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第20話 ~高揚~ #1

      16/30


 ルコリーに請われて、サユは自分の住処の話を始めた。


『あれはそうね、7年前ぐらいだったかしら』

「そんな前から話すの!」

『「黒の疾風」と戦争中は恐れられた師匠も、

 戦後はヒマしてブラブラしていたわ。

 だから私に剣を教えてたのだけど。


 以前はソリドニア地方の北のコンテリーガ城国に住んでいたんだけど、

 そのさらに北、エビル地方の南に盗賊共が集まって、

 住み着いて困っている所があるって話を聞いて。

 師匠が討伐に乗り出しました』


 ルコリーはそのまだ見ぬ「師匠」を想像して、苦い顔をする。


『モミジさんや兄弟子の皆さんは戦争中の孤児で、

 集まってチームを作って悪さをしてたの。

 それを師匠が無理矢理大人しくせさて従えていたのだけど。


 戦争が終わって平和になった街になじめなくて、

 やっぱりブラブラされてたんです。


 そこに師匠が討伐の話を持ってきました。

 10人の兄弟子さん達は喜んで師匠のお供をします。

 平和な町を出て、都合が良かったらその場所を頂こうって。

 討伐の名を借りた乗っ取りです』


 今やルコリーの頭の中には、12人の鬼が暴れまわっていた。

 モミジも含めて。


『作戦はこうです。

 師匠が正面突破して敵の注意を引き付けてる間に、

 兄弟子たちが四方から襲いかかる…』

「それ全然作戦じゃないわよ!

 師匠やられたら終わりじゃない」

『そこが師匠の師匠たるところです。

 後方の守りにモミジさんと私が、付きましたけど』

「7年前でしょ!アンタまだ子供じゃない!

 しかも目が見えない子を連れて行く?」


『敵の砦は、天然の要塞でした。

 一方は沼に囲まれ、他は崖になっています。

 師匠と私達3人はボートで、砦正門へ乗り付けました。


 正門に乗り込んだ師匠は、門番を斬りつけ暴れに暴れます。

 次々と盗賊共が現れます。

 前から横から後ろから。

 怯むことなく、師匠が進む度に死体の山が築かれたそうです。

 モミジさんによれば、師匠は一歩たりとも退かなかったらしいです。

 たぶん誇張でしょうが。


 あ、そのモミジさんは、時々師匠の死角に居る敵に、

 ナイフを投げてサポートしていました。

 私はボートにいました。


 今から考えれば、師匠は戦わせる為じゃなく、

 剣の教えの一環として私を連れて行ったのかもしれません』

「………」

『兄弟子さん達は、崖を上るのに苦労したそうです。

 手薄になった中央砦の首領達を破るのは大して難しくなかったそうです。

 この時の10人の兄弟子さん達を、皆は「黒の十指」と呼びます』

「へー…モミジも…あだ名ついてすごい…んだ………」


 サユの話を聞いてるうちに眠くなるルコリー。

 静かに体に響く声が心地いい。


『その天然の要塞が、今の孤児院です………』


 ルコリーは夢を見る。


 鬼が済む砦に、さらに大きな黒い女の鬼がやってきて大暴れする夢を。

 自分はボートに乗ってそれを見ている。

 隣に乗った、黒髪の少女が笑いかける。


「すごいね、師匠は!」


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