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第20話 ~高揚~ #3

      13/30


 ルコリーがボーッとしている。

 下着を着替えていたサユは手を止め、ルコリーに触れて魔法で声をかける。


『何、ぼんやりしてるのですか』

「え、あー…キレイだなーと思って。

 サユの体」


 昨日とは変わって、快晴の空から朝日が差し込み、サユの体を白く浮きだたせている。

 引き締まった体が織りなす光と影の調和が、美しい彫刻のようだった。


『ジロジロ見るな!お前はフィアか!』

「い痛い、痛い、ごめんごめんってか、あんな変態と一緒にしないで!」


 サユの軽いチョップの連打が、ルコリーに決まる。

 日陰に入った、真っ赤になったサユの顔はルコリーには見えなかった。



 今日の下着は、ヒラヒラフリル付きのチェック柄。

 目隠しの刺繍は、皮肉なのかカエルと雨のラインが入ったものだった。


『昨日から登りが続いてるわね。かなり上にきてるのでしょうか』


 いつもの手引きスタイルで歩く2人。


 ガサガサと地図を見るルコリー。


「んんー、この道じゃないかなー。

 これかなー。んー。

 なにかここだけ丸い線が引いてあるわね。何かしら」


 ルコリーは顔を上げた。


「あ、あの岩の上に登ったら、何か見えるかも」


 木々が途切れて明るい場所に出た。


「ちょっと待ってて。登って見てくる」

『落ちないでください』


 背丈の4倍はある大きな岩だが、あちこちに出っ張りがあって登りやすそうだ。

 楽勝だと元気に上るルコリー。


「にゃああああ!」


 足を滑らせた。

 危ない危ない。

 何とか落下は免れた。

 後ろから大きなため息が聞こえる。


「ちょ、ちょっと足を滑らせただけなんだから!」



 岩の上から大きな声のルコリーの感嘆が聞こえた。


「わあああ!

 ちょっとロープ貸して!

 サユもここまで上がって来なさいよ!」


 こんなところで遊んでるヒマなんかないのに、と思いながらもカバンにかけていたロープを投げる。

 しばらくすると、ロープの端が頭の上に落ちてきた。

 それを引っ張って安全を確認するサユ。

 手だけ動かしてロープをするすると上る。


 岩の上に上がると、前方が広い範囲で何もない空間だと風が教えてくれる。

 ルコリーが右手を、サユの左手と繋ぐ。


「見て、サユも驚くから!」


 魔法を集中させて、ルコリーの視覚に集中させる。


『ほぉぉぉぉ』


 思わず感嘆の声を、心の中であげた。


 空は大きく広がり、山々の連なりが遠くまで見渡せる。

 足元はすり鉢状に大きく広く窪み、その底には青い鏡が広がる。

 底まで見えそうな透明度の高い水が、空の青を映していた。

 地面に広く穿たれた穴から、別の世界を覗き込んでいるようだ。


『カルデラ湖ね』

「へー、ここそんな名前なの?」

『いえ、昔火口だったところに水が貯まるのをそう言うの』


 2人の間を、一陣の爽やかな風が吹き抜ける。


 不思議な感覚がして、ふと左に顔を向ける。


『!!』


 ピンクの髪の少女が見えた。

 サユは目隠しを確認するが、付けたままだ。

 何となく目隠しを取る。


「あ、ウソッ!傷が無くなって黒目があるよ、サユ」

『え、私にはルコリーが見える…』

「何これ………」


 お互いしばらく見つめ合う。


『意外と美人なんですね』

「意外って何よ。サユはなんかすごく可愛くなってない?」


 見つめあいながら、お互い頬を染める。


「な、何かしら、何かの奇跡でも起きたのかしら」

『ルコリーの見せたいって思いが強くて、

 私も見たいと思う気持ちが強くなったから?

