第21話 ~奇襲~ #2
しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。
「ルコリー、我慢してるでしょう」
モミジの突然の質問にルコリーが焦る。
「な、何も私は特に…」
「私もなのよねー。ほらお花摘みの時間よ。
サユはここでちょっと待っていて」
モミジがサユの肩に手を置く。
『了解』
と答える。
「2人でいかなくても!一人で大丈夫だし」
「恥ずかしいから交代で見張りに立ってよ」
「2人で連れ立って行く方が恥ずかしい!」
ルコリーの軽い抵抗を無視して、モミジさんが連れて歩いて行った。
私はいいのだろうか。
特に我慢をしているわけではないけれど、とサユは思う。
一番近くにいて、ルコリーの変化に気が付かなかった自分にまたモヤモヤする。
葉音に囲まれる中、ヒマになって杖をついてぐるぐると歩き回る。
風が強く吹いた。
大きくなった葉音の中に、不吉なものを感じる。
コーーン。
試しに軽く「マインド・ソナー」を地面に向けて放つ。
4人。
そのうちの2人はルコリーとモミジさん。
もう一人は遠い。
私達と同じように、広い道を外れて歩く旅人か何かだろう。
もう一人はすぐ側に居た。
『!!』
気配を消してここまで近づいた強者。
もう少し気づくのに遅れていたら、今頃死体となっていたかもしれない。
「やあ、4日ぶりだったか、5日ぶりだったか?」
オレギンと名乗っていた男の声だ。
サユは素早く構える。
「いない、フィア達は。居るのはこの先のバルハカンに。
知らない、ここまでお前たちが来ていることに。
教えるがな、後で。
なあ、話をしたい、少しお前と」
殺気は無い。
そして動きが無い。
少し魔法を放つと、オレギンが武器と腕を突き出して止まっている事がわかる。
私を待っているのか、話をする為に。
サユは剣を抜いて前にだすと、相手の武器に当てる。
「俺はなぁ出ていた、前の戦争に。
そこで見た、お前の師匠。
格好良かったなあ、「黒の旋風」の噂通りに。
漁師をしていた俺はなぁ、彼女に憧れた。
辞めた、仕事を。
そして教わった、色んな者に戦い方を」
無表情で黙って男の話を聞く。
一人語りなら勝手にやってくれていれば良かったのでは、とサユは思う。
「今度の仕事は出てくると思った、「黒の旋風」。
だが出てきたのはお前だ」
『がっかりさせましたね』
「うむ、少し。
情報を集めると聞いた、お前が一番弟子だと。
だから、変わった武器の奴を集めて様子を見た」
『それで毎回見学ですか。
でも今日はお一人のようですが。』
「思った、一度手合せ願いたい」
市場に買い物に来た、ぐらいの軽さで言ってくれる。
『ふーん、では合格ラインには乗りましたか、私。
つまりあなたはルコリーが目的じゃないのですね』
「すぐ殺れる、小娘一人」
男の言葉を不快に思ったサユ。
表情には出さないが。
皆が必死で戦ってる中、やろうと思えばルコリーを殺す事が出来た筈。
それを高見の見物。
この状況の中を一人楽しんでいる奴がいる。
男の手の上で踊らされているようで気に入らなかった。
『それが出来るか試してみますか』
サユが後退し剣を構え直すと、オレギンが鼻で笑う音が聞こえた。
ジャラジャラと大量の鎖が地面を這う。
魔法を男に集中させると、腰に背負った筒から鎖が流れ落ちているのがわかった。
一定の長さを吐き出すと止まる。
サユはこの男が、大量の鎖を一つも音を立てさせずに接近した事に思い至る。
やはり相当の手練れか、と思うとサユの手が汗ばむ。
サユはゆっくり舞始めた。
「ははっ、それが天女こう……」
サユが間合いを詰め、数合打ち合う。
『恥ずかしいのでフルネームは止めてください』
交わす剣を通して魔法で話しかけるサユ。
「ヒヒヒヒ、見せてもらうぞ演舞の剣!」




