第13話 ~我儘~ #1
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「はぁ、また野宿させる気!?」
大声で反論出来る程には、馬車の中で回復したルコリー。
「しょうがないでしょ、サユがあの調子だし」
笑顔のモミジが指をさす。
その先には、倒木の上で伸びているサユがいた。
白いアオザイを着て、毛布をかけて寝ているサユの手と胸は、魔法の傷用テープが巻かれている。
夕方に青い顔をして寝ころんだまま動こうとしない。
アーマースーツは脱がされていた。
「サユは無視して、このまま馬車で逃げ切った方が絶対安全じゃない」
「ひどい事言うわねー。
敵もバカじゃないから馬ぐらい用意してすぐに追いつかれるわよ。
そうなったらあなた、どうする?」
モミジの笑顔の質問にルコリーは答える。
「モミジさんが戦えば…」
「私は後方支援専門。
誰かが前に出て戦ってくれないとあなたを守れないでしょー」
ルコリーの言葉を途中で遮ったモミジに、口を尖らせて呟く。
「今日も護衛できてなかったじゃん」
サユの世話やテントや焚火の用意と、
忙しく動いていたモミジが真顔になる。
「そんなとこ座ってないで、お前も手伝えよ」
「ここじゃなくて、馬車で泊まればいいじゃん」
さらに口を尖らせて、ルコリーがぼやく。
モミジが御者となって馬車で北東に進み、夕方にロチ河という大きな河と、
シーベケン城国へ向かう街道にでた。
街道を東に進み橋を渡ると、さらに東のボロクの町へと向かう街道を離れる。
橋から西に移動すると馬車を降りて、川沿いの林に野営した。
馬車の中にはそれほど荷物は無く、持ち出したのは保存食や毛布ぐらいである。
半斧や鎚の予備や色々な武器には用はなかった。
敵に関する情報、指示書や契約書のような物を探したが見つからなかった。
フィアやドズ達が、誰に雇われているのかまだわからない。
今、馬車は少し離れた場所に隠してある。
「まあ、やめた方がいいね。
それより料理ぐらい出来ない?
これ捌いてよ」
モミジはなにかの塊を放り投げ、ルコリーの前に落ちた。
深緑の中に白や青やオレンジの色が付いた、大きなカエルの死骸だった。
「ぎゃーーーーー!なにこれなにこれなにこれ!」
ジタバタと慌てふためき立ち上がったルコリーに、モミジが答える。
「何って、昨日美味しそうに食べてたじゃない。昨日の残りよ」
「うえぇぇぇぇっ!うぐっ…」
喉の奥から何かがせり上がったらしいルコリーは、必死で飲み込んだ。
「信じられない!
考えられない!
耐えられない!
もういやっ、もうたくさん!
こんな野蛮な生活なんて出来るわけないじゃないーーーーーー!」
手を振り回し、足で地団駄を踏みながら叫ぶとルコリーはテントに向かった。
乱暴にテントの入り口を開けると、振り返った。
左右の大きなピンクの巻き髪が、ブリンッと揺れる。
「アンタ達はクビよ!
近くの町に寄って私は御者を探すわ。
それぐらいのお金、持っているんでしょ!
貸しでいいから渡しなさい!!」
ルコリーはモミジの返事を聞かずに、テントに入っていった。
細い眉を寄せて、真顔になったモミジは舌打ちをする。
サユが起き上がり、杖を突いて歩く。
杖が焚火に突っ込むところをモミジが掴み止める。
『また、ワガママ炸裂ですか』
サユが杖とそれを掴んだモミジの腕を伝い魔法で話しかける。
モミジが杖を2回指ではじく。
考えを読み取れという合図だ。
『お嬢様なのはいいけど、あれはもううんざりよ。
もうここに放って行きたいわね』
杖から手を放すと、カエルを手際よく捌いていく。
モミジの側にしゃがみこんで、サユはその肩に手を置く。
『私もうんざりです』
サユの手に自分の手を重ねるモミジ。
『お前が大人になって一人前に商売をするには、
客を安心させ信頼させるのも仕事だ。
ルコリーはお荷物かもしれないが、一応客だ』
モミジは一度言葉を切って、短く息を吐く。
『お前はこの仕事を成功させて、師匠に一人前と認めさせたいんだろ。
剣の腕は師匠も認める程、お前は一流だ。
だけど人を守るにはハンデが多すぎる。
お前が辛いのは知っている。
でも、ルコリーが不安になる気持ちも分かる。
ここで諦めるのは簡単だが、まだ出来る事はいくらでもある。
お前が考えて、そして全てお前が決めろ』
サユは頷く。
『元より諦めるつもりはありません』
サユは立ち上がる。
フィアとの戦いの痛みに少し顔を歪めた。
「ああ、干し肉を持って行け。
お嬢様はお腹を減らしていらっしゃるだろう」




