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第08話 ~宿屋~ #2


**************


 どこかの部屋から、ギシギシドシドシとベッドが揺れる激しい音がする。

 夜も更けてどこかの部屋のカップルが、盛り上がっていてもおかしくはない。

 だがそのせいで宿屋の2階にあるこの部屋の雰囲気が、気まずいようなお互い恥ずかしい空気になっている。


「俺は呼んでくる、使えそうなやつを。

 ウーノス、お前がまとめろ、俺がいない間」


 手足が長く、猫背の男はそう言い残すと窓から飛び出していった。


 部屋に残ったのは、若い男女と中年の体の大きな男。

 二日前、サユを襲った3人だ。


 この村に窓ガラスはない。

 大きな男が木戸を閉めた。


「私を襲ったら、切り落とすからな」


 微妙な空気を変えるように、マフラーをした女が言う。


「俺には愛する妻と娘がいる」


 少し回りくどいが、低い声で誠実に答えたのは中年の男。


「悪くねーけど、あんま趣味じゃねーなおまえ。

 まあわかったわかった、とりあえず今は仲間だしな」


 マフラーの若い女、フィアにとって、

手足の長い男オレギンに雇われて集められて数日、

口数の多い若い男の言動にイラつかない日は無かった。

 若い男、ウーノスは話を続ける。


「まんまと逃げられたなドズ、フィア。

 俺様の邪魔をしなければ斬り刻んでやれたんだぜ。

 しかし俺達が探し回ってる間に、先に村に入られるとはな。」


「オレギンの親父め、

 先に宿に入って奴らの居場所を知ってたなら教えればいいものを。

 俺様達に無駄骨折らせやがって、食えねえ野郎だ!」


 ウーノスは粗末な木の机を蹴飛ばす。

哀れな机は一度浮き上がって着地、ギィギィと泣く。


 オレギンが情報を持っていたとしても、他の3人は別行動で捜索。

 それを伝える手段はない。

 もし下手にオレギンが歩き回れば、ターゲットのルコリー達は警戒して行方をくらますだろう。

 またターゲットを見失うならこの状態がベターだ、という事がわからないのはこの中でウーノスだけだろう。


「ここで暴れまわってもいいが、

 どこかの城国のお尋ね者になるのはいやだろう。

 ここいらなら、北のシーベケン城国か。

 イェンセンの悪党、ガガン3兄弟みたいに有名人になりたきゃ別だがな。

 奴ら、仲間割れで処理されて城門にさらし首、

 体は鳥葬だってよ。ハハハ馬鹿な奴らだぜ」


 長い話になると思ったのか、フィアはイスを引いて、ウーノスから少し距離を置いて座る。


「人前で斬りあえば即お尋ね者。

 戦争が終わって傭兵には生きづらくなったな」


 大きな体の男ドズがぼやく。


 悪名は足が速い。

 一度どこかの城国でお尋ね者になれば、周りの城国に知れ渡る。

 ガガン3兄弟程に悪名高くなると、

イェンセン・シーベケンの両城国の兵に追い回される生活に慣れ、

時々城内に出没しては、街の中を堂々歩き回るような奴もいる。


 山中でサユ達が斬った3人と逃げた一人も、イェンセンの外れで盗賊をやっていた者達だ。

 もしサユが、3兄弟を含めた彼らを斬った事が知れ渡れば、同じ傭兵でも褒め称えられるだろう。


 傭兵は正義の味方ではない。

 金を積まれれば裏の仕事をする人間がいる。

 今回の仕事も。

 この世界、それぞれが自分を生かす場所を探し求めて、多くのコミュニティが作られる。


 悪人や盗賊等も例外ではない。

 その者たちに、悪事をする為に雇われる傭兵もいる。

 それらの者たちから人々を守るために、村や町や城国に雇われる傭兵もいる。

 サユやその師匠、ここにいる3人のように個人に請われて雇われる者もいる。


 大きな戦争が終わって10年、小さな争いは絶えない。

 その為に傭兵という仕事にまだまだ需要はある。

 そして傭兵もまた、自分を生かす場所を探し求めている。


 だが、大きな争いが無くなった現在では、武器を持って歩き回る彼らを良く思わない風潮もある。

 ウーノスのように、仕事以外に趣味で人を殺すのを自慢する輩もいるからだ。


 ここにいる3人はプロだ。

 お尋ね者になるようなヘマはしないし、したくない。


 ウーノスの話は続く。


「投げナイフの女は想定外だったが、こっちは3人だ。

 とにかくピンク頭の女を殺ればいい。

 それよりわからねぇのはあの白杖の女だ」


 興味がなさそうにあらぬ方向を向いてたフィアが、ウーノスを見る。


「あいつ完全に目が見えねえって聞いてたぜ。

 楽な仕事だと思ってたら、何故だ!

 何故アイツは俺様の剣を受け流せた?」


「俺が足場を崩さなければ、2人の攻撃はほぼ防がれていたな」


 ドズが応える。


「そうだ、そうなんだクソッ!クソッ!クソッ!何故だ!

 あの女を切り崩せなければ、ピンクの女にたどりつけん!

 何か裏が、カラクリがあるんだぜ!


 この天才ウーノス様の剣が、

 目の見えない女に防がれるなんていい笑いものだ!

 気持ち悪いんだよ、このままだと!

 なあお前らもそうだろう!?」


 ウーノスの黒目が、神経質そうに激しく動き回る。

 返答はなくても話を続ける。


「そこでだ、」


 ウーノスの顔が暗い笑顔に歪む。


「俺様が罠を張る。

 そしてあの目隠しのガキのトリックを暴く。

 この村から北へ向かう道は一つだ。

 途中の森で待ち受けるから、お前たちは奴らを誘導しろ」


「なんだ、偉そうに」

「待てフィア、オレギンはこいつに後を託した。

 従ってやろう」


 つっかかろうとするフィアをドズが止めた。


「黙って見てなよ、2人とも。

 俺様の頭の出来がお前らと違うのを見せてやるぜ」


 ここで会議はお開きとなった。

 激しいベッドの音もいつしか止んでいた。

 ベッドの音が目的の女2人の喧嘩だという事を、ウーノス達3人は知る由もなかった。 


 小さな村の一つ屋根の下、奇妙にも敵同士が就寝し夜が更けていく。

少しずつ明らかになる敵達とこの世界の実情。

次回ウーノスの策とは。

不吉な風が吹く森へ足を進めた時、全てが動き出す。

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