 よくわからないけれど』

「なんでアンタの顔が変わってるのよ」

『これは多分、私が昔憧れてた人の顔。

 ずっと憧れていたその姿をあなたに見せているのね』


「私は自分の顔が好きだから、多分そのまんまよ」

『あなたの鬱陶しい巻き髪も、こうやって見るとキレイね』

「あー、今は手入れしてないからクチャクチャよ。

 やっぱり少し美人に修正しているのかも。

 私はアンタの素の顔、嫌いじゃないわよ」

『これが?』


 サユの顔が傷のある顔に戻る。

 義眼に黒目が入っていた。


「うん」

『可愛いって言ってくれないんだ』


 ピンクの髪の少女はニヤリと笑う。


「あー可愛い、可愛いよ、うん。

 そんな事気にするなんて、サユも普通の女の子ね」


 サユは口を開けて、肩を震わせた。


『アハハハハ、アハハハハハハハ!』


 声が出ない分、心の中で大笑いしてる。


「フハハハハ、ハハハハハハハハ!」


 ルコリーも可笑しくなってきて笑う。


  空が七色に変わる。

  花吹雪が舞う。

  足元に白い花が咲き乱れる。

  白い雪が降る。

  蝶が舞い、鳥が踊る。

  カルデラ湖は、色とりどりの花に囲まれ、水面に色々な景色が映り変わる。


『アハハハハ、アハハハハハハハ!』

「フハハハハ、ハハハハハハハハ!」


 2人のテンションは最大にハイになっていた。

 ルコリーの服が、ブルーの大人っぽいドレスに変わる。

 サユの服が、レースとリボンがいっぱいに飾り付けられた白いドレスに変わる。

 黒髪が長く長く伸びて、川のように流れなびいていく。

 負けじとピンクの巻き髪がどんどん増えて、蛇のようにのたくっている。


 ガラスの城が山間から姿を現し、

 空から四角い石が降ってくると積み上がり、

 ピラミッドが出来上がる。その上にさらに石が積み上がる。

 時計塔がつくしのように生えると、太陽に向かって伸びていく。



 ルコリーは気が付く。

 湖の上に少年と少女が立っている。

 あれがサユの憧れていた人かしら、と思ったその時。

 湖上に長身で長い銀髪の男性が現れた。


「お兄様!」


 男の元へ歩きだそうとすると、繋いでいた手に引き戻される。

 気が付いて下を見ると、ずっと低いところに地面がある。

 岩場から半分体を乗り出していた。


「にゃああっ!」


 尻餅をついて後ずさる。

 周りの風景は、元のおだやかで美しい風景に戻っていた。

 透き通る青の水面の上には誰もいなかった。


「な、なんかすごく疲れたー」


 寝ころんで上半身を起すルコリー。


『私も』


 ペタンと座り込むサユ。

 無表情に戻っている。


「でも、久しぶりに大笑いした気がする」

『私もー』


 岩を通して、身体の下からサユの声が聞こえてくる。

 そういえば、直接触れずに話すのは疲れるのじゃなかったっけ。


 上半身をサユの方に倒して、その手に触れるルコリー。


『何?』

「笑ってるほうが、ずっと良いよ」

『可愛い?』

「あ、うん可愛い、可愛い」


 笑って冗談めかして答える。

 無理矢理笑顔を作るサユ。


「キモい」


 ルコリーは手をつねられた。


「あ」

『今度は何?』

「村だ、村が見える!

 ずっと向こうにも建物が並んでる!

 えーと…」


 地図を広げる。


「わーお!予定ルートに戻れたみたい。

 あの先にあるのがバルハカンの町ね!」

『じゃあ、暮れる前に下りましょ』


 それから2人は会話らしい会話はなかった。

 いつもの手引きスタイルはしていない。

 繋いだ手をブラブラ揺らしながら、山を下りてゆく。


 宿に着いた2人には、久しぶりのまともな食事とベッドが与えられた。


 オドオドと怯えながら交渉するルコリーと、未成年者2人という事で、宿の主人に不審に思われる一幕があったが、サユが金貨を見せると、とたんに待遇が変わった。


………

 2人は肩を並べて寝ていた。

  シーツの下で手を繋ぐ2人。


「なんとか湖?

 面白かったねー。

 私、興奮して寝られないかも」

『うん……あのねルコリー』

「ん?」

『河原でドズと戦っていた時、助けてくれて…その…』

「なに?

 サユにしては歯切れ悪いわねー」

『ありがとう、助かった。

 …嬉しかった。

 て、ずっと伝えたかった』


 もし灯りが点いていたら、赤い顔のサユにルコリーは大笑いしただろう。


「あーあれねー、なんで私もあんな無茶しちゃったんだろ。

 もーわかんないや」


 照れ隠しで、肩でサユの肩を押す。

 サユも負けじと押し返す。

 2人は肩を震わせて、笑いの息を漏らす。

 さらにグッと固く握られる手。


 肩を押し合いながら暫く笑い合って、徐々に静かになると、2人の寝息が聞こえ始めた。


一度は壊れた関係の2人だったが、長い試練の中で寄り添っていく。

次回、ついにあの男が動き出す。


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