い奴らが出入りしている」


 黒髪の男が突然声をかけ、再び剣を振って鍛錬へ戻る。

 サユとモミジが頭を下げたので、それに倣う。


 血生臭い奴ら、とはオレギン達の事だろう。

 そこまで分かっていて気を付けろ、と言うならついて来てくれてもいいのに、とルコリーは思う。

 未練がましく男を見ていると、男の横を通る町の人々が、彼に挨拶をしていた。


『お金より、信頼を大切にしている方です。

 簡単に町から離れる事はないでしょう。

 でもなければ、町の前で剣を振ってる男なんて、

 ただの不審者です』

「好きです、ってコクこればついて来てくれるかもよ」


 もう一人ルコリーの心を言い当てる者がいた。

 モミジの顔に意地の悪い笑顔が浮かぶ。


「お前の胸ならすぐ落ちる男は多いぞ」

「モミジさんの方がお似合いじゃないですかー」


 からかわれていると分かるので適当に返すルコリー。


「私はもっと若い方が良いわ、年齢の近いイケメン」


 ルコリーは見ていなかった。

 モミジの目が、「女」の目になったところを。


………


 町から山へと続く道を2人並んで歩く。その後ろにモミジが続く。


「ねえ、アンタ昨日泣いてた?」


 山中に入り、マントを脱いでいつも通りの服に戻る。


『…泣いてなんかいません。泣き虫のあなたと違います』


 まだ、ソーセージのサンドイッチを少しずつ食べながら、魔法の声で答える。


「あ、そー」


 何故か手引きで繋いでる右手を強く掴まれた。


 しばらく会話もなく歩いてると、サユはパンを食べ終えた。


『…誰にも、モミジさんにも内緒です。

 昨日オレギンに一方的に負けて、

 一太刀も浴びせられなかったのが悔しくて…』


 首を少し後ろに向けるルコリー。

 恥ずかしそうに顔をうつむける姿は、いつも無表情で凛と歩く姿とギャップがあってカワイイな、とルコリーは思う。


「うん、それより傷は大丈夫、痛まない?」

『…薬のせいか大丈夫です。きっと良いお医者さんなのですね』


「あ、この先に行けば小さな集落があるっぽいよ。

 そこで少し休憩しよう」


 サユとモミジは、地図を見ていたルコリーの言葉に賛同する。


「でも変ねー。この集落名前が無いわね」

『きっと小さな集落なんでしょう』


 しばらく歩くと開けた場所に出る。


「あー、あれじゃ名前いらないわよねー」

『目、借りますよ』


 サユは魔法で、ルコリーの見ている風景を心に投影する。

 見晴らしのいいこの場所からは、集落の全体が見える。

 小さいどころか大きな集落である。


 山の斜面に窓の開いた無機質な四角い箱のような家が何層にも重なっている。

 無機質な固まりは、斜面に数棟あり長い通路でお互い繋がれている。

 ただ、これらにはツタが多く絡まり、草や木の中に沈み込んでいるように見えた。


『廃墟ですか。

 こんな所に寄せ集まって、鉱物の採掘場でもあったのでしょうか』

「もーなんなのよー期待させといてー。

 もーーっ!」


 勝手に期待されて、廃墟はルコリーに文句を浴びせられた。


 3人が廃墟に近づくと後ろが騒がしくなった。


「サンシャ、今日は言う事聞かないとご飯抜きだから!」

「モーワカッタヨー。フィアイジワルダヨー」

「杖の女だけ狙え。

 ナイフの女にはかまうな!いいか、杖だぞ杖!」


『追って来ましたか。

 フィアとサンシャですね』


 サユが呟く。


「あー迷ってたからしばらくぶりよねー。って、あれ?」


 何かに思い当たるルコリーだが、モミジの声に思考を止める。


「私がアイツらを引き付ける。2人は廃墟に隠れてなさい。

 サユはあの二人を相手に出来る状態じゃないでしょ」

「行こう、サユ!」


 サユの手を引いて草の生い茂る、元は廃墟へ続く道だったと思われる場所に入って行く。


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