第17話 ~追撃~ #1
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フィアの3本の斧と、ドズの大きな鎚が迫る。
左足にくっついて離れないルコリー。
自由になるのは右足だけで、前にも後ろにも動けない。
だが、心強い味方がいる。
ルコリーが目をしっかり開けて迫る2人を見守る。
サユは魔法を全開にした。
フィアとの長い斬りあいの中で、かなり体力と魔法を消耗していた。
だが何故だろう、今はそんな事は気にならなかった。
左足のふくらはぎに当たる、大きくて丸く柔らかい物体に何故か安心していた。
私はいつからこんなに師匠クラスの変態になったんだろう、とサユは思う。
女なのに女性の胸について熱く語る、我が尊敬する師匠を気持ち悪いと思っていた。
師匠は小さな胸こそロマンである、と常に言っていた。
今度帰ったら、それを否定しよう。
そう、この場を生き残れたら。
前方、上段からの手持ちの半斧。
右手、上段から打ち下ろされる鎚。
前方、魔使石で動く義手の半斧2本の順。
全開にした魔法でそこまで読み取れた。
その順番でほぼ同時にサユを攻撃する。
いつもなら考えて動く。
しかしそんな時間は無かった。
サユは体が動くのに任せた。
交差させて組んでいた手を前に出す。
正面から剣と鞘である白杖のシャフトをクロスさせ半斧を防ぐ。
と、見せかけて左手のシャフトを右に傾けて突出し、半斧を右へ受け流した。
右手の剣は半斧の衝撃を受けつつ、左側から右へと力を加えて受け流しを手伝う。
シャフトからあがる火花が熱い。
フィアは昨日何度も披露した受け流しを見ていない。
『っっっ!!!』
強い衝撃と轟音と共に、身体を後ろに退く。
右に流れた半斧は、振り下ろされた鎚の餌食となった。
「いってぇぇーっ!」
鎚の衝撃をまともに受け、フィアが半斧を取り落とした。
ドズの鎚は半斧により角度を変えられ、サユの右横の地面に打ち込まれた。
面白い事に3人とも体のバランスを崩していた。
魔法でいち早くそれを感じ取れたサユが先に体勢を立て直す。
『っっっっっっ!!!』
右足を上げてフィアに正面から蹴りを入れる。
フィアが吹き飛ぶ。
サユを狙っていた義手の2本の半斧が、肩をかすめて離れていった。
ドズが体勢を立て直し、鎚を横に地面すれすれに振る。
ルコリーとサユ同時に潰す攻撃に出た。
魔法でさらに周辺を探る。
落ちた半斧が、柄をこちらに向けて鎚の開けた穴の端で横たわっていた。
『っっっっっっっっっー!!!』
上げた右足を半斧の柄に落とすと、それはドズの方向へ飛んでいく。
「うおっ!」
再度ドズが半斧を避ける為、体のバランスを崩す。
鎚の先が鼻先をかすめていった。
鎚の勢いを制御できず、ドズは体勢を立て直せずに無様に地面に倒れた。
サユは剣で刺突を繰り出したが、急いで転がっていく男のわき腹をかすめるだけに止まった。
右足に硬いものが当たる。
鎚の柄だ。
得物の鎚を投げ出して逃げたらしい。
全ては一瞬の出来事だった。
ドズとフィアはお腹を押さえ膝立ちになる。
「ゲフッ、サユちゃんのお仕置きもなかなかゲフッ、効くわゲホゲホゲホッ……」
「え、私が言うの?」
ルコリーに今から思う事を2人に伝えて欲しいと頼むと、サユの足にしがみつく力を緩めてそう聞いてきた。
その方が手っ取り早い、と伝えると左足を動かしてせっつかせる。
「えーと、自分の得物を投げ捨てるなんて、勇ましいのは図体だけね。
…それとフィア、サユちゃんと呼ぶな気持ち悪い」
「ぐぬぅ」
「サユちゃーん、放すなら私と直接話してよー」
フィアを無視して、サユは思いを伝える。
「えー、おしっこ臭い女だけど…うるさいわね!
…必死に生きようとしているコイツを…
え、お前らには…ぜっだい渡ざない…がら…」
最後の方は、ルコリーが涙に詰まりつっかえながら話す。
サユの足にしがみついて号泣する。
体を密着させるから、左足が彼女の色々なもので濡れて困る。
右足で鎚を踏みながら、サユはゆっくり剣を構え直した。
大きな打撃を何度も受けているせいで両手が痛い。
それより体力と魔力の使い過ぎで、身体が重い。
「ムカつくわ、ムカつくわね。
私だってサユちゃんの足にしがみついて、頬ずりしたいのにその女ばかり独占して!
いいわ、いいわよ!
ついサユちゃんに構いたくなるけど、こっちはその太い女さえ倒せばいいんだから。」
「太ぐないっっ!!」
涙声でもそこだけはきっちり反論するルコリー。
「初めからそうしてくれ、フィア。
そうすれば俺も鎚を落とす事もなかったのに」
「うるさい、私のせいにするな。
私が攻撃する間に鎚を取れ!
今の超人的な反応、かなり魔力を消耗したはずよ。
このまま長引けばサユちゃんは…」
「ハラヘッタヨー!」
木を利用して、黙々とモミジと戦っていたサンシャが突然叫んだ。
「ハラヘッタナヨー!サンシャカエルヨー!」
木々を飛び移り、この場から離れていくサンシャ。
「なっ?」
「ええっ?」
ドズとフィアは同時に驚きの声を上げる。
「困ったもんだ、お子様だからな、まだ。
帰るぞ、俺達も。フィア、ドズ」
オレギンがニヤニヤ笑いながら、どこからともなくノッソリ出てきて指示する。
サンシャの撤退に一番驚いたのは、サンシャの味方達だ。
「待て、オレギン。まだ決着が…」
フィアが抗議の声を上げる。
「戦うか?狙われるぞ、背中、モミジに。その状態で?」
「お前がモミジの相手しろよ」
「いやいや、だから、俺は…」
フィアの言葉にオレギンが答える間に、赤い鎧の女と大男は林の中に消えた。
飛来した3本のナイフを余裕で避けるオレギン。
「ごきげんよう、お嬢様方」
ニヤリと笑いそう言うと、正装の男も林の中に消えた。
「撤退するほうが余裕があるなんて、シャクな話ね。
大丈夫、サユ?
立ってるのがやっとって感じだけど」
木から降りてきたモミジはそう聞くと、特に返事を待つ事も無く一本ずつ残った半斧と鎚を林の奥に放り投げた。
「さて、荷物を拾って私達もさっさとここをずらかるぞ」
気が付くと村人か旅人か、数人が遠くからこちらを伺う気配がある。
これ以上剣を振り回していたら、近くの城国の兵に注進されかねない。
3人は急いでこの場を退散した。




