第18話 ~再戦~ #3
**************
陽が落ち、夜の帳が下りる。
「いいいいいっいいいいいいいいいいいいいいっ痛っっっ!」
ランプの灯りの中、マフラーに噛みつき、フィアが涙を浮かべて我慢をしている。
「違うからな、医者と。素人だからな俺、我慢しろ」
縫合用の針と糸で、フィアの手の傷を縫うオレギン。
「こんな事になったのもサンシャ、全部お前のせいだ!
お前は勝手な事ばかりして!」
「ヨー?」
「じゃあ、サンシャがサユを片付ければよかったのか?」
ドズがフィアに訊く。
「ダメだ!サユちゃんは私が倒す!
そして私の下僕にする!
私がいないとダメな体にしてやる!!」
「肉ウマイヨー。フィアモ食ベルトイイナヨー。キズ早ク治ルヨー」
サンシャはフィアの怒りを聞き流して、大きな目を見開いて肉にかぶりつく。
オレギン達は野営している。
テントは大きくて立派なものが、二つ並ぶ。
その一つに4人が集まっているが、ドズが大きいので狭く感じる。
こちらは、荷運び用の馬が2頭いるので、荷物が多くても困らない。
大きな荷物の一つ、フィアの義手装備は今日失ってしまったが。
フィアに魔法の傷用テープを巻くオレギンに、ドズが提案する。
「夜襲してはどうか。夜ならあるいは…」
「備えてる、夜襲に向こうも。
戦う者なら当然」
「しかしサンシャはモミジだけ狙って仕事の事は頭にない。
俺達は被害が大きく…」
「子供だぞ、確か16。
手こずるか、大人2人がそれに」
オレギンの言葉に返す言葉を失ったドズ。
そこへフィアが割り込む。
「サユちゃんは戦う度に強くなっている。
今日のサユちゃんは怖かった、でもそれがまた素敵だった。
もっと、好きになった。
こんなに人を好きになったのは初めてかも」
赤面しながら、真顔で話すフィア。
「荷物にあるあの奇妙な形の武器はオレギン、お前のだろう。
どうしてお前は戦わない」
フィアを無視して再びドズが口を開く。
「言ったぞ、前に。人集めと連絡係、俺はな」
オレギンの言葉に、ドズは目を細める。
「どうもお前は信用できんな。
命をかけて戦ってる俺達で遊んでるように見える」
「払うぞ、ちゃんと報酬は。いらない、信用は。
欲しいのは結果だ」
再び男2人の会話に割り込むフィア。
「ん、オレギンの言う通りだ。
だからお前は自分の仕事をして、人をもっと集めろ」
オレギンが立ち上がり、手を振りながらテントの入り口を開ける。
「わかった、わかった。だがいないんだ、
あと知り合いでお前ら程強いのが」
手の長い男は、闇の中へ消えた。
「ミンナ食ベナイカヨー。肉全部サンシャガ食ベルヨー」
**************
「痛いっ…いやっ…ひっいやああああ」
「うるさい、ルコリー。痛いのはお前じゃないだろう」
サユの太腿の傷を縫合していたモミジは、目の笑ってない笑顔でルコリーに注意する。
サユは顔をしかめて、痛みに耐えている。
こんな時は、ルコリーのように声が出せるといいな、と思うサユ。
少しは楽になるかもしれない。
「前の腹の傷より全然マシだ。テープ巻いてたらそのうち治る」
傭兵に縫合用の針と糸は必需品だ。
だが所詮素人の施術。
モミジは軽く言うが、早く医者に診てもらう方が良いに決まっている。
『すいません、サンシャと戦って疲れているのに』
サユがモミジを気遣う。
「気にするな。私は逃げて隠れてばかりだから、かすり傷ぐらいで済んでる。
しかし、本当にあのガキ、刃物がまったく通用しないな」
横になるモミジ。
「すまん、もう寝る。獣除けと夜襲の備えのテグスはもう周りに張った。
だから火を消してお前らも…」
最後は、声が小さくなりモミジは眠りに落ちた。
………
「ねえ」
『何?』
「やっぱり今日もこうして寝るの?」
『逃げる時に毛布失くしました』
「ワザとじゃないの、こうして寝るために」
一つの寝袋で2人で寝てる。サユはルコリーの胸に顔を埋める。
『いいの、いいの』
「良くないわよ!」
軽く後頭部にチョップを入れるルコリー。
『いいの、いいの…』
眠そうに答えるサユ。
「もう……」
いつも凛と構えてるサユだが、この時間だけは甘えた子供のようになる。
それが何となく可笑しく思えた。
こうして寝るのが当たり前のようになってきているように思える。
『ねぇ』
「何よ」
『汗臭い』
「あなたもよ!イヤなら離れろー」
顔を押して離そうとするが、強く抱きついて離れない。
「もう、ほんとに何なのよ、これ…」
16/30
正午になる頃だった。
ルコリーが地図を見て、半泣きで叫ぶ。
「道に迷ったぁぁぁぁ!」
フィアの義手さえ破ったサユ。
旅を続ける2人に更なる試練が待ち受ける。




