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第23話 ~廃墟~ #1

      11/30


 朝の町を眺める。

 青い空の下、昨日の夜に見れなかった町の様子がよく見える。


 丸太を組み上げ黄色い壁を持つコテージが立ち並ぶ。

 類似の規格に統一されたこの町はキレイで小洒落て見えた。


 しかしここの建築家たちは、木を曲げるのを競っているのか。

 梁がクネクネ曲がる家がある。

 軒先の四方が、上に曲がって伸びている。

 四方の柱が末広がりに曲がっている家もある。

 医者の家が一番まともに見えたが、玄関に巨大な柱のアーチがある。


 今日はテンション低めな朝になったので、グレーに水玉模様のあるシンプルな下着にした。

 サユの目隠しは、ペイズリー柄に似た花の模様の刺繍が入っている。


 テンションが低くなったのは先程の話し合いの為だ。


………


 サユが起きた気配で、ルコリーは目が覚めた。

 目が腫れぼったい。

 昨日は座ったままサユのベッドに突っ伏して寝たらしい。

 体の上にシーツがかけられていた。

 モミジがかけてくれたのだろうか。


 眠い目をこすると、ベッドの上で上半身の動きを確かめるサユが見えた。

 それを見て、朝の挨拶もなく昨日考えていた事を口にする。


「ねえ!もう止めよう、サユ。

 私、タウチットに着かなくてもいい!

 サユのこんな姿になるの、もう見たくない!」


 動きを止めるサユ。

 それから手を泳がしてルコリーの位置を探し始める。

 顔を探し当てると、頭にサユからチョップを喰らった。


「いたっ!」

『寝言を止めて目を覚ましなさい』

「寝言じゃない!昨日の夜ずっと考えてた!

 身体と命を懸けてまでやる事じゃないって言ってるの!」

『じゃあ、文無しになったあなたはどこで暮らしていくの?』

「そ、それは……

 それに、あと期限まであと10日程なのにまだ半分しか来れてない!

 どっちにしろ間に合わないわよ!」

『北のコゾック城国まで出たら、街道に出て馬車に乗せてもらいましょう。

 酔い止めを買ってなんとか我慢して行きましょう』


 グッと力こぶを作るサユ。


「もう体が傷だらけじゃない!

 もしこれ以上傷ついたり死んだりしたら、意味ないじゃない。


 私は、ワガママでうるさくて、泣き虫でお漏らしのやっかいなお嬢様なんでしょう。

 アンタ達はこの仕事が失敗しても、師匠に怒られるだけでしょ。

 もうそれでいいじゃない!


 これ以上包帯ぐるぐる巻きの人に守られるだけなんて…

 …辛いだけじゃない」


 昨夜ベッドのサユを見て考えていた事を全て吐き出すと、また涙が溢れてきた。


 同じ歳なのにどこか偉そうで、いつも私を小バカにしてくる相手。

 だからといって死んで欲しいなんて思ったことは無い。


 どうして、あんなに嫌いになったサユを必死で止めようとしているのだろう。

 3日間一緒に森を彷徨った間にお互い心が近づけたように思う。


 今まで出会ってきた人の中で、これほど言いたい事を言い合える人はいなかった。

 これまで友人と呼べる人はいなかった。

 一般的にそれが正解かはわからないが、彼女は友人だ。 


 この旅が終わってお互いどうなるかわからない。

 もしかしたらもう2度と会う事が無いかもしれない。

 それでもこの旅の間は、友人でいたいと思う。

 サユは私をどう思ってるかは知らないが。


 そんな彼女が、父を含む大人達の勝手なルールのために傷ついてベッドに寝ている姿を見ていると申し訳ない気持ちになった。

 やるせない気持ちになった。


 包帯の上からアーマースーツを付け始めていたサユが手を止め、俯いて溜め息をつく。


『私は強くなりたい。

 だからこの仕事を師匠から引き受けた。

 いつまでも、ただの弟子じゃダメなんだ。

 私を心配してくれる人を、放り出すような弱い者にはなりたくない』

「え…」


 2人は直接触れていない。

 ベッドを介しての魔法の心の声だったが、ハッキリと力強く伝わる。

 サユはそのまま黙々と出立の準備をする。


「サユは師匠が止めるまでは、止まらないわよ。

 あなたが何を言っても無理」


 モミジが眠そうに起きてきた。

 2人の会話をちゃんと聞いていない彼女は、適当にこの話題を終わらせた。

 モミジからまた、微かに懐かしい匂いをルコリーは嗅ぎ取る。


「サユ、薬をもらった。

 後で飲んで。

 それからパンとソーセージと。

 食べながら行きましょう」


 サユをじっと見つめるルコリー。

 他に彼女を止める言葉がないか探している。


『…あなたがただのワガママお嬢様のままだったら私もあきらめられた…』

「…え、何?」


 サユがベッドから離れる際の魔法による心の声だったので、

小さく遠くて聞き逃がす。

 そのまま、サユとモミジが扉に向かうので、しかたなく後に続く。


………


 こうしてルコリーはサユの説得に失敗した。


 医者の忠告に従って、マントにフードを深く被って町をこそこそと出る。

 太陽が、その姿を山間から完全に出した時間になっていたので、人通りが多かった。

 サユの杖とフードで逆に目立っていたかもしれない。

 子供たちが並んで不思議そうにこちらを見ている。


『一つ願いを聞いてくれたら、この旅あきらめてもいいです』

「え、ほんと!」

『胸を一日中揉ませてくれたら、考えなくもないです』


 無表情におかしな提案をするサユ。


「だまれ、エロオヤジ女!さっさと歩け!」


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