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第07話 ~潜伏~ #3


      23/30


「むぅ~~~~~っ」


 ルコリーはしかめっ面で鏡に向かう。

 手間のかかる山盛りシニヨンをあきらめて、

 両サイドに分けてまとめるがクセが強すぎて、大盛り縦ロールになる。


「まぁ、いっかー。

 私ってどんな髪型でもかわいーし☆」


 舌を出して、鏡の自分にウィンクする。

 少し屈んでいるので、シャツの間からシンプルなブルーの下着が覗いた。


 ベッド上でモソモソと動く音が聞こえた。


「あー起きたー?」


 ベッドの側へ歩く。

 目隠しで目を開けたのかわからないが、

額の濡れタオルを取っているところなので起きたとわかる。

 ルコリーは椅子を粗末な食卓から持ってきて、ベッドの脇に座る。


「傷の具合はどーお?熱は下がった?」


 サユが右手を差し出す。

 それを両手で握るルコリー。


『ここはどこ? どのくらい寝てました?

 かわいー☆お嬢さん』


 サユが魔法の声で語りかける。

 その声は直接か間接的にサユに触れていないと聞こえない。


 さっきの独り言を聞かれてたことに頬を赤らめたルコリーは、

軽くチョップを繰り出す。

 それが頭にヒットした。

 いつもなら手で払われるのだが、やはりまだ本調子ではないらしい。


「3日目のお昼。

 それと小さな村だけど宿屋があった。

 きったなくてボロいけど無いよりマシだったわ」


 古い粗末な木造の2階建ての一階の一部屋。

 他に宿泊客がいるのか、二階の足音などが時々響く。

 村全体同じような建物の平屋が並ぶ。

 二階建ては宿屋だけのようだ。


『モミジさんは?』

「見張りだって。村に近い見晴しのいいところにいるって」

『また時間を無駄にしましたね。早く発ちましょう』


 上半身を起こして、ベッドから立とうとするサユのお腹から大きな音がする。


 ぎゅるるるるるるるるるるるるる。


 相変わらずの無表情だったが、なんとなく照れているように見える。

 小さい変化でわかりにくいけど、ちゃんと表情があることに気が付きルコリーは笑った。


 今度はサユは少しムッとした。

 お腹が鳴ったことを笑われていると思っているのかしら、

と思うとニヤニヤ笑いが止まらない。


「モミジさんが、アンタが起きたらこのスープを食べさせろって」


 欠けた粗末な木の椀と木のスプーンを押し付けた。

 ゴロゴロ野菜入りスープを大人しく食べ始めるサユ。

 ルコリーは布団の上から膝あたりに手を置き、会話を続ける。


「モミジさんがもう一日は安静にしてろって。

 魔法効力のついた傷用テープ?

 そんなのがあるのね。

 それでほとんどの傷は良くなったけど、脇腹の傷は治りが遅いって」

『あの傷用テープ高いのにこんなに使って…』


 モミジさんの作業を手伝ったので知っている。

 腕とお腹は、そのお高いテープでぐるぐる巻きだ。

 あ、ちょっと落ち込んでる?

 サユの表情を見るのが楽しくなってきたルコリー。


『なぜ、目隠しを取らなかったのですか?』


 サユが顔を上げて聞く。

 今日はの目隠しはモミジがサユの荷物から適当に選んだ、

笑顔の太陽の刺繍が端にあるかわいい目隠しだ。


「あー。

 見ない方がいいって言われた。

 顔に傷があったらお前も見られたくないだろ、って」

『そうですか…』


 今度の表情はわからない。

 これが本当の無表情の状態なんだなーと認識する。


 サユがスープをすする音が響く。

 村の者は畑に出ていて、今ここの人口は夜に比べてはるかに低い。

 開け放した扉からは、どこかで飼われている鶏の声と、風になびく草の音しか聞こえない。

 のどかな時間が流れていく。

 日差しを反射して真っ白に光るカーテンが風に揺られているのを見ていると、2日前の逃走劇を忘れてしまいそうだ。


『落ち着いてる場合じゃないんですけどねぇ』


  サユの魔法の声が呟く。


「サユが動けないんじゃどーしようもないじゃん。てーいうかさー」


 返答の代わりに、少し頭を傾けるサユ。


「なんでまだ丁寧に話してるのよ。

 もう学院じゃないし、いつだったか乱暴な話し方してたし。

 歳も同じなのにさー。

 なんかお高くとまってるって感じするしさー。

 あ、私の家がお金持ちだから気をつかってるの、それともバカにしてる?」


 スプーンを椀に置くサユ。


『私の尊敬する人は3人いてね。

 一人は師匠、

 一人は兄のように慕っていた人。

 もう一人が師匠の相棒で、やさしくて礼儀正しくてかわいくてとても素敵な人だった。

 私はあの方みたいになりたくて、話すときはあの方を思い出しながら話すの…です』


 思い出に浸るあまり、一瞬「あの方」を忘れたらしい。

 なんか笑える、とニヤつくルコリー。


「ふーん、師匠以外は今は側にいないの?今、そんな話し方だったけど」

『10年前の戦争からずっと、行方不明です』

「あら大変ね。

 へー、戦争があったの。

 そういう事なら、まぁしょうがないかー」


 サユが椀を落としそうになった。


『ちょっと!』

「ふぇ?」


 珍しくあせった声が頭に響いたので、おかしな発音で返答してしまうルコリー。

 また首筋がムズムズしてきて肩をさする。

 サユの他人の体に響かせる魔法の声には慣れてきたが、たまに感情を込めた声を出されるとムズ痒くなる。


『ルコリーはあの戦争を知らないの!?

 ソリドニア地方を二分する、

 コンテリーガ城国とガラント城国が戦ったあの大きな戦争を!?』

「知らない。10年前でしょ。家の中にいてほとんど外に出してもらえなかったもん」

『ああーーー……

 確かに戦火から逃れるためにタウチット城国へ移り住んだ人も多いと聞いたけど。

 あれを知らない人がいるなんて。

 世の中はなんて不条理と不公平に出来てるの!』


 サユは異常な速さでスープをかきこむと、椀をルコリーのいる側の床に置く。

 窓の方に向いて寝て、布団を被った。


「えー、感じ悪ーい。知らないものはしょうがないじゃない」


 むくれるルコリー。


『………』


 サユは応えない。

 ルコリーは今、思いついた事をふと口に出してみた。


「顔の傷って、その10年前の?」


しばしの安息の中で、お互いの関係を手探りしている2人。

生まれも育ちも全く違う相性最悪に見える2人は、お互い歩み寄れるのか。

次回、奇妙に交差する敵と味方。探り合う男達と女達。

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