第08話 ~宿屋~ #2
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どこかの部屋から、ギシギシドシドシとベッドが揺れる激しい音がする。
夜も更けてどこかの部屋のカップルが、盛り上がっていてもおかしくはない。
だがそのせいで宿屋の2階にあるこの部屋の雰囲気が、気まずいようなお互い恥ずかしい空気になっている。
「俺は呼んでくる、使えそうなやつを。
ウーノス、お前がまとめろ、俺がいない間」
手足が長く、猫背の男はそう言い残すと窓から飛び出していった。
部屋に残ったのは、若い男女と中年の体の大きな男。
二日前、サユを襲った3人だ。
この村に窓ガラスはない。
大きな男が木戸を閉めた。
「私を襲ったら、切り落とすからな」
微妙な空気を変えるように、マフラーをした女が言う。
「俺には愛する妻と娘がいる」
少し回りくどいが、低い声で誠実に答えたのは中年の男。
「悪くねーけど、あんま趣味じゃねーなおまえ。
まあわかったわかった、とりあえず今は仲間だしな」
マフラーの若い女、フィアにとって、
手足の長い男オレギンに雇われて集められて数日、
口数の多い若い男の言動にイラつかない日は無かった。
若い男、ウーノスは話を続ける。
「まんまと逃げられたなドズ、フィア。
俺様の邪魔をしなければ斬り刻んでやれたんだぜ。
しかし俺達が探し回ってる間に、先に村に入られるとはな。」
「オレギンの親父め、
先に宿に入って奴らの居場所を知ってたなら教えればいいものを。
俺様達に無駄骨折らせやがって、食えねえ野郎だ!」
ウーノスは粗末な木の机を蹴飛ばす。
哀れな机は一度浮き上がって着地、ギィギィと泣く。
オレギンが情報を持っていたとしても、他の3人は別行動で捜索。
それを伝える手段はない。
もし下手にオレギンが歩き回れば、ターゲットのルコリー達は警戒して行方をくらますだろう。
またターゲットを見失うならこの状態がベターだ、という事がわからないのはこの中でウーノスだけだろう。
「ここで暴れまわってもいいが、
どこかの城国のお尋ね者になるのはいやだろう。
ここいらなら、北のシーベケン城国か。
イェンセンの悪党、ガガン3兄弟みたいに有名人になりたきゃ別だがな。
奴ら、仲間割れで処理されて城門にさらし首、
体は鳥葬だってよ。ハハハ馬鹿な奴らだぜ」
長い話になると思ったのか、フィアはイスを引いて、ウーノスから少し距離を置いて座る。
「人前で斬りあえば即お尋ね者。
戦争が終わって傭兵には生きづらくなったな」
大きな体の男ドズがぼやく。
悪名は足が速い。
一度どこかの城国でお尋ね者になれば、周りの城国に知れ渡る。
ガガン3兄弟程に悪名高くなると、
イェンセン・シーベケンの両城国の兵に追い回される生活に慣れ、
時々城内に出没しては、街の中を堂々歩き回るような奴もいる。
山中でサユ達が斬った3人と逃げた一人も、イェンセンの外れで盗賊をやっていた者達だ。
もしサユが、3兄弟を含めた彼らを斬った事が知れ渡れば、同じ傭兵でも褒め称えられるだろう。
傭兵は正義の味方ではない。
金を積まれれば裏の仕事をする人間がいる。
今回の仕事も。
この世界、それぞれが自分を生かす場所を探し求めて、多くのコミュニティが作られる。
悪人や盗賊等も例外ではない。
その者たちに、悪事をする為に雇われる傭兵もいる。
それらの者たちから人々を守るために、村や町や城国に雇われる傭兵もいる。
サユやその師匠、ここにいる3人のように個人に請われて雇われる者もいる。
大きな戦争が終わって10年、小さな争いは絶えない。
その為に傭兵という仕事にまだまだ需要はある。
そして傭兵もまた、自分を生かす場所を探し求めている。
だが、大きな争いが無くなった現在では、武器を持って歩き回る彼らを良く思わない風潮もある。
ウーノスのように、仕事以外に趣味で人を殺すのを自慢する輩もいるからだ。
ここにいる3人はプロだ。
お尋ね者になるようなヘマはしないし、したくない。
ウーノスの話は続く。
「投げナイフの女は想定外だったが、こっちは3人だ。
とにかくピンク頭の女を殺ればいい。
それよりわからねぇのはあの白杖の女だ」
興味がなさそうにあらぬ方向を向いてたフィアが、ウーノスを見る。
「あいつ完全に目が見えねえって聞いてたぜ。
楽な仕事だと思ってたら、何故だ!
何故アイツは俺様の剣を受け流せた?」
「俺が足場を崩さなければ、2人の攻撃はほぼ防がれていたな」
ドズが応える。
「そうだ、そうなんだクソッ!クソッ!クソッ!何故だ!
あの女を切り崩せなければ、ピンクの女にたどりつけん!
何か裏が、カラクリがあるんだぜ!
この天才ウーノス様の剣が、
目の見えない女に防がれるなんていい笑いものだ!
気持ち悪いんだよ、このままだと!
なあお前らもそうだろう!?」
ウーノスの黒目が、神経質そうに激しく動き回る。
返答はなくても話を続ける。
「そこでだ、」
ウーノスの顔が暗い笑顔に歪む。
「俺様が罠を張る。
そしてあの目隠しのガキのトリックを暴く。
この村から北へ向かう道は一つだ。
途中の森で待ち受けるから、お前たちは奴らを誘導しろ」
「なんだ、偉そうに」
「待てフィア、オレギンはこいつに後を託した。
従ってやろう」
つっかかろうとするフィアをドズが止めた。
「黙って見てなよ、2人とも。
俺様の頭の出来がお前らと違うのを見せてやるぜ」
ここで会議はお開きとなった。
激しいベッドの音もいつしか止んでいた。
ベッドの音が目的の女2人の喧嘩だという事を、ウーノス達3人は知る由もなかった。
小さな村の一つ屋根の下、奇妙にも敵同士が就寝し夜が更けていく。
少しずつ明らかになる敵達とこの世界の実情。
次回ウーノスの策とは。
不吉な風が吹く森へ足を進めた時、全てが動き出す。




