第13話 ~我儘~ #2
サユがテントの中に入ると、すすり泣きが聞こえる。
右手の杖で探って奥に入ると柔らかいものに触れた。
左手で探ると、寝袋にくるまったルコリーだった。
「触らないでよっ!」
ルコリーが振り払う。
「もうやだもうやだもうやだ、帰りたい、帰りたい…」
再開されるすすり泣き。
触るなと言われ、杖をルコリーの体に触れさせるサユ。
『敵を幾人か斬れば、警戒して手を出すのを控えると思っていました。
いくつの家がこの相続問題に関わってきているのか知りませんが、
まさか用意周到に、これだけの手練れを集めるなんて、
考えてなかった甘さがあったのは謝ります』
鼻をすするルコリー。
『あなたをタウチットへ帰す為の努力は惜しみません。
いえ必ず連れて行きます。
とにかく今は、食べて休みましょう。
ほら、馬車にあった牛の干し肉。
これなら食べれるでしょう』
干し肉を差し出すサユ。
それがルコリーのどこかに当たった。
「いやあっ、気持ち悪いっ!」
はね除けられた肉は、どこかに飛びテントに当たって落ちた。
「もういやっアンタ達も何もかもっ!いいからもうほっといて!」
さらに寝袋に丸まるルコリー。
その後ろにサユが抱きつく。
手探りでルコリーの顔の位置を確かめ、寝袋から引っ張り出す。
そして手を挙げて叩き始めた。
「痛っ痛っイタイイタイ!」
目が見えないサユは、頬や唇や鼻や頭やおかまいなしに引っ叩く。
『食べ物を粗末にするな!
食べられる時にちゃんと食べろ!
ワガママはいくらでも聞いてやる。
でもモミジさんには文句を言うな。
あの人には無理をお願いして付き合ってもらってるんだ。
モミジさんには謝れ!』
身体が密着しているせいか、サユの心の声が大きく聞こえる。
ルコリーの体の中は、サユの声が反響して一杯になる。
鼓膜はおろか、皮膚まで震えて破裂しそうに感じる。
平手を唇に喰らって、口の中に血の味が広がる。
もがいてサユの手の内から這い出て、サユと向き合うルコリー。
ヤケクソで放った平手がサユの左頬にヒットする。
サユが掴みかかった。ルコリーも負けじと掴みかかる。
お互いもつれあい、殴りあう。
組み合ったまま支柱にあたり、テントが倒れて布が覆いかぶさる。
それでもおかまいなく2人は激しく殴り合い転がる。
「アンタなんか!アンタのせいで!」
サユの声が体中に響き渡る。
興奮して何を言ってるのかわからないが普段とは違い、汚い言葉で罵られているのは判る。
「うるさい!だまれぇ!!」
疲れたところを見計らって、2人を引き剥がすモミジ。
いつもの笑顔はない。
「サユのケガの様子を見るわ。
ルコリーはテントを立てて寝てろ。
…待てどこへ行く」
倒れたテントの中でゴソゴソと何かをして、そこから這い出ると毛布を持って、
どこかへ歩き出したルコリーをモミジは止めた。
振り返ったルコリーは、キレイなピンク色の巻き髪はぐちゃぐちゃに乱れ、
顔はアザだらけで鼻血を流している。
「馬車で寝る。アンタ達の側に居たくない!」
そう言うと闇の中へ走り出した。
「あーあ、敵に見つかった時のブラフに入ってどうすんのよ。
まあ、いいわ勝手にすれば」
『ごめんなさい、モミジさん』
モミジの腕の中にいるサユの声が伝わる。
こちらも同じく鼻血を流し、アザだらけの顔をしかめて悔しそうだ。
泣きそうにも見える。
そういえば、と思い出すモミジ。
目が見えてた幼少時にはよく泣いたサユだが、目が見えなくなってからは泣いたところを見たことがない。
「最悪の結果だけど、手加減して殴った事と杖を使わなかった事は評価してあげるわ」




