第18話 ~再戦~ #2
「来たわねー。
戦いはねぇサユちゃん、高いところに立った者の方が有利なのよぉぉぉっ!」
義手を足のように使い、半斧を地面に付き刺しながら降りてくるフィア。
『伏せろ、ルコリー』
ロープから伝わる視覚の視点が低くなる。
低い視点で狙い通りの所が斬れるか不安がある。
フィアは強い。
しかし、自分の長所と弱点を知らない事を今までの戦いで感じていた。
確かに3本の半斧が同時に襲うと、誰もが驚くだろう。
今までほぼそれだけで勝ててきたのかもしれない。
剣を抜き、シャフトを地面に突き立てる。
上段、というよりも両手で剣を担ぐような構えをするサユ。
『向かって左側の義手だけ見てくだ…そっちじゃなくてひ・だ・り!』
「わ、わかったわよ、ちょっと間違っただけで怒るなーー!
目を貸してあげてるんだから、ありがたく思いなさいよ!」
何故か話をするといつもケンカになるが、今はそれが不安を払ってくれた。
魔法を全開にして、フィアの動きを読み取る。
「サユちゃーーん、
そのキレイな体のラインを傷つけないように倒してあげるぅぅぅぅぅーーーっ」
泥を跳ねあげ、義手を足代わりに坂を下降し急襲するフィア。
剣を振り下ろすサユ。
しかし、敵には全く届いていない。
「アハハハハ、空振りよーっ。サユちゃんたらお茶目さん!」
恐るべき勢いでジャンプし、義手を跳ね上げるフィア。
フィアを斬ると見せかけて、両手で剣を前に構え左前に飛ぶサユ。
手を切り落とすつもりで、両手に持った半斧を横に薙いだフィアだったが、
大振りしてサユの太腿をかすめた。
「!!」
サユの剣は着地した義手の関節に刺突した。
人間で例えると肘にあたる部分に剣を差し込んだ。
元来、義手は歩行での使用を想定していない。
戦闘用の為に丈夫に造られてはいたが想定以上の負荷がかかっている中、
坂を下る勢いとサユの正確な刺突により更なる負荷が加わる。
結果、関節を止めていた部品がはじけ飛んだ。
半斧を持ったままの義手の前腕部分が外れ、ルコリーの側に突き刺さった。
「にゃあああっ!」
素っ頓狂な大声を出して飛びのくルコリー。
「ぶっぶぶっぶぶぶぶぶーーーっ」
片方の義手を失って着地に失敗したフィアは、奇妙な声を上げながら坂の下へ転がって行く。
着地を考えてなかったサユは、荒れた地面の上に無様にボテッと落ちる。
「ちょ、大丈夫サユ!」
『下に下ります、付いて来て!』
すぐに立ち上がったサユは、坂を下りる。
身体はおろか無表情なその顔は、目隠しまで泥が付いている。
サユの勢いに転びそうになりながら、付いていくルコリー。
サユの来襲に気が付いたフィアはすぐ立ち上がり、戦闘態勢に入る。
しかし、体のバランスが安定せずフラついて初めて、右の義手を失った事に気が付いた。
そこへサユの剣のラッシュが襲う。
残った左の義手を防御に使う。
手に持った半斧でも防御するがバランスが取れなくてフラつく。
手を切りつけられるフィア。
切り落とされてもおかしくはなかった勢いだったが、フィアも手練れである、危険を感じて身を引いていた。
『お前の弱点はそのバランスだ!
それさえ上手く制御出来ればもっと強くなれたろうに!』
サユの剣を通して、声が聞こえる。
「ひぃぃぃっ」
フラつく体で、無表情のサユの猛攻を受けていたフィアは恐怖した。
防御している左義手も切り刻まれてボロボロになっていた。
「うわあああああああああああ!」
サユの勢いに押されて腕から血を流して、畏怖の声を上げたフィアは予想外の行動に出る。
左義手をひっつかみ、振り回して背負った義手のパーツ全てをサユにぶつけた。
『!!』
剣で受け止めたサユだが、フィアはバックパック部分を盾にして押してきた。
「にゃあああああああっ!」
後退したサユはしゃがんでいたルコリーに躓いて、盛大にこける。
「せっかく勝ってたのに、なんか決まらないわねー」
身体に付いた泥を払いながら、走って逃げ去るフィアの背中を見ながらルコリーが呟く。
『そう簡単に勝たせてくれる相手じゃないです。それより手伝ってください』
「何してんのよ?」
『修理不可能にする為、残った義手も折ります。
2人で体重をかければいけると思います』
「それよりさー、取れた義手が私に刺さる可能性は考えていた?」
明後日の方向に顔を向けるサユ。
『あなたの無駄な脂肪の重さなら、簡単に折れます』
「考えてなかったでしょー!それと無駄な脂肪なんてないわーーっっ!!」




