第12話 ~対決~ #3
サユだった。
フィアとルコリー、お互いを注視していた2人は、サユが立ち上がり走ってきたのに気づかなかった。
ルコリーが泣き叫ぶ声が、サユが進むべき方向を教えてくれていた。
フィアはターゲットを変えたのか。
痛みを堪えて立ち上がるサユ。
義手の殴打の直撃を受けたアーマースーツのプレートは粉々に砕かれていたが、骨折がないのを確かめた。
右手に紐でぶら下がった剣がある。
シャフトも左手の中にある。
よし、いける。
足をあまり上げないよう、音を立てないよう腰を落として走り出す。
だらりと下げた手に、剣とシャフトを軽く持つ。
師匠と山に入っては、何度こうして獣を追い回していたか。
「私のボディガードでしょー、ボケーー!死んだら呪って出てやるぅーーーーっっ」
声の方に真っ直ぐ走る。
前方に放つ魔法の範囲に、フィアの動きを感じ取った。
剣とシャフトをクロスに構え、フィアがいると思われる場所に飛び込む。
剣は最初、皮のベルトに当たり次にわき腹に食い込む感触があった。
地面に倒れこむ2人。
「アハハハ私に飛び込んで来るなんて、なかなか情熱的ねサユちゃん」
言動は変な女だが、戦闘の手練れなのは間違いない。
サユより素早く立ち上がると、フィアは即座に半斧を振り下ろす動作に入っていた。
だが声を出してくれる相手は大変助かる。
片膝をついて身体を起すと、声のする方向に再び飛び込む。
膝から下を掴むことが出来た。
中腰になり体をを半回転して相手の太ももの下に入ると、その下腿を担ぎ上げて投げた。
「ぶべっ!!」
体勢や声から判断すると、相手は顔から地面に突っ込んだらしい。
屈することなく立ち上がろうとするフィアの手を掴めた。
足払いをしてさらに転ばせる。
「ぐへっ!!」
その声を聞いて、サユは昨日川で獲った獲物を思い出す。
さすがに3度も投げられてくれないだろうと思い、右手にぶら下がった剣を取ろうと探る。
相手の手を取った時に投げずに折ればよかったなと考えた時、鈍い金属音が響いた。
「くそっ、ナイフの女か!
サユちゃんとの体と体を張った交流を邪魔するなんて本当に無粋な女ね」
フィアが叫んだ後にすぐ、 今度は甲高い金属音。
半斧でナイフを払った音のようだ。
フィアの足音が遠ざかる。
その最中にも3度の金属音。
『終わったか……』
モミジが落ちたナイフを拾う音を聞いて、サユは身体の緊張を解く。
どこからともなく現れて、布を体に巻き直すモミジがいる。
布を風流な模様に色を変えて、ナイフを拾いながら歩いてきた。
「大丈夫2人とも。
悪いわね、また遅れを取ってしまったわ」
サユの肩に手を置いて立ち止まるモミジ。何か会話をしてるのだろうか。
「ふふっ、
サユがアイツをあんまり転ばせるから、顔を狙ったナイフが兜に当たったわ」
「遅いわよ、モミジさん。私の護衛って言ってたじゃない」
鼻をすすりながら、か細い声で抗議するルコリー。
サユが敵を投げた時に涙は止まり、既に乾いていた。
「はいはい、ごめん。あなたまた漏らしてないわよね」
笑顔のモミジの言葉に短い眉をしかめて、無言で抗議する。
危なかったけど、今回は大丈夫だ。
周りを見渡したモミジは言う。
「あの馬車使えるわね」
フィアが使っていたものだ。
苦労の末ルコリーの希望通り、馬車が使える事となった。
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遠ざかる馬車を見ながら、フィアは呟く。
「サユちゃん、知れば知るほど素敵。
もっと身体で語り合いたかった…」
「それより、何故馬車を隠さなかったのか聞きたいのだが」
その声に顔を泥と傷だらけにしたフィアが振り向く。
兜の狼の顔にナイフが刺さっているが、頭部からの出血は無い。
不満顔のドズが歩いてきていた。
正午前の陽光の中、強い風が吹き抜ける。
低木の枝に引っ掛かっていた長いマフラーが大きくたなびいた。
かろうじてフィアの攻撃をかわし逃げたサユ達。
次回、深くなる夜の中で最大の試練が訪れる。
サユ・ルコリーの2人の旅に黒雲が立ち込める。




