第19話 ~迷子~ #1
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道に迷う少し前。
霧のかかる朝の道を、サユ達3人が山道を歩く。
今日は、筋肉痛もマシになったので、イエローのラインのデザインと縁取り、
そこから広がる白いレースのかわいい下着に決めた。
筋肉痛が退いたのは、山歩きにも慣れたのだろうか。
今日のサユの目隠しは、端にウサギを追いかける女の子の凝った刺繍が入っている。
そして敵が待ち構えるところへ出くわす。
「オハヨーダヨー、ヨー」
が、今日はいつもと違いサンシャ一人だ。
目が笑っていない笑顔のモミジに向かって、嬉しそうにジャンプする虎柄ビキニの少女。
『ルコリー、ロープ!』
お互いロープで結んだ2人は、サンシャへと向かう。
『伏せろ!』
サユは無表情で剣を抜き、素早く後ろから斬りつける。
モミジの方に気を取られていたサンシャは、サユに気が付くと横に転がって剣を避けた。
サユは剣を振りかざし少女が体勢を立て直す前に決着を付けようとする。
モミジが放ったナイフが回りを囲み、逃げ場は無い。
しかし。
サンシャは跳ね起きると、左手で剣を鷲掴みにした。
右手で背中のブーメラン引き抜いて振り回すと、投げナイフは全て地に落ちた。
「見エナイ人オヨビジャナイヨー。モミジトタタカイタイヨー」
やはり剣が通らない。
剣を通して魔法で話かける。
『今日は私の相手もして頂きます』
「ヨー、ヨー、ナヨー!オ前オモシロイ声!」
大きな目をさらに見開き、笑い出すサンシャ。
「トガッタモノキライダヨー、怖イママ思イ出スヨー」
笑いを止め真顔になった少女は、ブーメランで横から斬りつける。
『!!』
剣を持たれたままのサユは思わず足を出して、サンシャの手を蹴飛ばす。
予期していない動きだったのか、簡単に剣が解放され後ろに下がる事が出来た。
ロープが長いおかげで、ルコリーに躓くこともない。
「ナヨー!ホントニミエナイカヨー?」
剣を放したサンシャに、色んな方向から幾重にも斬りつけるサユ。
しかし、サンシャはブーメランを振り回し全て防ぐ。
木に登ったモミジは、サユの援護にナイフを投げる。
モミジのナイフは、葉の形をした幅広の投げナイフだ。
それをサンシャは頭を振って頭突きで跳ね返す。
『無茶苦茶な魔法ね…』
ルコリーの視点から、その様子を見たサユが感嘆する。
「ほんと、無茶苦茶ね…」
ルコリーはしゃがみながらそれに同意する。
ルコリーに気づき笑うサンシャ。
「縄ツケテ、オ前、犬ノ真似カヨー?」
「ちっ、違うわ!」
「モミジノ武器ハ尖ッテナイカラ好キダヨー!」
ルコリーの怒りを無視して、モミジの方へ恐るべき跳躍力で高くジャンプする。
少女は会話が成立しているかどうかさえ分からない程、自由奔放に行動する。
モミジのナイフも当然尖っているが、この場合細長い武器が嫌いだということだろう。
その好みは、彼女の母親に起因しているらしい。
それが分かったところで今は何の解決にもならないが。
『ルコリー、お願いナイフを拾って』
確かにまるで飼い犬みたいだ、とか口を尖らせ文句を垂れながら周りに落ちている数本のナイフを拾う。
『貸して』
拾ったナイフを受け取ると、サユはナイフ同士を叩き合わせ打ち鳴らした。
すると、すぐにモミジが近くに降りてきて、
「すまんな」
ナイフを受け取ると再び高くジャンプをする。
「武器を拾いながら戦うなんて、案外不便ねー」
『追います』
「えー、あの子不死身で無敵じゃない。
逃げた方がいいじゃない」
『いつまでも、モミジさんに任せてばかりいる訳にはいかないです。
それに一人で来てる今のうちに叩いておきたいです』
「えー、どうやっても無理じゃ…」
サユがロープを引っ張る。
『ルコリー、ゴー!』
「犬扱いするなー!」
2人が戦う音を頼りに追いかける。
サンシャは野生児そのものだ。
木から木へ器用に飛び移り、下にはほとんど降りてこない。
モミジも木を利用するが、半分は地上に降りて走る。
時々、迷彩の魔法で隠れる。
その時サンシャは一度見失うようだが、すぐにモミジを見つけ攻撃をする。
感が鋭いのか、視力が超絶に良いのか。
稀に地上に降りてくる時を狙ってサユが斬りつける。
「ジャマナヨー」
大きな目を見開いてサユの剣を体で受け止めたり、ブーメランで適当にあしらうとすぐにジャンプをして木の上へ逃してしまう。
昼が近くなっても、霧は薄くなるが晴れなかった。
空は厚い雲に覆われている。
10回以上サンシャに軽くあしらわれたサユだが、それでも機会を伺っては斬りつける。
「シツコイヨー、ジャマダカラ斬ルヨー!」
剣捌きの素早さには自信があるサユだが、サンシャも同等の速さで対応する。
無表情なサユと、目を見開き口が半開きのサンシャ。
刃を交わしあう2人は、前進も後退もない。
同じ場所で、得物を振りあって火花を散らす。
突然、手でサユの剣を素手で受け止めるとブーメランを頭上で回す。
頭上から急襲したモミジの8本のナイフのうち、5本をブーメランが、3本を体で跳ね返す。
「8ポンモドウジニ投ゲルナンテスゴイヨー!」
目を輝かして見開き、笑顔で上を見上げジャンプの姿勢に入る。
もうサユの存在は忘れたようだ。
それでも構わずサユは剣を振る。
サワッと毛皮を斬った。
同時に、少し肉を斬った感覚があった。
剣が入ったのか?
サユは確かめたいと思い、ルコリーの視覚を魔法で借りる。
頭に浮かんだイメージは、視界一杯の落ち葉だった。
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…もう無理、走れない…」
ルコリーは犬のように四つん這いになって、バテていた。
今の奮戦は見ていなかったらしい。
「ヤメロヨー、サユ、イタイナヨー」
声と同時に目の前に誰かが立ちふさがり、鈍い金属音がする。
目前で跳ね返され、木に当たりながら飛んでいくものがブーメランだと気づく。
「ブーメランに気をつけろ。
お前はジャンプしてる相手の動きは読めないんだから」
そう言って短剣を構え目の前に立つモミジに、サユが触れる。
『ありがとうございます。
あ、サンシャは!?』
「見た、足が少し切れたな。
不死身ではないがやはり難しいわね。
無理はするな、それとナイフ拾っといて」
自身も数本ナイフを拾い、再びサンシャに向かってジャンプする。
「ハァ…ハァ…ご、ごめん見てなくて。もう疲れて」
『そうね、少し休みましょう』
サンシャを走り追いかけるのに、魔法でルコリーの視覚を借り続けていた。
その為、サユもかなり疲労していた。
座り込む2人。




