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第08話 ~宿屋~ #1

      23/30


 「顔の傷って、その10年前の?」


 特に何の考えもなくルコリーは聞いた。

 聞いてからしまった、と思う。


 女性の顔の傷。

 これはモミジさんが言うようにかなりデリケートな話ではないだろうか。

 それを軽く聞いた事に少し後悔する。


『……ん。寝る』


 肯定のような否定のような、意外に短い答えが返ってきた。

 サユはすぐに寝息をたてて、寝入っていた。

 その速さに驚かされる。


「………」


 ルコリーは暫く目隠しをずっと見つめていた。


………


「やっぱり傷見せてよ」


 ベッドは2つしかなく、一つはモミジが既に寝入っている。

 夜になって下着姿になった2人がベッドに座って、さあ寝ようかという時にルコリーが言い出した。

 服は梁と梁の間にかけられたロープから、洗って吊るされてる。


 宿にはたいてい蒸気屋スチーマーさんが常駐しているか、

掛け持ちして回ってくる。

 衣類やモノの水分を蒸発する職業魔法を持つ人である。

 仕事中、蒸気をモクモクとたててるので、その名で呼ばれている。

 明日の朝、この宿に来るらしい。


「その、イヤならいいのよ。

 でも軽い気持ちで、とか興味本位でとかじゃない。

 寝るのに、その…やっぱり邪魔じゃない。

 変に気を使われるのもいやだし」


 まあ、確かに。

 気を使って今みたいにルコリーにモジモジされるのも気持ち悪い、と思うサユ。

 サユが手を泳がせて、ルコリーの太ももに触れて手を置く。


『私はいいけど、驚かないでね』

「んん…保証はできないけど…それほどなの?」


 ゆっくり目隠しをはずす。

 ルコリーが緊張しているのがわかる。

 長い前髪を片手で上げる。


『…………』

「………………………………」


 ルコリーがサユの顔に両手でそっと触れる。

 しばらく無音が続く。


「…こんな…酷い…こんなむごい事が出来る人間がいるの?…」


 ルコリーの嗚咽が聞こえてきた。


 サユは驚いた。

 怖がられたり驚かれたりする事はあったが、泣かれるのは想定外だった。

 むごさで言えば、この数日で何人かの男の頭を斬り割ったサユの方が勝っている。

 しかし「深窓のお嬢様」には、顔の上に左右に走る裂傷の痕を見るのは泣く程怖いだろう。


『やっぱり泣き虫ですねぇ。

 …えーっと、白目なのは義眼だから。

 黒目入っていると、すぐ左右違う方向向いて直すのが面倒なのよね…』


 熱いくらいの視線を感じる。

 サユは段々恥ずかしくなってきた。

 長い前髪を下ろす。


『えーっと…やっぱり目隠しして寝るから、泣かないでください』

「…ごめん、もう大丈夫」


 鼻をすすって、顔を濡らす涙を拭くルコリー。


『やっぱり怖いでしょう』


 自嘲気味に聞くサユ。


「だから大丈夫だって。

 痛々しいと思うけどほら、前髪でほとんど見えないじゃない」


 と、返ってきた。

 ただのわがままお嬢様かと思ったら、

意外とそうでもないのかもしれないとサユは思う。


「誰にやられたの?」

『敵の、ガラントの傭兵。師匠に敵対してた男で私を人質にした時にグッサリと』

「すごい痛かったんじゃないの?」

『もう昔の事だし、小さい時のことですから。

確かすぐ気絶したと思います』


 ルコリーがまた鼻をすする。

 なにか気まずい。


『昔々、目を失なった少女がいました。

 外にも出れず、部屋に籠ってばかりいました。

 周りの大人達は気を使って、少女の気の済むようにさせていました。』


『するとある日、大きな女が窓から入ってきて、

 少女を外に連れ出すと木刀を持たせました。

 大きな女が言います、「やることがないなら木刀振ってなさい」と。

 部屋に籠る事に飽きてきていた少女は、

 言う通りに毎日毎日木刀を朝から晩まで振っていました。


 これが師匠の出来る限りの最大の優しさだったんだから、笑えるでしょう』


 ルコリーが真面目に話を聞いてる。

 あれ? 笑えるところではなかったらしい。


『これが、剣士サユの誕生の瞬間だったのです』

「…………」


 ますますおかしな空気になる。

 こういう時に冗談の一つも言えないからクソ真面目なんだ、といつも師匠に笑われる。


『…ね、寝よっか』

「うん」


 ルコリーは今何を考えているのだろう。

 同情だろうか憐憫だろうか。

 そんな風に思われてこれから旅を続けるなら、傷を見せるべきではなかったと思う。


 2人並んで横になった時、肘に覚えのある柔らかいものがあたる。

 サユがルコリーに突然抱きついた。


「!! ちょっと、何よこらっ!」

『これよ、夢だと思ってた!これだったのね!』


 ルコリーの大きな胸に顔をうずめるサユ。


「ばかばかばかばか!離れろーー!!」


 頭を何度もはたかれたが、痛くもかゆくもない。


『いやだっ。

 女の子ってこんなに丸く柔らかくなれるのね、

 あなたってこんなに無駄な肉が付いていたのね、

 気持ちいい!!』

「無駄な肉じゃない!太ってなんかないし!

 お前はエロオヤジかっ、変態変態変態変態!!」


 頭を拳でグリグリされる。

 しかし顔の前の気持ちのいい柔らかさの方に夢中で

気にならない。

 ほんのりと甘いようないい匂いがする。


『ルコリーの為に傷を負って戦ってるのは誰ですか!

 目に傷を負った可哀そうな可哀そうな私を慰めなさい!

 こうして抱きついてるだけだから、

 抱きついてるだけだからっ!』


 ついに頭に肘打ちを入れられた。

 本当にもう少しケガ人に優しくして欲しいと思うサユ。


「女同士でも気持ち悪いわーーーー!

 さっきのわ・た・しの・な・み・だを返せーーーー!」



 隣のベッドの喧噪にモミジは目を覚ます。

 仲良くやってほしいものだ、いや仲良くやってるのかと思いながら寝返りをうつ。


「とりあえず、うるせーよ」


 と呟いて再び目を閉じる。

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