第11話 ~野営~ #1
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「心はどこにあると思う。形があるのかしらね」
「んん?」
フィアのいきなりの質問に面食らうドズ。
ウーノスの応急処置をして、ある家に引き渡すと夜になった。
原っぱで野営中、食事が終わってすぐの事。
オレギンには色々コネクションがあるらしい。
連絡役に指定されていた家に行くと、普通の農家の家庭があり驚かされた。
オレギンの名前を出すと渋い顔をされたが。
生死はどうなるかわからないが、すぐ医者を呼んでくる旨を約束してくれた。
ウーノスは自分の魔法で止血をしていた。
意識が朦朧とした状態で魔法を使える人間はいない、とフィアは思っていたが生きようとする本能がそうさせたのだろうか。
傷口に血のゼリーが蠢いていて見た目が不気味だったが、確かにそれは出血を止めていた。
焚火の向こうには、馬車と馬3頭が草を食んでいる。
この世界の馬はロバと同じ大きさだが、その違いは、馬は足が太く馬力があり足にフサフサした毛が生えている。
「考えた事はないが…頭とか胸ではないか?」
強面をさらに渋く眉を寄せて、考えながらドズが答えた。
この男は根が真面目なようだ、とフィアは考える。
魔法から考えると、元は鉱夫か土木の仕事を生業としていた者だろう。
嫁がいると昨晩は言っていた。
家庭も持って普通に暮らしていたが、何か理由があって傭兵の仕事に手を染めたのだろう。
目の前の男の言動に、その日暮らしで飄々と生きてる傭兵や盗賊とは違う重みをフィアは感じていた。
「わからんな」
そう言うとドズは焚き火に、拾い集めた木片を放り込む。
勢いを増す灯りが、広いおでこと剃られた頭部を闇にくっきり浮かばせる。
「私もわからない。
でもわからないモノに魔法を使う」
マフラーを巻き直してフィアは言う。
寒いわけではない。
こうして首に何かを巻いていると落ち着いていられる。
「サユの事か」
「そうだ、サユちゃんだ。
ウーノスのたどり着いた答えを私なりに解釈したのだが、聞くか」
「おう」
ドズが肯定したので、フィアは話を続ける。
「無形の物に使える”特技魔法”など存在しない。
それを前提とするならサユの魔法は、
ヒトの骨や神経をモノとして扱ってる魔法なのではないか。」
ドズは顔をフィアの方に向けて、身じろぎもせず話を聞いている。
フィアは話を続ける。
「骨のわずかな動きや、
驚いた時の目の動きや発汗などの
わずかなヒトの変化を全部読み取っているんじゃないの。
サユちゃんが我々の剣を受けれるのも、
骨や神経の動きを先に魔法で読んでるのよ。
ウーノスが血を伝う魔法で、背中のナイフを知ったようにね」
「…いや、待て。
今日は糸や血があるからその説明は成り立つ。
しかし夜に襲った時は糸などなかったぞ。」
ドズが反論する。
それを予測していたかのようにフィアはニヤリと笑う。
マフラーを外すと、地面を叩く。
「地面よ、地面。
ここでみんなサユちゃんと繋がっていられるの!
大地に魔法を走らせて返ってくる反応を感じて、
それを分析して、
次に敵がどう動くかを考えてるの。
それを一瞬のうちにあのコは処理してるのよ!
なんて素晴らしい子猫ちゃんなのかしら!
なんて刺激的なコなのかしら!
今まで色んな女の子を愛したけど、こんなに興奮させてくれるコはいなかったわ!」
フィアは地面を叩きながら、よだれを流して興奮に身をよじっていた。
その動作に反応することなく、ドズは静かに焚火の様子を見て言葉を返す。
「…その考えが正しいとすると。
あの娘は化け物並みの魔法有効範囲と
魔力と反応速度を持っている事になる」
「そうよ!
そこが小憎らしくてかわいいところなのよぉ。
私が動けば動くほど、あのコは私に魔法を送ってくるのよ!
考えるだけで興奮するわあああ!」
フィアは興奮して地面を転げまわる。
「なるほど…戦ってる時は常に魔法を使っている状態ならば、
長引かせば疲れるだろうな。」
しばらく地面を転がっていたフィアだったが、興奮が収まると焚火の前に戻ってきた。
「明日はどうするのかしら?」
フィアが問う。
「奴らは森を抜けると、ここか東にある街道を通るだろう。
フィアがここを見張れ。
俺が街道を行く。
戦う必要はないぞ。
オレギンと合流するまであいつらの動きを見張るだけでいい」
「ええ、わかったわぁ」
フィアが笑顔でそう答えると、ドズが不安そうに顔を曇らせた。
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