第19話 ~迷子~ #2
「サンシャ、斬れたの?」
『ええ、考えたら当然よね、一日中体中に魔法を放てる人なんかいません。
ただ、人間離れした感と聴覚と視覚と運動神経があの子を超人にしてるわ』
「見た目がもう獣!って感じだしねー」
『こっちには、飼い犬がいますけど』
「まだ言うか!」
言葉と共に、軽いチョップがサユの頭に当たる。
それからルコリーはロープを外して、隣人に投げつける。
「ねえ、ここどこかしら」
『さあ、山の中ですね』
サユの返答を無視して、
服をまくると体に巻いた革袋から地図を広げるルコリー。
沈黙がしばらく続いた後、
「道に迷ったぁぁ」
情けない声がルコリーから発せられる。
そんな彼女に、サユは無表情に話しかける。
『とりあえず道に出ましょう。どっちから来ました?』
「あっ、足跡があるからこっち」
自分たちが走って踏み荒らした落ち葉を辿る。
だが獣が多くいるようで、色々な足跡が混ざりわからなくなる。
頼りなく歩いてると、とりあえず道らしきところへ出る。
「んー、この道これかなー?
ねぇ一応聞くけど地図に詳しい?」
『多分、あなたより見慣れてない』
「ですよねー」
ルコリーの右の二の腕を掴む、いつもの手引きスタイルで歩く。
『方位はわかってますか?』
太陽は、雲に隠れどこにあるのかさえ分からない。
「んーもうっ、全然よっ!」
地図をぐるぐる回していきり立つルコリー。
「とりあえず、こっちから来た気がするからこっち!」
しばらく歩いて、止まる。
「えー、こんなところに三叉路なんてないはずなのに~」
ルコリーはまた情けない声を出してしょげる。
『とりあえず、泣きべそかくのを止めて落ち着きなさい』
「うっさい、泣いてないし!」
昼の間中歩き回っても、状況は良くはならなかった。
日の入り前に、野営の準備をする。
二本の太い倒木に囲まれ風除けになる、悪くない場所だ。
日の入りの方向で、大体の方角がわかった。
が、今いる場所がわからないので話にならない。
とりあえず、東北に進めば本来のルートか、街道に出られるだろうとサユは言う。
サユは木や葉を集めて、隠し持っていた短刀と剣をこすり合わせて火花で焚き火をおこし、今は小動物の気配を追って狩りをしている。
ルコリーは焚き火の前でいつも持ち歩いているペンを、手で玩びながら待っていると。
コーーーンと、遠くから軽く不快な衝撃が足から頭へ突き抜ける。
久しぶりだが、何回喰らっても不快な「マインド・ソナー」である。
サユが、炎の灯りの範囲へ戻ってくる。
前に突き出して振っていた杖が焚火の木に当たると、火の粉が上がった。
「うわわ、火!火!」
少し下がると、ぐったりと座り込むサユ。
手に持っていた、血を流す一頭の兎か何かを黙々と捌きだす。
小動物とはいえ、血が流れるグロい光景だが、ルコリーはもうそんな光景に慣れてしまっている自分に気が付いていない。
サユの隣にひっついて座り、話しかける。
「誰かいた?」
『いいえ、敵も味方も一人もいない』
「そっかー」
『というか、獲物を探すのと動物のバリアの魔法を消すのにソナーを使ったのよ』
「へー便利ー」
『あなたも座ってないで、食べられる木の実でも探してよ』
「えーどれが食べれるか知らないしー」
『…魔法の使い過ぎで疲れた。
適当な小枝頂戴。肉刺す』
疲れすぎると、話し方がぞんざいになるらしい。
そっちの方がサユに合ってる気がするけどなー、と思いながら小枝を拾いに行く。
………
「あの粗末なテントがないだけで、こんなに心細いなんてねー」
2人は寄り添って頭から学院の制服やらシャツやらを被って、
体が冷えないようにしている。
『私は慣れてます、火を絶やさないようにしてください』
食事をして休むと、話し方が戻ったようだ。
「よく獲物を捕まえられたわね」
『魔法全開で気配を消せばなんとか。
それでもやっと一匹。
肉食獣が襲って来てくれる方が私には楽ですね』
火に木をくべるサユ。
火の音が大きくなる。
遠く近く虫の声が聞こえる。
ルコリーは足元を見る。
お気に入りのピンクの靴がボロボロになっていた。
「ねー私にはわからないけど、みんな外で寝るのに慣れてるものなの?」
『みんなって庶民の、下々の者共がってこと?』
顔は無表情だが、茶化しているのが体を通して伝わる。
「えーそうよ、お嬢様にはわからないから教えなさいよ!」
『私達孤児院では、みんな月に一度くらい山で野営するのです。
どんな所でも寝られるようにしろ、ていうのが師匠の教えです』
「結局孤児院て名前の道場を作ったんだっけ。
今はそこで皆と暮らしてるの?
ねえ、どんなところ?」
『長いのと、短いのどっちが聞きたいですか』
「夜は長いから長いので」
サユは話出す。
師匠と弟子たちと暮らす、砦の話を。
2人で山をさまよう中、サユは師匠のとんでもない武勇伝を聞かせる。
次回、超展開。




