第14話 ~激突~ #1
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「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!
なんで誰もいないのよ、ばかーーーーーっ!」
モミジの後ろの林の茂みからルコリーが顔を出す。
早朝の河原一帯に、その大声を響かせた。
ドズが見つけられなかった、サユとモミジが死んだと思っていたその人物が現れた。
「あらー、生きてたの。意外としぶといのね」
モミジがいつもの笑顔で、楽しそうに言う。
一瞬複雑な顔をしたサユは無表情に戻り、剣を抜き放つ。
ドズが胸の装甲に装着されている顔当てを上げると、静かに得物を構えた。
「えっ?えっ?」
状況がよく分かってないルコリーが、ドズとサユを交互に見る。
そんな彼女をモミジがひっぱる。
ドズが大きな鎚を持ち上げると、小石や砂の多い河原へ振り落とす。
ドッと大きな音と振動がサユが襲うと、ドズとサユを結ぶ一直線上の地面がえぐれていく。
『!!!』
2人の間には随分距離があったが、サユは土や砂や石と一緒に持ち上げられ、そして落された。
バランスを崩しそうになりながらも、着地したサユ。
壊されていない場所を探して河の方へ摺り足で歩いていくが、次々とドズが魔法を放つ。
地面を壊されサユがバランスを崩す度に、ドズが大股に近づいていく。
バランスを崩したサユに、ドズが鎚を持ち上げる。
「うぬっ」
ドズが短く唸ると、鎚を持ち上げたまま器用に柄を動かす。
モミジのナイフを2本防いだが、1本は右腕に刺さる。
ドズは林へ視線を移す。
しかしルコリーと一緒に迷彩の布を被った2人を見つけられなかった。
「うがあああああああああああああ
落鎚崩山
震・世・界 (らくついほうざん しんせかい)ぃぃぃぃっ!」
大きな咆哮とともに鎚を地面に振り落すドズ。
今までの直線的な魔法の放出と違い、辺り一帯の林の草や木や土が浮き上がる。
足元の地面を崩されたモミジが転んで、布から姿を現した。
「なるほど、それがお前の魔法か」
ドズの顔当ての中でくぐもった呟きが聞こえる。
「すごいわね。
よくもこんなにサユが苦手そうな相手ばかり選んでこれたわね。
感心するわ」
笑顔だが鋭い眼光を放つ目をドズに向けて、モミジは素直な感想を述べた。
狐の面をテントに置いてきたモミジは、迷彩で隠れながらの戦闘が出来ず姿を現したまま投げナイフを構えた。
足元には、迷彩の布を被ったルコリーが震えてうずくまっている。
今の一撃で、林や河原やその浅瀬と広い範囲で地面が破壊された。
崩れ荒らされた土に川の水が侵入してくる。
足元がぬかるんでいく。
サユは立ち上がると、足元を踏みならした。
ドズは右腕に刺さったナイフを抜いて放り投げ、歩みを続ける。
荒れた地面に突き刺さるナイフ。
モミジのナイフは幅広な葉っぱのような形をしており、通常のナイフよりも刺さった時に傷口が広くなる。
ドズの腕に血の筋が走るが、気にする様子を見せなかった。
姿を見せたモミジを警戒しながら、サユに向き合った。
「ん!?
顔がアザだらけだな。
フィアの斧とどう戦ったらそうなる!?」
顔当ての中から驚嘆の声が漏れた。
敵の仲間割れなど知る由もないのだから、当然の反応である。
驚きながらも、ドズが鎚を持ち上げた。
既に鎚が届く範囲に、サユはいた。
「潰れろ!」
ドズが低い声で叫ぶ。
渾身の力を込めた鎚が、上段に剣を構えたサユに振り下ろされた。
この後、剣と一緒に頭を砕かれた少女が吹っ飛ぶのを見る事になる。
裏の仕事を引き受けた時からいつも見る風景である。
10年前の戦争で徴兵され、自分の魔法が敵武将と互角以上に渡り合える事を知った。
魔法の為に兵農分離が当然の世の中で、一般人が戦闘特化の魔法を持つ将と戦って勝つことはかなり難しい。
戦闘の素質もある自分を知ったドズは、戦後になると裏の仕事も受けるようになった。
普段は家族思いの、土木事業に励む父親。
全ては妻と娘の幸せの為。
戦争が善悪を考える心を潰してしまった、と言われればそうかもしれない。
傭兵になるかならないかの差は、人を殺すことに抵抗があるか無いかの差かもしれない。
ただ、ターゲットを倒すだけだ。
そこに善も悪もない。
だが今度の仕事はあまり良く思っていない。
ターゲットとその護衛が、娘と同じ幼い少女である事である。
鋭い感覚が腕に伝わると、鎚が火花を散らしながら思いもしない方向に落ちた。
サユは上段の構えから切っ先を横に下げて、その剣を左手のシャフトで支えていた。
「ぬうううっ!」
攻撃が上手く受け流された事を知ると同時に、自分が無防備に敵に体を晒している事を知る。
慌てて後ろを下がろうとして、ぬかるんだ地面に足を滑らせ転んだ。
結果、サユの上段からの切り下げを紙一重でかわす僥倖を得た。
剣の追撃を振り切るため鎚を抱いて右へ転がると、それを支えとして立ち上がりサユの左側へ回り込む。
今度は水平に鎚を振ると、サユはシャフトとクロスして構えた剣を微妙な角度で鎚に当て、鎚の角度を変えた。
そして剣を鎚の側面に滑らせ、そこから抑え込んで鎚を地面にめり込ませた。




